第11話
大会の会場に着き、既に荷物や団体メンバーたちが集まる場所が確保済みだということを確認して、僕や監督、深雪さんは揃って向かった。
坂上も到着していたようで、既に柔道着に着替えていることから体重測定も終わらせたのだろうと、坂上の元へ行く。
「おはよ。坂上」
「おう。龍介」
「気合入ってるね」
「ここは絶対に落とせない。中体連のためにも」
「うん。そうだね」
この大会は坂上も言うように、僕や坂上のように全国を狙っている選手たちにとっては重要になってくる足場ともなる大会だった。
集中力を高めるために、これ以上坂上とも話さないようにして、1人単独行動をしようとその場を離れて体重測定へ行き、カバンを持ち歩きながら各自の練習時間までの間会場の外を歩いていると、深雪さんが着いてきていた。
「龍介くんっ!」
「あ、深雪さん」
「緊張してるねぇ〜」
「それはもちろん。この大会優勝すれば中体連前に全国が味わえるので」
「そうだね。ね、龍介こっち来て!」
「え?」
深雪さんが突然僕の名前を呼び捨てにしたかと思ったら、僕を近くに来るようにと呼びつける。何かと思い不安になりながら近づくと、深雪さんは僕の頬にキスをする。
「さ、頑張れ!」
「え、あ」
深雪さんは頬を少し赤くして会場内へ向かっていった。
僕は何が起こったのかわからずただボケっとしていると、スマホが鳴る。
「あ、はい!」
「龍介。戻ってこい。練習時間だ」
「今戻ります」
急いで会場内へ戻り、畳の感触、硬さなどを入念に確認し、練習を始める。自分の技の調子確認を済ませ、試合形式で3分の乱取りを2本行うが、どうにも深雪さんの行動が謎すぎて集中出来ないで居ると、監督から激が飛ぶ。
「そんな甘ったるい練習じゃ勝てねぇぞ!!」
「す、すみません!」
全てを忘れようと、何かないかと脳内を探ると寝ぼけた姿の梨々花ちゃんが思い浮かぶ。【ただ可愛かった姿】を思い出した途端、何故か集中出来るようになってしまった。
僕はロリコンなんかじゃないけど!
そう心の中で叫びながらも、練習時間を過ごし個人戦の時間までの間暴飲暴食を繰り返していると、自分の試合まで残り3試合になる。
「龍介そろそろだ」
「頑張れよ。龍介」
「1回戦は勝つよ。坂上もそろそろだろ?」
坂上はどこか緊張しているのか、顔が真っ青になっていた。こんな風に緊張に負ける坂上を初めて見た。そして同時に坂上のために勝って、坂上の気合いを高められるようにしようと僕はいつもの倍気合いが入る。
「いきます」
「龍介落ち着いていけよ」
「龍介くん大丈夫だからね」
深雪さん、監督の声援を受けて緊張が和らいだのか僕は自然に笑顔が漏れる。
試合が始まった。
結果から言うと僕は行った全ての試合で勝利を掴み取り、優勝した。坂上というと坂上も僕の試合に感化されたのか気合いがいつも以上に乗り優勝した。
☆☆☆
数時間後監督の車の中で僕はウトウトしながら眠りに落ちかけていた。
薄れていく意識の中、監督と深雪さんの話が微かに聞こえる。
「深雪お前、龍介のこと好きなんか?」
「えっ?」
「いや、お前普段人にきついのに龍介にだけは優しいじゃねぇか」
「そんなことないよ。別に」
「お前、同級生の男たちにいつもなんて言ってる?」
「汚い獣」
「龍介は?」
「カッコイイ一人前の男」
「明らかに違ぇじゃねぇか」
「お父さん。龍介くんには内緒にしてよ。それにお父さんは龍介くんと私付き合いたいって言っても反対なんでしょ?」
「……龍介はまだ中学生だ。それに今は中体連に集中しなきゃなんねぇ」
僕の耳に届く会話は全て幻聴なんじゃないかと思うこと、そして何故こんな急に女性が僕の元に集まるのか訳分からず、ただ今は寝たい。そう思った。やがて僕は眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます