第18話

 試合がスタートして、3分があっという間に経ち【ゴールデンスコア】というどちらかが技のポイントを取るまで終わらない試合へと変わっていった。僕は正直ここまで手こずるとは思わず、坂上の強さに翻弄されていた。


「龍介こいよぉ!」

「うるせぇ……!」


 組手争いにも負け、僕の勝ちが薄れていた時だった。会場内から坂上の声援が増え始める。攻めあぐねいている僕の勝ちが薄いと感じたクラスメイトも坂上につき始めた。


「これがお前と俺との差だよ。俺はお前を倒して、冴香の心も手に入れてやる」

「中学生らしくない台詞だな!」

「お前は中学生らしく、人の好きな人を言いふらしてるけどな」

「それは僕じゃねぇって言ってるだろ!」


 僕の腕が坂上の奥えりに届き、奥襟を掴みあげて僕は必死に勝てるように内股を仕掛けると、坂上は体重を落としたせいなのか体幹が弱っていて僕の内股を避けきれず畳に倒れ込む。

 たった一瞬での勝負に、僕はただポカンとしたまま畳に座っていると、最高の歓声が聞こえる。


「よくやった!」

「かっこよかったぞ2人とも〜!」

「最高の決勝だったぞぉ!」


 僕はちらっと応援席の義姉妹を見ると、2人とも笑顔で勝ちを喜んでくれていた。そして視点を移し冴香ちゃんの方をちらっと見ると、冴香ちゃんは泣きながら嬉しそうに僕の勝ちを喜んでくれていた。


「ほら、2人とも立って」

「あ、はいすみません」と坂上。


 僕も指示に従い立ち上がり、礼をして試合を終えた。畳を降りると監督は少しうるうるとしながら僕の全国出場を喜んでくれた。坂上は泣きながらトイレへ走り込んで行った。


 会場内からの歓声がなりやんだ頃、僕は義姉妹の元へ駆け寄り、応援してくれたことに礼を言おうとすると、義姉妹は僕の両頬にキスをして言った。


「かっこよかったよ!」

「あ、ありがとう。姉さん、梨々花ちゃん」


 そして応援してくれたクラスメイトの元へ向かうと、クラスメイトたちは僕の肩を叩きながら勝利に喜んでくれた。


「かっこよかった〜!」

「最高の勝負だよ。お前ら焚き付けるためにあいつが冴香のこと好きだってバラしたかいがあったぜー!」


 僕は「ありがとう」と言いながら、ふと気づく。


「誰だ今、坂上の情報ばらしたって言ったやつ!」

「え?」

「お前か?!」

「あぁ、俺だけど」

「お、お前のせいで俺らはしたくも無い喧嘩したんだぞ……」


 僕はカッとなり、そいつを殴ろうと拳を握った瞬間、腕を掴まれる。


「誰だよっ!」

「俺だ」

「さ、坂上」

「疑って悪かった。許してくれ龍介。それと優勝おめでとう」

「坂上……」

「お前と戦えてよかった」


 坂上は自分の情報をばらした奴をどこかへ連れて行った。誤解が晴れて良かったのと、坂上から最高の言葉を貰えたことで嬉しさ半分、坂上と全国へ行けなかったことへの悲しみ半分になりながら、中体連が幕を閉じた。


 監督が車で僕と義姉妹、坂上を乗せて送ってくれるということになり、車に乗り込んだ後に梨々花ちゃんと姉さんが熟睡した頃、僕と坂上に監督は言った。


「お前らの戦い、中学生のレベルを超えていた。坂上、お前は高校に上がってから全国で戦う姿を見せてくれ。龍介はこれから全国が待っている。その戦いで良い高校への切符を掴んでくれ」

「はい!」


 僕と坂上は監督からの言葉に嬉しくなり涙を流しながら帰路へ着いた。


「坂上。また明日な」

「龍介。また明日から親友で居ていいか……?」

「もちろんだよ。坂上みたいに良い奴なんか居ないから」

「ありがとう。監督もありがとうございました」


 坂上は僕らより1歩先に家の中へ入っていった。数十分後に僕らも家へ到着した。


「監督ありがとうございました!」

「おう!」


 義姉妹は眠い目をこすりながら監督に礼をして家の中へ入る。


「姉さん、梨々花ちゃん今日はありがとね」

「うん」


 完全に睡魔に負けた梨々花ちゃんを僕はベッドに運び、布団をかぶせて寝かせた。キッチンに行き、茉莉姉さんとゆっくり話そうとソファに座った瞬間だった。


「ねぇ。龍介くん。今日話していたあの可愛い子は誰?」

「あ、冴香ちゃんのこと?」

「……冴香ちゃんって言うんだ。へー」

「ね、姉さん?」

「ま、いいけどね。ささ、疲れてるでしょ。お風呂用意してくるね」


 あの冷たい目つきをした姉さんに僕は怖さを感じながらその日を終えた。

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