第23話

 冴香と勉強し始めてから数十分経った頃のこと、高校入試にも出てくる引っ掛け問題や、高難易度の漢字読み問題などを解いていくうちに、冴香は疲れたのか背中を伸ばし始める。僕は目線を冴香に移すと、冴香は可愛い顔をしているにも関わらず、バンッと可愛くないほどの大きな果実が顕になる。


 僕は必死に目線を逸らして、【僕は見てない】と文字を箇条書きで何回も何回も書いていると、背中を伸ばし終わったのか冴香は僕の後ろから抱きついてくる。


 背中に柔らかい感触が襲い、僕の理性は吹っ飛びそうなくらいになっていた。だが、僕は一応柔道家という、精神コントロールが出来なければいけない立場にいる。だからこそ僕は必死に精神統一をして、冴香の胸の感触を忘れようとした時だった。


 冴香は耳元で囁く。


「ねね、りゅーくん。好き。付き合わなくていいから好きでいさせてよ。

「い、今はって」


 僕は冴香の言葉に引っかかりながらも、ただひたすらに勉強に集中したいがために、冴香に言った。


「は、離れて。今は勉強しよう?」

「えー。だって私宿題終わったもーん」


 冴香のノートを見ると、既に提出期限のある宿題を終えていた。ちらっと確認させてもらうと全問題ミスなく、完璧だった。このくらい学力があるなら1人で勉強してもいいのにと思っていたが、冴香は再び僕の耳元で囁く。


「今こんだけ勉強できるなら、俺来なくてよくねって思った?」

「え、あ、うん」

「分かってないなぁ〜」


 あのクールで近寄り難い存在の冴香が僕にベッタリなのはあの入学式の件があったからなのか、それとも別の理由なのか分からなかったが、ただ僕は冴香の家から早々と立ち去らないと理性が持たないと感じ、宿題をさっさと終わらせて帰ろうとした。


「え、帰るの?」

「う、うん」

「えぇ、ゲームしよーよ」

「わ、分かった。ちょっとだけなら」


 僕は冴香が上目遣いで言ってくる、魔の魅力に引っかかって帰ろうとした足を止めて、準備されたゲームのコントローラーを握っていた。


 ゲームのコントローラーじゃなく、自分の気持ちのコントローラーを握りたかったと後悔しつつ、冴香とともにゲームを始めた。


 冴香のゲームの趣味は変わっていた。女の子がやるとなると、勝手なイメージだが可愛らしい猫の育成ゲームだったりみんなで楽しめるようなパーティゲームだと思っていたが、冴香が用意したのはバリバリのFPSゲーム。


「ワンデス交代ねっ!」


 笑顔で冴香は言う。もしや冴香はオタクなのでは無いかと疑えるほど、プレイスキルも高く普段あまりゲームをやらない僕が冴香の目の前でやっていいのか恥ずかしくないかと思うほどだった。


「あぁ死んじゃったー!」

「つ、次僕?」

「うんっ!」


 僕はコントローラーをギュッと握りしめて、ゲームに集中していると、冴香はそれを見計らったように横から脇腹をくすぐる。


「や、やめて!」

「えいえい〜!」

「あ、死んじゃった……」

「ふふっ私の勝ち〜」

「こ、交代だね」

「ねぇ。ゲームより面白いことしよーよ」


 冴香が突然言い出した。僕が困惑していると冴香は立ち上がりおもむろに、横に座り僕の膝に手を当てた。


 何をされるか、何を言われるかドキドキしていると、冴香は先程の笑顔が完全に消えて、目がとろんとし始めた。

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