第10話

 翌日の朝。朝4時半に目が覚める。

 大会の会場までは監督が送ってくれるということで、僕は忘れ物のないようにカバンに柔道着1式と会場で体重測定が終わったあとにがぶ飲み出来るコーラを詰めて、あとはキッチンでおにぎりを作ろうと向かった。


 2人がまだ寝ていると思い、僕は静かに抜き足差し足忍び足で音を立てないように歩いていると、キッチンから何やら物音がする。まさかとは思いながら向かうとそこにはキッチンに立って、もはや妻だとツッコミしたくなるほどに綺麗な姿の茉莉姉さんがいた。


「ね、姉さん?」

「あ、今日大会でしょ?」

「な、なんで知ってるの?」

「監督さんと連絡先交換してたんだ〜」

「えええぇ?!」


 あの時交換してるとは思わず、ただ驚いていると茉莉姉さんは僕に3つ大きなおにぎりを手渡してくれて、その後頬にキスをしてくる。


「へ?!」

「今日頑張ってね」

「が、頑張るよ。最期の中体連の足場にする」

「うん。あと少しで4月。3年生になるもんね」

「うん」


 そんな話をしていると、話声で起きたのか梨々花ちゃんは寝ぼけながら僕の背中に抱きついてくる。


「お、おはよ。梨々花ちゃん」

「にぃに。どっかいくのぉ?」

「うん。ちょっとお出かけ」

「きをつけてねぇ」


 寝ぼけている梨々花ちゃんはすこし、いやとても可愛かった。普段からこれなら良いんだけど、とここ数日の経験で思っていると僕のスマホに着信が入る。


「あ、おはようございます。監督」

「おう。龍介準備できてっか?」

「はい!」

「お前ん家の前まで来てっから」

「今行きます!」


 僕は忘れ物が無いかもう一度だけチェックして、茉莉姉さん、梨々花ちゃんに見送られながら監督の車に乗る。


「おはようございます!」

「おう。お前の義姉妹来なくていいんか?」

「あ、後で動画とか送るので大丈夫です」

「おう。あ、あと後ろ俺の娘居るから」


 そう監督に言われるまで気づかなかったが、確かに後ろには監督の娘さん、と言っても僕は初対面だったが居た。


「おはようございます!」

「ん。おはよっ」

「初めまして。龍介って言います」

「うん。お父さんからは聞いてるよ。凄く強いんだってね」

「い、いえそんな」

「謙遜しなくていいんだよ。私も何度か龍介くんの試合動画観てるけど、かなりセンスがあるしそれだけじゃなく技のキレ、バランス。投げられない体幹。理想的だよ」

「あ、ありがとうございます」


 かなり褒められ僕は照れてしまっていると、監督の娘さんは僕の頭を後ろから撫でながら言った。


「改めまして、監督の娘の【深雪みゆき】って言います!」

「あ、深雪さん宜しくお願いします!」

「うんっ。今日も期待してるよ」


 ニコニコと良い笑顔を見せ続ける深雪さんに僕はただ良い人なんだなと感じていた。すると監督は少し不機嫌になりながら言った。


「うちの娘に手を出すのは早いぞ龍介」

「え、いやそんなつもりは!」

「お前がオリンピック出るまで俺は認めねぇからな!」

「監督そんなつもりありませんって!」

「そんなつもりはねぇだってお前俺の娘に魅力がねぇってのか?!」

「そんなことも言ってませんって!」

「ふん。お前今日の大会優勝できなかったら覚えてろよ」

「監督怖いっすよ!」

「まぁ。お前なら大丈夫だろうけどな」


 そんな会話をしながら僕は梨々花ちゃん茉莉姉さんを上手く忘れれて、会場に大会に集中できていた。

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