第5話「悪魔と宿屋で」
「とにかく! あんたひとりじゃ心配だからその――ガルーナの町? だっけ? まで護衛してあげるわ!」
「そこまでしてもらわなくても……ガルーナの町はとても遠いですよ」
「星降りの町でしょ。知ってるわ。でも素敵じゃない! 私、一度行ってみたかったのよね!」
「は、はあ」
なんだかわたしへのお礼というよりも単純にリヴァがいきたいだけのような気がしますが。
それでもわたしへの感謝は忘れていないのだと信じるしかない。
この悪魔が信頼に足るのかは置いておいて。
「そういえば男性の生気……精気でしたか? それはいいのですか?」
「構わないわ! 私をそんじょそこらの性欲淫魔と一緒にしないでよね!」
「そうですか。それならいいのですが」
サキュバスにも序列のようなものがあるのでしょうか。しかしこの悪魔、プライドだけはやたら高いような?
「心配しなくてもあんたみたいな女性を襲う趣味は私にはないから安心しなさい!」
「そうですか。それなら安心ですね」
「それよりも! もう陽が暮れてきたし。宿に泊まりましょ! そうねぇ……よし決めたわ! あの宿にしましょ」
「はい。わかりました」
そうして私とリヴァは次の町で宿屋に泊まることにした。
「らっしゃい! 二名様かい? 部屋は相部屋かい? 相部屋なら安くしとくよ」
「いいえ部屋は別々で、」
「何言ってんのよ! せっかく安くしてもらえるのに別々に泊まる意味なんてないわ! おばさん、相部屋で頼むわ!」
「あいよ」
「……なんだか不安しかないのですが」
たしかに相部屋で安くなるならそれに越したことはない。それでもわたしは淫魔らしい彼女と床を共にするのは不安しかなかった。そしてごはんもお風呂も済ませたわたしとリヴァは部屋のベッドに――
「な、何をしているんですか」
「し、仕方ないでしょ……しばらく精気を摂ってなかったんだから! それに、あんたってこうやって見ると結構――かなり可愛いわね。彼氏とかいないの?」
「いませんが」
「そう……それなら遠慮なく精気をいただけるわね」
押し倒された。顔がとても近く、彼女の八重歯が一層よく見えた。それになんだか吐息も熱く息遣いは先程までよりも幾分か早い気がした。頬も若干だが赤い。
「いただくって……女性は襲わないのでは?」
「基本はね。でももう耐えられないわ! あんた呆れるくらいすっごい無防備だし! 妙な色気はあるし! あぁ……だめね、全然だめ!」
「何がでしょうか?」
「そんなんじゃ悪い男に捕まって良いように使われるに決まってるんだから! それに女のくせに私を興奮させるなんてむかつくわ……! お風呂の中でも気が気じゃなかったんだからねっ!」
「えっと……それはわたしが悪いんですか?」
そういえばお風呂場にいたときは口数が少なかったような……今はこんなにお喋りなのに。
「当然でしょ! だから……あんたの精気、いただくわ」
「えっ……ちょっと落ち着いてください。そうです、洗面所で顔を洗ってくればきっと」
「そんなので落ち着けるわけでしょ! こらっ、大人しくしなさい! 絶対逃がさないわよ、観念しなさいっ!」
「ひうっ! そ、そこは……首……」
「ああっ、いいわ! 淫らな匂いがするわ。女性の精気なんていらないと思ってたけど――意外と悪くないかもね」
「や、やめ……」
こんなに身体は細いのに力はとても強く起き上がろうとしたわたしの両手首が掴まれて押さえつけられてしまう。
わたしも力は強いわけでもないけど圧倒的種族差個体差を感じずにはいられなかった。彼女の黒い悪魔の尻尾がわたしの動きを奪うように身体に絡みつく。リヴァはわたしが動けないことをいいことに首に顔を近づけてすんすんと匂いを嗅いでくる。
どんな顔をしているのかはわからなかった。それでも少し嬉しそうだと声色から察することができた。
そしてリヴァはゆっくりとねっとりとわたしの首筋に舌を這わせてくる。リヴァの舌の感触が生温かく艶めかしい感覚がまるで身体に電流が流れるかのごとく伝わってきて――
「ちょっと待ったー!」
「は?」
「へ?」
このままわたしはいいように好きなようにされてしまうのかと思っていたら扉が大げさに開かれた。
その声は聞き覚えがあり見覚えもある魔導士の姿だった。
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