第21話

 数十分後の事、2人は和解したのか互いに握手して先程の殺意なんか感じないほどに仲良くなっていた。


 ただ、僕の目の前でやらないで欲しい。僕を褒めちぎるのは。


「龍介くんは朝の寝ぼけ姿がとても可愛くて〜」と茉莉姉さん。


「ランニングしてる時の横顔なんかめちゃくちゃかっこいいんですよ〜!」と優香さん。


 本当にやめて欲しい、そう思っていた時だった。優香さんは僕の頭を撫でながら言った。


「和解はしましたけれど、私は龍介さんが好きになっちゃいました」

「へぇ。龍介くんは私のものです。許しません」


 再び殺意が2人から湧いてくる。僕はもう嫌になり2人の頭を撫でながら、そして喧嘩をやめて欲しかったから、2人に怒り顔で言った。


「もうやめてください。2人とも!」

「……ごめんなさい」


 2人は少し照れ顔で、そして少し悲しげに僕に謝る。喧嘩を辞めてくれた事に嬉しさがあったが、これでは終わらないんじゃないかと不安が残りながら、優香さんと別れ、茉莉姉さんと帰る。


 帰り道、僕は茉莉姉さんに聞いた。


「茉莉姉さん。なんで喧嘩したの」

「だって、龍介くんは私がずっと面倒見るの」

「僕は自由に恋をしたいよ」

「龍介くんの周り女の子ばかりでお姉さん寂しくて」

「僕は中体連好成績を残したら九州の高校に行きたいんだ。それを相談するつもりなんだ」

「えぇ?!」


 そうこの時僕は決めていた。もし仮に中体連全国大会で優勝、或いは準優勝をしたら九州の柔道がとても強い高校に行こうと。


 家に着くまで無言を貫き通した茉莉姉さんがとても心配だったが、不安だった高校について打ち明けられたことに安堵していた。


 すると梨々花ちゃんはランドセルを背負いながら言った。


「2人とも学校は?」

「え?」

「今日平日だよ?」

「し、しまったぁ!!!」


 既に時刻は7時40分を回っており、今から出てもギリ間に合うかくらいだった。僕は急いで5分でシャワーを終わらせて制服に着替えて家を飛び出した。


 ☆☆☆


 学校に着いたのは8時30分ちょっきりで、席に着いた時ちょうど担任が入ってくる。


「おはよう諸君。中体連も終わり、全国への切符を掴んだ子はおめでとう。それ以外の子は受験の頭に切り替えよう」


 担任からの挨拶が終わり、1時間目の授業まで少し時間が空いた時だった。後ろの席の冴香ちゃんが僕の背中をトントンとつつき呼ぶ。


「おはよう。冴香ちゃん」

「ん。ね、今日遊びに行かない?」

「あー、勉強しなきゃ」

「じゃあ、私の家でも」

「……んー」

「お姉さんたちが心配?」

「ま、まぁそれもあるんだけど」

「大丈夫。来てよ」

「わ、分かった」


 僕は放課後冴香ちゃんの家で勉強をすると約束を取り付けて、授業に集中した。

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