第10話 スキルアーツ研究部
スキルアーツ研究部は、武器術とスキルを融合させたまったく新しい戦闘技術の創出を目的に設立された部活だ。
歴代部長の中には日本最強と名高いアイギス部隊の隊長、西園寺弥生の名前もある。
その活動で蓄積されたノウハウはスキル研究の分野にも大きな影響を与え、過去には著名な科学誌で特集が組まれたほどだ。
そんなスキルアーツ研究部が部員不足に陥った
「……チッ、生徒会長に寝取られたんだよ」
「寝取っ!?」
「正確に言やぁ、ウチの部員の殆どが生徒会長が部長やってる剣術部に移籍しちまったのさ」
「実際、あの会長が部長になってから剣術部の奴ら、目に見えて強くなったし、全員学内ランクめっちゃ上がったもんなぁ」
と、剃り込み坊主先輩とウニ頭先輩が大輝に顔を寄せこっそり耳打ちで補足してくる。
「そりゃぁ美人で優しい生徒会長から手取り足取り教えて貰いたいって気持ちは死ぬほど分かるけどよ……ッ」
「だからってアイツら、あんな裏切るみてぇな抜け方しやがって……ッ! 俺だって月見里会長から優しくご指導されたいわ畜生ッ!」
「おい、テメェら。全部聞こえてんぞコラ」
「「ひぃっ!?」」
リザ部長に睨まれ縮み上がるチンピラ先輩たち。
自分たちだけ辞め時を逃して、部長が怖くて残っているだなんて口が裂けても言えるわけがなかった。
「とにかく! あと二人集めねぇと部としての条件を満たせねぇ。アタシも先輩からこの部を託されて部長になったんだ。ここで潰させてたまるかよッ!」
「だからって下級生脅して入部届にサインさせるやり方は絶対間違ってると思うんスよ……」
「自分ら完全に悪役じゃないっすか……」
「うるせぇ! 文句があんなら他の部からダチの一人でも引き抜いてから言えってんだ、この見掛け倒しどもがッ!」
「「ぐぇぇ!?」」
首根っこを掴まれガックンガックン揺さぶられて顔を青くするチンピラ先輩たちを見かねて、大輝が慌てて三人の間に割り込んで部長を止める。
「あ、あの、部長! それ以上は! 二人とも顔が緑色です! 泡拭いてますから!」
「おい鋼、テメェも知り合いに声かけてこい! 明日までに二人連れてこなきゃコイツらの命はねぇと思え!」
「「ぐえぇッ、だずげで鋼ェェ……」」
「わ、わかりましたっ!」
チンピラ先輩たちがあまりにも不憫で、大輝は慌ててその場から駆け出して行った。
◇
その日の夜。
自分の部屋に戻った大輝はまずは影信に声をかけてみることにした。
「……そういうわけなんだけど、一緒にスキルアーツ研究部入ってくれない?」
「その流れで頷く奴ドMしかいないだろ」
「だめか……」
「大輝が入院してる間に体育館で部活紹介の時間があってな、各部がパフォーマンスを披露してたけど剣術部だけ次元が違ったからなぁ……。流石学内ランク一位なだけあるわ」
影信が端末に録画してあったレクの動画を大輝に共有する。
確かに影信の言う通り、剣術部のパフォーマンスだけ群を抜いて美しく、画面映えしていた。
まず部長の顔が良すぎる。そこに加えて達人級の剣舞が加わっては他の部のパフォーマンスが霞んでしまうのも無理はなかった。
「ま、見ての通り剣術部はレベルが違う。来るもの拒まずで希望者は全員入部させてるし、今から部員集めようとしても手遅れだと思うが」
「そ、そこをなんとか!」
「ま、ルームメイトの頼みだ。部員集めだけなら協力してやるよ」
「あ、ありがとう!」
「任せとけって。二人くらいすぐに集めてやるさ」
────この流れはお嬢のために使える。
頭の中で絵図を描きつつ、影信は笑顔で頷いた。
◇
翌日の放課後。
桧垣にスキルアーツ研究部に入ることを伝えると、桧垣は「ちょうどよかった」と大輝を連れて訓練棟へ向かった。
エントランスからエレベーターに乗り桧垣が七階のボタンを押す。
扉が開けばそこがスキルアーツ研究部の部室だった。
訓練棟のワンフロアが丸ごと部室になっているのは全部活の中でもスキルアーツ研究部だけである。
「遅ぇぞ鋼ェ!」
強化ガラスに覆われた訓練ルームで嵐のように大剣を振り回していたリザ部長が大輝に気づいて声を張り上げる。
「す、すみません! ……ここ、部室だったんですね」
「鋼は入院していて部活紹介のレクに参加できなかったからな。他の部を一通り見学させてから誘おうかと思っていたんだが、お前の方から入りたいと言ってくれて手間が省けた。ようこそスキルアーツ研究部へ」
スキルアーツ研究部顧問の桧垣が改めて大輝を歓迎すると、訓練ルームから出てきたリザ部長が大輝の肩に手を回しご機嫌な様子で口を開いた。
「喜べ鋼! 今日は入部希望者が二人も来たんだ! しかも全員女子だぞ! これで我が部は首の皮一枚繋がったぜ」
リザ部長がアゴをしゃくった先を見ると、クラスの女子たちがテーブルを囲んでお茶を飲んでいた。
「や、月見里さん!? 方波見さんに佐々良さんも……」
「ん」
と、可愛いネコのマグカップに口をつけつつ華音が横目で大輝を見やり、
「なんや、鋼くんやん。よっすー。何気に初絡みやんな」
黒髪ポニテの日焼け女子、
「よ、よろしく……」
「あ、うん……」
そんな沙良の影に隠れてミニツインテールの小動物系女子、
仁菜の怯え様に大輝が心の古傷を抉られて微妙に傷ついているとは露知らず、沙良が口を開く。
「ウチ、服部から声かけられてなー。ホンマは剣術部にするつもりやってんけど、ココに入れば一年からでもスキル手に入る言うやん」
「え、そうなんですか?」
「そりゃそうだろお前。スキルアーツ研究部なのにスキル持ってない奴がいたって意味ないだろ。五月の連休中に上級生と顧問が護衛してダンジョン入ってスキル獲得させんだよ」
大輝に視線を向けられ、リザ部長が「何を当たり前のことを」と言わんばかりに説明する。
「ほんで部員足りとらんって聞いたもんやから、部活どないすっか悩みすぎて死にかけとった仁菜たん誘って見学に来たんや」
「あぅ、そ、その、私、ここなら練習でいくらでも撃ちまくれるって聞いて……ふひっ」
なにやら危なっかしい笑顔を浮かべる凛音の呟きは続く沙良の言葉に遮られた。
「ほんでいざ来てみればなんや月見里さんもおるやん? いきなりキラッキラの美少女おって目ぇ潰れるとこやったわナハハ」
「私は元々ここの部員」
マグカップを置いた華音がどこまでもマイペースにぽつりと言った。
「月見里妹はこう見えて中々根性あるぜ。なにせあの月見里華凛に一泡吹かせたいつって入部したくらいだからな」
リザ部長にバシバシ背中を叩かれても無表情でモソモソとプロテインバーを頬張る華音。
なるほどこれは確かに大物かもしれない。
「俺、部長のパワハラにめげずに残って本当によかったよ……」
「むさくるしかった我が部がこんなに華やかになるなんてなぁ……。関西系スポーツ少女にロリっ子に白髪クール美少女、よりどりみどりじゃねぇか」
女子たちのいるテーブルを遠巻きに眺めて感動の涙を流すチンピラ先輩たち。
新入部員が入って彼らも首の皮一枚繋がったらしい。
だが、彼らの感動の涙はこの後すぐ恐怖の涙へと変わることになる!
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