第3話

 清哉さんは僕の目を見つめながら言った。


「俺は君のお母さんがどれだけの苦労をされてきたのか、お父様がいらっしゃらないなか、君がどう育ってきたのかは分からない。そして分かろうとも思っていない。分かろうとすること自体が失礼だから。だけど、だからこそ言う。俺は君のお母さんを不幸になんかしない。絶対にだ」


 覚悟の籠った清哉さんの言葉に、真剣な目付きに僕はただ笑顔を零した。僕の笑顔に清哉さんも驚いたのか真剣だった顔つきが緩む。


「母を何卒よろしくお願い致します。再婚に関しては、ですが」


 確かに清哉さんの言葉で再婚に関しては許せる、いや許すしか無かったが、ほかの件に関しては清哉さんや母の意見だけでは無理なものがある。僕は茉莉さんの目を見て言った。


「僕と住めますか。中学生であり、そして今年から受験期が始まり、僕もストレスが溜まるでしょうし不機嫌な時があっても」


 僕は茉莉さんの目を見ながらそう言うと、茉莉さんはニコッと天使のような微笑みを見せながら言った。


「私は貴方みたいな考えの固まっている大人のような子と住めるのは楽しみです。梨々花は分からないけれど」

「梨々花ちゃんはちなみに今日は?」

「梨々花は学校に行っています。堅苦しい場の雰囲気があの子は苦手なので。ただ伝言をひとつ受けとったので聞いてくれますか?」


 茉莉さんは僕の目をずっと見つめたまま言った。現実から逃げないように。僕は静かに頷きどんな言葉を言うのか内心ドキドキしているとあっさりした言葉が返ってきた。


「あたしはお兄ちゃん欲しかったしいいよの一言でした」

「それだけなんですか?」

「はい」


 そんな簡単な答えに、僕は良いのか迷っていると母や義理の父、茉莉さんは声を揃えて言った。


「難しく考えないで」


 その言葉でなるようになるだろ。そう思えた。だから僕は2人と住むことを約束し、そして毎週月曜日にお金が入るようにと契約して、堅苦しい話を終えると、母はニコッと今まで見せたことの無いほどの笑みを浮かべて言った。


「さっそく、今日から清哉さんと住むから♡」

「あ、はい」

「梨々花ちゃんは茉莉ちゃんがお迎えに行ってくれるようだから。龍介は心の整理つけて」

「うん、母さん元気で」

「えぇ。龍介もね。母さんに遠慮しないで大好きな柔道を続けていいんだからね」

「……うん」


 母はそう言い残し、清哉さんとともにタクシーに乗り込んで新婚生活を送るための住まいへと向かった。

 2人を見送った後に、茉莉さんと2人きりになってしまい家が居間が自室が不思議な雰囲気に包まれてしまった時、茉莉さんは急に僕の手を握りながら言った。


「これから宜しくお願いします。龍介くん」

「あ、えっと。はい」


 ぎこちない返事をして、茉莉さんの手からバッと離れて自室に向かってドタバタ走った。そしてドアを開けて普段使っている柔道着の匂いを嗅ぎながら僕は心を落ち着かせた。


 ただでさえ僕の通っている倶楽部では女の子のあまり居ないスポーツをしているおかげで、女の子の扱いに慣れていない。

 そしてそんな扱いに慣れていないのにも関わらず今は突如として義理の姉がそれも美人な人が居ることに緊張をしてしまっていると、部屋の扉がノックされる。


「あ、はい!」

「え、えっと今後のことで相談が」

「あ、今行きます!」


 僕はそんな緊張を吹き飛ばすように今後のための事を考えなければいけないと脳をシフトチェンジさせて、茉莉さんの元へ向かった。


 ソファに茉莉さんを座らせてお茶などを用意して話そうと面と面を迎え合わせて真剣な顔をしながら話し始めた。


 茉莉さんの横には大きい袋が何袋かあった。


「え、えと。まず改めまして龍介です」

「茉莉です。龍介くんより3つ歳上です」

「えと。高校ですか?」

「うん。龍介くんが今年15歳。私が今年18歳なんだ。私も受験期。大学行くの」

「そ、そうなんですね」

「うん。それで下着とかの衣類を仕舞いたいんだけど場所あるかな。あれば嬉しいんですけど」

「あ、それなら母さんが使っていたタンスとかで良ければ」


 僕は茉莉さんを母さんの部屋に案内すると、茉莉さんは嬉しそうに微笑みながら「ここ使っていい?」と聞く。僕は静かに頷くと先程置いてあった大きい袋を一生懸命運んでいた。


 僕は手伝おうとして袋に触れた瞬間手が重なり合ってしまい、茉莉さんはびっくりしたのか手を離して袋から沢山の衣類が飛び出してしまった。

 そこにはもちろん触れてはいけない、そして中学生男子を欲情させてしまうほどのえろい下着が落ちる。


 僕は見ないように、茉莉さんが拾い終えるまで目を潰すほどの勢いで瞼を抑えた。


 我慢しろ。僕。我慢しろ。我慢しろ!


 そう言い聞かせて、茉莉さんが「拾ったよ」という返事とともに目を開けた。


 これからどうなってしまうのか分からないほど未来が読めない茉莉さんと梨々花ちゃんとの生活に不安を覚えたまま、夕方になってしまった。

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