第17話

 僕は坂上に挑戦状を叩きつけられてから数ヶ月間の間、冴香ちゃんの遊ぶ約束も、梨々花ちゃんや茉莉姉さんとの関わりもほぼ遮断し、筋トレや柔道の練習に明け暮れ、そして訪れた7月の中体連。


 僕と坂上は同階級で、トーナメント表を見る限り決勝までは当たらないように組まれていた。この日、茉莉姉さんや梨々花ちゃん、クラスメイト全員が見に来るという異常事態にまで発展していた。


 僕が身体を揺らし、準備運動をしていると監督から呼ばれる。


「龍介。こい」

「はい」

「お前、坂上に勝てるのか?」

「はい。勝つつもりでこの数ヶ月間、練習に打ち込みましたから」

「なら良いが。決して油断するなよ」

「はい」


 僕は自分の1回戦の試合が来るまでの間、2人の義姉妹と一緒にごはんを食べようと向かうと、義姉妹は笑いながら会場内で楽しそうにしていた。


「姉さん、梨々花ちゃん」

「ん。龍介くんっ!」

「お兄ちゃん頑張ってね?」

「うん。ありがとう」


 ご飯を食べ終わり、再び準備運動を開始しつつ坂上の1回戦の様子を見ていると、別人かのように強くなっていた。


【始め】という合図から、ものの15秒で敵から一本を取る。


「坂上……」

「龍介。お前の強さも見せたり」

「はい。監督」


 僕の1回戦が始まった。クラスメイトからの声援、会場内に響き渡る審判員の【始め】の声でバッと気合いが入る。


 僕は早めに早めに倒して体力を温存しようと、相手からささっと引き手と釣り手を取り、投げて1本を取る。


 会場内に響く僕や坂上の応援団の声援はとても強く背中を押してくれていた。


 数時間後の事だった。決勝前に僕は再び義姉妹の元へ向かうと梨々花ちゃんは退屈だったのか寝てしまっていた。


「姉さん」

「うん。大丈夫勝てるよ」

「ありがと」

「ねね、龍介くんこっちおいで?」

「ん?」


 茉莉姉さんの傍に行くと、茉莉姉さんは勝てるようにと頬にキスをしてくる。僕はそれに凄く恥ずかしがってしまい、思わずバッと離れて決勝の会場まで向かった。


 ちらっと冴香ちゃんの姿が目に映った時だった。冴香ちゃんは茉莉姉さんを強く睨んで、普段僕に見せる表情ではない豹変ぶりに、僕は驚いて、思わず2度見してしまった。


 すると後ろから頭をパンッと叩いて、「気合い入れろ」と監督から喝を入れられる。


「……よし。いきます」

「おう。龍介負けんなよ。坂上も応援してやりてぇが、あいつは動機が不純だ。純粋に全国狙うやつの邪魔だけはさせるな」

「はい」


 名前が呼ばれ、畳を1歩1歩踏みしめるように歩き向かい合わせになり【始め】の挨拶で試合がスタートした。

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