第16話

 体育館に向かうと、既に皆ジャージに着替え終わっており、僕だけが完全に取り残される形となっていた。更衣室に行き着替えようと更衣室の奥の方へと足を運んだ時だった。


「龍介」

「さ、坂上?!」

「おう。あのさ、お前話しあんだけど」

「な、なに?」

「俺が冴香の事好きなのバラしたか?」

「は、はぁ??」

「俺は誰にも言ってなかったんだぜ。なのにクラスに広まってんだよ。どういう事だ?」

「し、知らないよ。僕は一言もそんなことを口に出したことは無いし、坂上は親友だ。親友の大事な情報を渡すかよ」

「あっそ。そう誤魔化すならそれでいいよ」

「坂上?」


 坂上は何故か僕が言いふらしたと勘違いしていた。確かに今考えてみれば先程の冴香ちゃんの言葉が引っかかる。


【坂上くんが私の事好きだって結構前から聞いていて】という言葉、誰から坂上が冴香の事が好きだと聞いたのか不思議で仕方なかった。


 明日の放課後遊びに行く約束を取り付けているから、そこで聞くべきなんだろうと思考をめぐらせていると授業開始のチャイムが鳴る。


 急いで着替えて教師の元へ行くと、坂上から痛いほどの殺意が僕の背中を突き刺す。どうして真実を知らないのに、僕に対して敵意を持つのか分からずイライラしていると、今日の授業はバスケだと知らされる。


 もしかしたら坂上に攻撃されるんじゃないかとビビりになり、僕は坂上に近づかないように適切な距離を保ちながら授業に望んだ。


 4時間目の授業が終わるチャイムが鳴った瞬間、僕は走りながら坂上の腕を掴む。


「離せよ」

「話しがある。着いてこい」

「あ?」

「いいから来い」

「俺給食当番なんだけど?」

「……分かったよ。放課後だ」

「あーはいはい。どーせ俺は言いふらしてませーんって誤魔化すための話しなんだろ?」

「ちげぇって!」


 坂上がとても卑屈になり、完全に僕のことを信用していない様子に、ただただ自分に不甲斐なさ、そして坂上の【冴香が好き】という情報を漏らした奴を徹底的に懲らしめようと僕は動き始めた。


 給食時間のため、今は教室に戻り昼ごはんを食べた後に昼休みに入る。そこから僕は冴香ちゃんが帰っていないかを確認するために保健室に向かうと既に帰宅済みだった。


「龍介くん。どうしたの?」

「いや、すみません。冴香に聞きたいことがあったので」

「それにしても浮かない顔じゃないの」

「い、いえ。失礼しました!」


 早々と消え去ろうと保健室のドアを開けた瞬間だった。負の連鎖なのかちょうど坂上とぶつかってしまう。


「ご、ごめん」

「別に。じゃあな」

「ま、待てよ。僕じゃないんだって!」

「もういいよ。お前は中体連で全国行けなくさせてやるから」

「は?」

「てめぇの体重に合わせてやるってんだよ」

「お前が僕に勝てるとでも?」

「喧嘩売ってんのかお前」

「もう良いよ。お前がその気なら、僕は受けて立つよ」

「恥かいても知らねぇからな龍介」

「そっちこそ」


 僕は勢い任せに坂上に喧嘩を売ってしまっていた。もう元には戻れない。その関係性にまでなってしまった事で、坂上の情報を言いふらした奴の事なんか関係なくなってしまい、ただ僕は坂上を潰すために柔道の練習に明け暮れる日々になっていった。

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