第12話

 眠りに落ちてから何時間経ったのか分からなかったが、ふと目を開けるとまだ監督の車の中に居た。


「お。龍介起きたか」

「監督すみません。寝てしまって」

「謝るこたぁねぇ。試合あんだけ頑張ったんだ。そりゃ疲れが出て当たり前だ」

「はい。ありがとうございます」


 ふと後ろを見ると深雪さんも朝早くからの付き添いのせいかスースーと寝息を立てて寝てしまっていた。とても寝顔が可愛らしかった。

 そんなことを思っていると、監督は僕に声をかけてくる。


「龍介そろそろ着くぞ」


 僕の家が見え始めてくる。スマホをちらっと確認すると時刻は既に18時半を回っていた。


 家の前に車を停めてもらい、僕は監督に礼を言いながら車から降りて家の中へと入って行こうと玄関を開けると、監督は思い出したかのように車の窓から身を乗り出して言った。


「龍介、中体連期待してっぞ!」

「はい!」


 僕は元気に、そして期待をしてもらっている感謝を乗せて返事をした。車が立ち去っていくのを見届けて、今度はちゃんと家の中へ入る。


「ただいま帰りました」

「おかえり。龍介くん」

「茉莉姉さん。ただいま」


 数時間ぶりに帰ってきた我が家は居心地が良かった。普段なら母は仕事か、仕事終わりで疲れて寝てしまっているかの2択だったが、今は出迎えてくれる2人の姉妹が居るおかげで寂しい思いをしなくて済むようになった。


「茉莉姉さん。梨々花ちゃんは?」

「さぁ?」

「さ、さぁ?」

「うん。自室に籠ったまま出てこないんだ」

「また喧嘩したんすか?」

「違うの。勉強があるらしくって」

「そうですか。ならいいですけど」

「そんなことより、晩御飯も用意できてるし食べよ?」


 茉莉姉さんにやや強引に手を引っ張られながら向かった居間にはテーブルに豪勢な料理が並んでいた。


「こ、こんな高かったでしょ?!」

「中学生がそんなこと気にしないの」

「で、でも」

「いいからっ!」


 茉莉姉さんは僕を席に座らせて、梨々花ちゃんを呼びに梨々花ちゃんの部屋へと向かった。


 僕は目の前に広がる豪勢な料理たちにただただボケッと見とれていると、梨々花ちゃんは少し不機嫌そうに僕の背中目掛けて抱きついてくる。


「おわっ!」

「おそい……!」

「ただいま。梨々花ちゃん」

「ふんっ」


 梨々花ちゃんはどこか不機嫌だったか、背中に抱きついてくるあたり、完全に不機嫌という訳ではないようで、僕は少し安堵していると次は茉莉姉さんがやや不機嫌になっていた。


「……」

「なんか言いました?」

「なんでもないよ」


 梨々花ちゃんが僕に抱きついているのが気に食わないのか、それとも別の理由なのか全く分からずただ、黙って食に集中した。

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