第2話

 客間から動けず、ただボーッと突っ立っていると母さんは僕の元にやってきて、客間の座布団を片付けながら僕に話しかけてきた。


「龍介、本当にごめんね。急で」


 母さんは先程まで男の人と居た時のような笑みは消え、ただ悲しそうな顔を浮かべながら、自分の幸せを放置してまで僕に謝ってきていた。

 僕は本当に【母が幸せになれるのか】なんてことを先程まで考えていたけど、結局それは僕自身だけの考えであって、母さんの考えなんて全て無視したことだと今更分かった。


 だから僕は母さんに言った。


「母さん。明日ちゃんとあの人と向き合うから時間くれ。ちゃんと考えまとめるから」

「うん。ありがと」


 母さんは静かに微笑みながら頷いてくれていた。そんな母の優しさが心に染みた。


 僕と母さんは夜20時に晩御飯を食べるが、その時間までの間ずっと自室にこもり、母さんの再婚と、そして僕と一緒に住むという2人の女の子の事を考えていた。


 もし仮にここでOKを出した時に出る問題は山積みだった。風呂の問題や着替えをしまう場所、部屋割り、布団の数など。

 それに見た感じあの女の子たちは1人は小学生は確定だが、お姉さんの方はまだ学生のような感じがしていた。


 勉強をできるスペースや、どんな物が食べれて何が苦手かなどの把握をしておかないと、などを考えていた時、ふと思った。


 あれ。僕はこれあの子たちと住む前提で考えてないかと。


 単純に住みたくないかと問われれば、女の子との生活ってウハウハで楽しそうだし、断る理由がない。なんならラッキースケベなんてあったらそれこそ男の僕からしたら幸せだ。


 そんなことを考えていたら、答えが見つかった。

 居間に行き母さんの手料理を食べ、自室に戻って勉強をして寝る時間になり布団に横たわり目を瞑り翌日を待った。


 ☆☆☆


 翌朝のこと母さんは中学校に連絡をして心労があるんじゃないかと、心配になって休ませてくれた。


 すると母さんが学校に連絡してから数十分後のこと、あの男の人と茉莉(姉)さんが訪れた。梨々花(妹)が居ないことに頭に?マークを浮かべていると、男の人は玄関の敷居をまたぐ前に僕の顔を見ながら言った。


「お時間頂きありがとう。俺も覚悟を決めてきた。考えを教えてくれると嬉しい」

「こちらこそ、わざわざ御足労いただきありがとうございます」


 昨晩調べた精一杯の挨拶をして、男の人を家の中に入れて、客間へと案内して互いに向かい合わせになるよう座り話し始めた。


「改めまして龍介りゅうすけさんのお母さんと結婚のお願いをさせてもらいます。清哉せいやと言います」

「はい。龍介って言います。よろしくお願い致します」


 堅苦しい挨拶をしていると、コトンッとお茶を置いた音が鳴る。その音のおかげで今の場の雰囲気がリセットされると、清哉さんは僕の目を見ながら真剣な顔つきで話し始めた。


「君のお母さんと出逢ったのは、実は数年前でね。その時から俺は情けないんだが妻のモラハラに悩まされていて、そんな時に君のお母さんが寄り添ってくれたんだ」


 母さんが仕事休みの時におめかしして出かけていたことは数回見た事があったが、まさかこの人と会っているとは思わず、僕は驚きながら何も言えず黙って話を聞いていた。


「俺はさ。君のお母さんに優しくされたから好きになったんじゃない。君のお母さんは君の話を楽しそうにするんだ。そんな姿に惹かれたんだ」

「そうだったんですね」

「勝手なことを言っているのは分かっているし、こんなことを言ってはなおさら君の機嫌を悪くさせてしまうかもしれないが言わせてくれないか?」


 清哉さんはこれ以上にないほどの真剣な目をしながら、僕を見ていた。そんな覚悟を無下にしてはそれこそ失礼で相手を、母さんの愛している人をバカにしてしまうと思い、僕は静かに頷いた。


「俺は君のお母さんを貰いたい。君が大好きな母を俺は君から奪いたいってなったんだ。優しさが欲しいなんてクソくだらないことじゃない」

「なんというか、母さんは僕のものではないですし、母さんは父さんが死んでから、本当に元気ぶってた。僕を育てている時も苦しそうな時があった。そんな母を幸せにしてくれるんですね?」


 僕は清哉さんに負けないくらいの真剣な顔で聞いた。


 清哉さんは僕が年下だからってなめないで真剣に言ってくれた。

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