第7話
土曜日を迎えた。僕はいつもより遅い時間に起きてゆっくりと過ごすことが多かったのだが、この土曜日は普段と違い梨々花ちゃんと茉莉姉さんの喧嘩の声で目が覚める。
「うるさいんだよ!!」
「ダメって言ってるでしょ?!」
何を言い争っているのかは分からないが仲裁役が僕しか居ないことに苦しさが増す。恐る恐る茉莉姉さんと梨々花ちゃんの声のする方へ向かうと、2人は醤油と胡椒を片手ずつに持ち合いながら、怒った顔で睨み合っていた。
「私は醤油がいいの!」
「私は胡椒なの!」
どうやら茉莉姉さんは醤油派で、梨々花ちゃんは胡椒派だったようだ。好きな方使えばいいんじゃないかなんて思ったが、2人には何故か譲れないプライドがあったようで、わーきゃーわーきゃーずっと叫びあっていた。
このままでは埒が明かないと思い、僕は2人の元へ行き、止めた。
「2人とも落ち着いて」
「龍介くん」
「お兄ちゃんは胡椒だよね?」
梨々花ちゃんにそう聞かれるが、何に胡椒なのか、何に醤油なのか全くわからず聞き返した。
「何で喧嘩してるの」
「お兄ちゃん聞いてよ。私ばっか虐めるんだよ。酷いよね」
「梨々花ちゃん」
「なによ。私が悪いみたいな目付き。ひど。さいてーなんだけど」
「僕の質問に答えてよ。何で喧嘩してるの?」
「目玉焼きには胡椒か醤油か」
「えっと、僕は塩派」
すると2人は驚いたのか目を見開いて、次は2人で塩の入ったケースを持ち合いながら再び喧嘩し出す。
「龍介くんの目玉焼きは私が作るの!」
「お兄ちゃんは私に聞いてきたでしょ!」
僕の手にはもう負えないと分かり、僕はその場からサラッと消えていき、財布を持って玄関まで向かった。
「どこ行くの?!」
茉莉姉さんのその声を無視して、外へ出てコンビニに向かう。こんな土曜日あってたまるか。そう思いながら、仕方なくカップ拉麺などを買い込んで、家へ帰宅すると玄関に茉莉姉さんと梨々花ちゃんは正座して僕を出迎えた。
「ごめんなさい」
「え?」
「龍介くん怒ったよね。ごめんね。私龍介くんに喜んで欲しかったんだ」
「茉莉姉さん良いよ。大丈夫だから」
「龍介くん優しいね。好きだよ」
「え、あ、うん」
茉莉姉さんの「好き」という言葉に僕はキョドってしまい陰キャが丸出しになってしまった。その恥ずかしさで耳が赤くなってしまった。
すると次は梨々花ちゃんが僕の目を見ながら言った。
「私のせいでごめんなさい。お兄ちゃんごめんね。私が悪かった。だから私を見捨てないで。ほんとにごめんなさい」
「見捨てるなんてしないよ。分かってくれたならいいし、喧嘩しないでね」
「はい……」
2人は余程反省したのか、ゆっくりとキッチンに向かって2人で仲良く料理を作り始めた。その光景に僕は嬉しさ反面、これからの不安反面だった。
土曜日の始まりが騒がしくなり、少し僕は嬉しかった。今まで母との2人きりで、音量10程度のテレビの音が大きく聞こえる程だったが、今は2人の女の子のおかげで寂しさがない。
これはいい傾向なんだろうな。そう思いながら朝食を頂いた。
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