北原白秋『雀の生活』より
ある早春のほのぼのとした黎明方でした。ある土手の蒼々とした、大木の松の一番下の枝に、首くくりが一人、まるで操り人形のようにブラ下がっておりました。
まだ少年でしたが、それは正しい
制帽をかぶって制服を着て、顔は白いハンケチでキリッと包んで、すらりと宙に下がった二本の脚のさきには紅い
静かなものでした。死んだ者とも思えぬその少年の死相は、全く天真な幼な童の無邪気に遊び事でもしているようでした。清澄な空気の中に浮いて見えるから、
見ていると雀がその松ケ枝に留まっていたのです。首をくくった黒い細帯の結び目にも一羽留まっていたのです、頭を動かしたり、羽裏を掻いたり、羽ばたきしたり、それにちゅっちゅと
その枝の一番尖の
その松と土手との空間には、目を覚ましかけた市街が見え、
私はたまらなくなって大きく息をつきました、涙が感謝と祈念とに輝きました。
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