第24話
とろんとした目つきで僕を見る冴香の姿に、僕の心臓は破裂しそうな程にドキドキしていた。膝に置いていた手が徐々に上に上がって太ももまで差し掛かった時、声を上げて言った。
「ど、どうしたの?!」
「黙ってて。お願い」
あの優しい声は冷たく刺すような声に変わり、獲物を狙うかのごとく目つきをする。僕は襲われる。覚悟を決めて息を飲んだ瞬間だった。
ピンポン……。ピンポン……。
玄関のチャイムが鳴り響く。音に気づいたのか冴香はハッと目が覚め恥ずかしそうに耳を赤くしながら玄関まで走った。僕の心臓は未だに爆発しそうなほどにドキドキしていた。
それから数分経っても玄関から戻ってこない冴香が心配になりチラッと部屋から玄関の方へ目を向けた時だった。玄関には身体を震わせながら誰かと話す冴香の姿があった。
僕は怖い人にでも襲われそうになっているんじゃないかと不安になり、玄関まで恐る恐る向かうと聴きなれた声が聞こえる。
「龍介くん♡」
「ま、茉莉姉さん?!」
冴香と話していたのは茉莉姉さんだった。手には買い物袋をぶら下げ、袋からネギが飛び出していた。恐らく晩御飯の買い物をした帰りだったんだろうと思いながらも、何故この家のチャイムを鳴らしたのか、この家になんの用事があったのか不思議に思っていると、姉さんは僕に向かって言った。
「龍介くん。帰ろうね?」
「え、えっと?」
「龍介くん。なんでこんな家に居るの?」
「え?」
「龍介くん」
「は、はい」
「帰ろう?」
茉莉姉さんからは殺気ではない何か違うオーラが見えていた。ここで逆らっては冴香も僕もただでは済まないだろうと僕の本能が叫んだ。
「は、はい」
僕はただ茉莉姉さんに従っておこうと、頷いてカバンを持ちながら冴香の家からでる。
「お、お邪魔しました。冴香ちゃんまた学校でね」
「う、うん」
家から出て、冴香が家のドアを閉めた瞬間だった。茉莉姉さんは思い切り僕に抱きつき言った。
「ごめんなさい……」
「え?」
「邪魔してごめんなさい。龍介くんのだいじなお友達なのにごめんなさい。怒ったよね。ごめんね本当にごめんね」
謝り倒す姉さんに僕は許すしかなかった。
「い、いやいいよ。それよりなんでこの家に僕がいるって分かったの?」
「……直感」
「直感?!?!」
茉莉姉さんの第六感が働いて、僕の所在地を分かってしまっていたことに、僕はただ恐怖に包まれた。
僕はこれ以上迂闊な行動は出来ないなと思いつつ、姉さんとゆっくり帰ろうとした時だった。後ろからお兄ちゃんと呼ぶ、あの子の声がした。
「り、梨々花ちゃん?!」
「お兄ちゃん!」
「こんな時間に何してたの?」
そう質問をすると後ろから可愛らしい格好をした少女、そしてその後ろからカッコイイ顔をした男の人が現れた。
「すみません。梨々花ちゃんと私の娘がこの時間まで遊んでまして送ろうと」
「あ、すみません。わざわざ」
「いえ、ところで貴方は……?」
「あ、梨々花ちゃんの義兄です」
「あ、そうなんですね、すみませんこの時間まで」
「いえ、では僕たちはここで」
僕はそう言いながら梨々花を引き取り、梨々花の友達と友達のお父さんを姿が見えなくなるまで見送る。
「さ、帰ろう?」
この日は、梨々花がちゃんと友達いるんだということの安心感、茉莉姉さんは第六感があるんだという恐怖に襲われた日だった。
明日からどうなるのか、迂闊な行動はしないと心に誓ってゆっくりと3人で家に帰った。
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