第1章

第1話・出逢い

 小学校入学や、中学校の入学、高校大学と入学すれば環境は変わるし、人間としても成長し変わっていく。


 そんな中ある日のことだった。僕はいつも通り中学校生活を過ごし、いつも通り家へ帰っていた。


 僕の家は母子家庭であり、父親は僕が幼い頃から居なかった。母親の腕ひとつで育てられてきたのもあり、母親は大好きだ。だからといってマザコンというレベルでもない。


 僕が帰宅した後に、着替えを済まし居間に行った時だった。母は神妙な面持ちで僕に向かって話しかけてきていた。


「ね、ねぇ」

「母さんどうしたの?」

「話あるんだけどいい?」


 母はいつにも増してシワを作り、僕に声をかけてきた時には下を俯いていた。いつも元気な母がこんなふうになるのは父親が死んだ時以来だった。

 僕は覚悟を決めて、母に「うん」と返事をすると手を引っ張られながら、いつもなら客間として使用している部屋に連れられる。


 ガラガラッと扉を開くと、そこには可愛らしい女の子が2人、そしてその女の子たちの真ん中に座るイケおじとも言えるほどカッコイイ男の人がいた。


「これって?」

「あ、あのね。龍介りゅうすけあんたそろそろ高校生になるじゃない?」


 たしかに今は中学2年生であり、4月には中学3年生に上がり、そこから受験期ともいえる親が子どもがピリピリする時期が訪れる。


 僕は数分考えた後に、母に向かって頷いた。すると母は男の人の傍に行き、男の人の頬にキスをした。その瞬間僕は理解した。


「再婚。したいんだね?」

「龍介。お父さんが死んでから何年経った?」

「たしか僕が三歳くらいの時に父さんは死んだからもう10年は確実に経ってるね」

「だから、母さんもしかしたら龍介はやりたいことがあれば遠くに行っちゃうんじゃないかって思って寂しくって。だからその」

「わかった。いいよ」


 僕は母さんが喜べばなんでもいいと思っていた。例え相手が子連れだろうがなんだろうが。


 ふと男の人を見ると僕の返事の即答さに驚いたのか、僕の目を見ながら聞いてきた。


「い、いいのかい?」

「何がですか?」

「君は俺の名前も知らなければ、仕事はどういうふうなことをしているのか、横にいる女の子たちは誰なのかってことも知らない。そしてそれを聞かなくて」

「聞いても無駄でしょ。子連れだってことが分かれば他に聞くことは無いです。それに母さんが選んだ人なら僕は何も言うことありません」

「そ、そうかい。なら聞かれてないけど言うね」


 男の人はそう言い自己紹介を始めようとした。だが僕は「自己紹介なんていらない」と断ろうと口を開き言おうとした瞬間だった。


「パパ。茉莉まつり姉ちゃん。自己紹介より先に、まずは言うことあるんじゃない?」

「あ、あぁ。そうだな。梨々花りりか


 小さい女の子が、それもまだ小学校2年生くらいの子が父親に向かって言っていた。


 姉と呼ばれていた女の子は華奢な身体をしているだけでなく、出るとこは出ていて中学生の僕には酷な身体つきをしていた。


 そんなふうに2人を見ていると、急に梨々花(妹)と茉莉(姉)、そして2人の父親である男は僕に向かって言ってくる。


「本当にこんなことを言うのは酷だと思うんだ。だけど言わせてくれ。君たち3人に毎週30万振り込むから、君たち3人だけでこの家に住んでくれ!」

「えっと?」

「困惑するのも無理はない。だけど俺はまだ君のお母さんからの信頼を得ていない。だからしばらくの間君のお母さんと同棲させて欲しいんだ!」


 急に男から言われた内容に僕は戸惑いを隠せなかった。


 いきなり現れた男が、いきなり再婚相手だと言ってきて、そしていきなり男の居る部屋に女の子2人と住めと言ってきていた。


 僕は先程覚悟していた母さんの【再婚】について、本当に許していいのか、本当に母さんが幸せになれるのか。


 そして本当に僕が母さんの【再婚】を許して、僕が本当に【僕自身が幸せ】になれるのかを疑った。


 僕は気づけば男の人に言っていた。


「明日まで考えさせてください。急なことで先程までの覚悟が揺らぎました。先程はいいですよ。どうぞ。的な考えでしたが」

「そうですね。龍介さんの気持ちを整理してください。また明日この子達と共に来ます」

「す、すみません。本当に」

「謝らないで。俺も中学生の君に酷なことを言っているんだ。本当に許してくれ」

「い、いえいえそんな!」

「ありがとう。本当に」


 男の人はカッコイイ笑みを置いて、2人の女の子と帰って行った。母さんは玄関の外まで男の人を送ったが、僕は客間から動けなかった。


 これが僕と茉莉さん、梨々花との出会い。

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