第4話「悪魔っ娘だって助ける」

 それからもわたしは人助けを続けた。もう何人の人々を助けたのか詳しい数は覚えていない。


「うっ……はぁ……はあっ……」


「うん? あれは……」


 次の町までしばらくかかる。

 砂漠地帯はなかなかに暑い。常に水魔法を纏っていないとすぐに体内の水分がなくなってしまうだろう。

 そんなときに小さなツノ、ボロボロになった漆黒の翼、尻尾の先端がハートマークになっている悪魔らしい尻尾を持った女の子が倒れていた。フリルがあしらわれた黒と白の軽装服は胸元が綺麗なハートマークに切られ、そこから露出した胸が綺麗なハートを形作っていた。とにかく胸が大きい。サキュバスか何かかもしれない。


「そこのあなた、大丈夫ですか?」


「えっ? に、ニンゲン!? これがあんたには大丈夫に見えるの?」


「見えません。治療しますね」


 わたしはとりあえず意識があることを確認すると治癒魔法をかけて水分補給にたつ水魔法で作った水を入れた水筒を悪魔の娘に飲ませた。


「ちょっと! なにしてるのよ!」


「見てわかりませんか? 治癒魔法ですよ」


「そんなことは見ればわかるわ! どうしてニンゲンのあんたが悪魔の私を治すのよ!」


「怪我をしてる方がいれば助ける。当然でしょう」


 悪魔の娘は珍しいものを見るようなわたしを見て、更には不満に思ったのか気に入らないことがあったときのように言葉をぶつけてきた。


「当然じゃない! 悪魔を治すニンゲンなんて聞いたことないわ!」


「わたしはたとえあなたが悪魔でも治しますよ。別に何か悪さをしていたわけでもないんでしょう?」


「それはそうだけど……」


「それなら良いではないですか。それではわたしはこれで失礼しますね」


「えぇっ!? ちょっと待ちなさいよ!」


 悪魔がニンゲンを助けないのは当たり前だった。自分に危害を加える存在をわざわざ助けるバカはいない。わたしはわたしの身体は常時回復魔法が掛かっている回復体質。だからこんな小悪魔程度怖くもなかった。

 それに仮に攻撃を受けても回復すればいいのだから。

 わたしは悪魔の娘に回復魔法を掛け終わると背を向けた。これで彼女も自力で歩けるし飛べるだろう。そう思って立ち去ろうとしたら慌てた声で呼び止められた。


「……何か? あなたはもう自由ですよ」


「そうじゃないわ! あんた、私を助けるだけ助けてどこに行くつもりなのよ!?」


「わたしは故郷であるガルーナの町に帰る途中なんです」


「だから……そうじゃないわ。私を助けて、私を何か利用しようとか考えているんじゃないでしょうね!?」


「考えていません。なので安心してください。それでは」


「だから待ちなさいって言ってんでしょうがあぁぁぁ!!」


 わたしはもう役目は果たしたと歩き始めたところで復活した悪魔の娘に腕を掴まれた。

 仕方なしに振り返って聞いてみることにした。


「まだ何か?」


「あるわよ……私、あんたにお礼……まだ何もしてないでしょ……」


「お礼? そんなのいりませ――」


「私はいるのよ! あんたがいらなくても私がしたいの! だからさせなさい!」


「はあ……そうですか」


 俯いて小さい声で言ったかと思えばわたしの言葉を遮って悪魔の娘は叫ぶように言った。

 わたしの知ってる悪魔とはだいぶ様子が違った。

 わたしは基本的に回復魔法を使った程度で見返りは求めないし、いらない。それでもそこまでお礼をしたいというこの悪魔を放っていくほど人でなしというわけでもない。

 わたしはとりあえずお礼がなんだかわからないがその厚意を受け取ることにした。


「やっとわかった?」


「えぇ、あなたがわたしにお礼をしたいということは理解しました」


「それじゃあお礼だけど――ってあんたひとりなの?」


「ひとりですよ」


「どうして?」


「わたしが旅の途中で所属していたパーティを抜けたからです」


 こんなところで話すような内容じゃない気もするけどわたしが勇者パーティを抜けたのもまた事実。そしてわたしはここまでの経緯、故郷に帰るまでの道中、人助けを続けながら今日に至ったことを話した。


「そう……あんたが噂の……」


「クラリスです。あなたは?」


「私はリヴァイル・アルカードよ」


「アルカードさん」


「リヴァでいいわ。知り合いの悪魔はみんなそう呼ぶもの」


 そういえばわたしのことは話したけどこのリヴァという悪魔の少女については何も知らなかった。聞いてみますか。


「そうですか。ではリヴァ、あなたはここで何をしていたのですか」


「そんなの決まってるじゃない。男の生気を吸うためよ」


「倒れていましたが……」


「それは……魔物に襲われたのよ」


 どうやら本当にサキュバスかそれに準ずる種族だったらしい。

 倒れていた理由についてはリヴァは少し恥ずかしそうに話した。


「悪魔なのに?」


「最近の魔物は魔族さまを甘く見てるのよ! まったく嫌になるわ!」


「それで負けて――」


「負けてないわ! 魔物の方が先に逃げ出したんだから私の勝ちよ!」


「そ、そうですか」


 魔物と悪魔はてっきり友好関係にあるものと勝手に思っていたけどそういうものでもないらしい。

 人間と同じで魔族も一枚岩じゃないのかもしれない。

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