第26話

 イヤフォンから流れ出る音楽が心地よく、自分の脳を身体を安眠へ引きずり込む。ようやく身体も寝始め、意識を失いかけていた時だった。


 一気に目が覚める。それもそのはず梨々花がジャンプをして、僕の身体に飛び込んできていた。やっと寝れると思っていたのにも関わらず、無理やり起こされ、先程の姉妹喧嘩で疲れさせられたことに僕のイライラはMAXになった。


「あーもう!」

「お、お兄ちゃん?」

「寝てるんだから邪魔すんなよ!」

「ご、ごめんなさい」

「包丁を持ってくるわ、人を起こすわ、本当に住まなきゃ良かったよ!」


 自分でも気づかないうちに、言ってはいけないことを言ってしまったことに少し後悔していると梨々花は悲しそうに涙目になりながら言った。


「ごめんなさい。お兄ちゃん」

「分かればいいよ」

「お兄ちゃん、私たちお父さんにお話しておうち出てく」

「別にいいよ、今更そんなことしなくて」


 そう言うと梨々花は少し嬉しそうな顔をしつつも、どこか浮かない顔をして自室へ戻って行った。今まで甘やかしたぶん、言いたいことは言ったが、言いすぎた感じもして明日謝ろうと楽観的で居た。


 そして僕はそのまま目を瞑り、再び音楽を流しながら翌朝を待った。


 ☆☆☆


 翌朝のこと、なにかバタバタ足音がずっと鳴っていた。また梨々花が騒いでいるのかと思い、重い身体を起こして様子を見に行った時だった。茉莉姉さんはテーブルに美味しそうな朝食を置いて、どこか出掛けようとしていた。


「ね、姉さん?」

「龍介くん。梨々花どこ?」

「え?」

「梨々花居ないの」

「学校じゃないの?」

「ランドセルは部屋に置きっぱなし、梨々花だけ居ない」

「は、はぁ?!」


 僕は昨日の言い過ぎで、梨々花が家出したんじゃないかと頭に過ぎる。もし自分のせいで家出してそこから変なやつに連れていかれては本当に事件に繋がると思い、僕は急いで着替えて梨々花を探そうと外へ出た。


 姉さんには待っていてもらうようにして。


 思い切り飛ばしながら、町中駆けずり回るが梨々花の姿は一向に見当たらない。もしかしてと考えた公園にも姿が無ければ、町中のスーパー、古着屋などくまなく探したが見当たらなかった。


 僕が悪い。あんな言い方をしたから。

 そう後悔しながら、体力を回復するために歩きながらキョロキョロ探していると、ふと見えた交番に幼女の姿を見つけ、僕は急いで向かった。


 交番の中に入ると、そこには見慣れた髪の毛、見慣れた服装の梨々花の姿があった。


「なんです。あなたは」

「す、すみません。この子の義理の兄です」

「え?」


 警察官に少し警戒されつつも、梨々花が僕の方を見ないかとドキドキしていると、梨々花は振り向き、涙目で言った。


「お兄ちゃぁぁん……」

「梨々花」


 梨々花は僕に抱きつきながら、ずっと謝っていた。謝るのは僕の方なのに。


 すると警察官から言われる。


「義兄さんだったかな。妹さんから目を離しちゃダメだよ。この子なんも言わずただずっと下を俯いたままだったし」

「す、すみません」

「まぁ、今回は何事もなかったからいいけど。これが事件に繋がるんだから」

「はい。すみません」


 警察官は僕を汚物を見るかのような目で見ながら言った。


 僕は梨々花を引き取り、帰り道何も話すことなく家へ帰宅した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る