悠々自適に小説を語る

ぽんぽん

第1回

 行き先はどこでも可、もし旅行に一冊小説を持っていくならあなたはどれを選びますか? 僕は迷いなくレイモンド・チャンドラーの『長いお別れ』答えることが出来ます。


 さて、第一回目は『長いお別れ』です。拙作『本場のサッカーで以下略』にも時折登場する一冊です。やたらと登場人物が読んでいる一冊ですね。


 ジャンルはミステリーとも呼べるし、ミステリーとも言い切れない、ではハードボイルド物かと言うと確かにそうだけれど、でもそれだけじゃないとも思う、ならば無難に探偵小説と紹介するのがよいか。まあそんな具合に輪郭を明確にしたくない作品何ですよね。僕の人生において最も大事な小説だけど、だからこそ大事にし過ぎているきらいがある。


 じゃあ何でこんな題を銘打っておいて一回目に選んでんだって話ですけど、それでもとにかく語りたいんです。


 僕はこの作品を読んでから情景描写が嫌いになりました。それまでももともと苦手だったけど、確実に嫌いに変わったのはその時です。いや、情景描写が読みにくかったとか、よくありがちな何ページにも渡る描写に疲れたとかそう言うのでは全くないんです。むしろ、非常に面白かった。今まで読んでいたのは何だったんだと思ってしまうほどに。だから何です。小説を読者を楽しませるために書くとするならば、つまらない情景描写なんて情報を伝えるだけ最小限に、極力削るべきだと思っていたけれど、考え方が変わった。何処までも面白く出来るのに、読んでいてつまらない、冗長な情景描写は絶対に削るべきだ、と。面白くないなら初めから書くな、たぶん描写の中でも一番に作者の力が現れるんですよ、情景描写には。それで僕は嫌いになりました。自分の力量の無さを痛感させられるから。


 物語は終始一貫して主人公フィリップ・マーロウの一人称視点で進みます。先ほど語った情景描写もつまりはマーロウの語りです。マーロウの切り口でマーロウが見る世界を読者の我々が見る……そうです、一人称視点の小説では全ての描写が主人公を通して我々に伝わるわけですから、情景描写が面白い=主人公の魅力に繋がる訳です。うぅ、以前は僕も一人称視点好んで書いていたのですが、書きやすい反面、どの文章も主人公の内面世界なので、やっぱりあれも技術が問われるんですね。逃げてばかりだ。

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