第20話
土曜日ということもあり、僕は色々と慌ただしくなってしまい【優香さん】との約束を果たせなかった分、今日会えるかなとドキドキしながらあの場所に向かうと、優香さんは居た。
「ゆ、優香さん!」
「あっ!」
「すみません」
「やっと来てくれた。ありがと」
「いえ、こちらこそすみません。お約束してたのに」
「いいのよ。ずっと待ってたから」
優香さんは約束を破っていた僕に対してとても優しく接してくれていた。僕はただ優香さんに惚れそうなくらい嬉しかった。
「じゃ、行こっか!」
「は、はい!」
ゆっくりと疲れが感じない程度に走りながらいつものランニングコースを回っていると、朝早くからウォーキングをする老婆や
カップルっぽく見えているのかなと期待を込めながら聞き耳を立てると、老爺たちは大きな声で言った。
「仲のいい姉弟だねぇ〜」
僕はそんなにも子供っぽく見えるのかと少し残念がっていると、優香さんは見かねて僕の耳に囁いた。
「大丈夫。じゅうぶん大人だよ」
「へ、へ?!」
童貞丸出しな反応をしてしまったことに恥ずかしさと、そして優香さんのふわっといい匂いがしたことで、僕はいつもより体力が持たず、近くの公園で休もうとベンチに腰掛けた。
「お疲れ様」
「優香さん。お疲れ様です!」
「大丈夫?」
「あ、はい。最近ちょっと色々ありまして」
「私も色々心の変化があってさ〜」
「好きな人でも?」
「こらっ。そんな簡単に聞かないの〜」
僕の頬をぐりぐりとしながら微笑む優香さん。僕はただその優香さんの姿が可愛らしく、そして美しく感じていた。
そんなふうに会話を弾ませていると、どこからか物凄く鋭い殺気が僕の背中を襲う。寒気が走り冷や汗をかきはじめた頃、優香さんが僕の背中側を指さしながら言った。
「ど、どちら様で?」
「私、龍介の彼女で茉莉と言います」
「へ、へぇ……」
優香さんは僕の方を見ながら聞いてくる。
「ほ、本当に彼女さん?」
「い、いえ、義姉でして!」
「へー。綺麗なお姉さんね?」
「……あはは」
優香さんはちらっと僕の方にウィンクをしつつ、茉莉姉さんの方を向いた瞬間喧嘩を売るように目付きを鋭くさせて言った。
「今私と龍介さんはランニング中でして、お姉さんはなんの御用で?」
「あら、てっきり貴方が龍介くんを陥れようとしてるのかと思って助けに来ただけですけれど?」
「あらあら。私がそんなふうに見えるなんて頭の悪い方なんですの?」
「あらぁ。優香さんでしたっけ。喧嘩を売っているなら買いますよ。おほほほ」
「……」
「……」
互いに謎の睨み合いが発生し、僕はそそくさと逃げようと二人の間を抜け始めた瞬間首根っこを掴まれる。
「どこ行くの」
茉莉姉さんの冷たく鋭い声、首根っこを掴む優香さんの力強い握りに僕はただ逃げたかった。
この争いが終わったのは数十分後の事だった。
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