第2話

 調査で何かを感じていた私は、佐山達也さやまたつやに一刻の猶予も許さない命の危険があることを言い含めた上で、その部屋で何が起こるのかを確かめるべく、密かに達也と私が入れ替わって寝ずの番で調査することを約束する。


 約束通り、達也と入れ替わって寝ずの番をしていた私と和子は、すっかり夜がふけた頃、達也の話にあった口笛の音を聞く。さらに妙な音を聞いた私は驚いた。すると、その少し後に隣の仲川遥香なかがわはるかの部屋から、この世のものとも思えぬ断末魔の叫び声が聞こえて来た。和子と私が仲川遥香の部屋に入ると、彼女は真鱈の干物を口に突っ込まれて絶命していた。


 全ては、仲川遥香が結婚する際に渡されるべき母の相続財産を独占するために、仲川遥香を殺そうとした妹の愛未まなみの計略であった。


 私は愛未が犯人であるとは知らず、館の近くにある図書館でコナン・ドイルの『まだらの紐』を読んだ。本の中の凶器は、犯人であると博士が密かにインドから取り寄せた「インドで最も危険な毒蛇」。それがジュリアが死に際に言い遺した「まだらの紐」の正体であった。博士はこの毒蛇を金庫の中に隠して密かに飼っており、通風孔から呼び鈴の紐を伝って蛇を隣室へ入り込ませ、ベッドの人間に咬み付くように訓練していたのである。さらに、博士はこの犯行を他人に気付かれないよう、口笛の音を合図に蛇が再び博士の部屋へ戻るようにも訓練していた。無論、この殺害方法は1度で成功するとは限らないが、それでも何度か繰り返せばいずれ被害者が蛇に咬まれることは確実である(2年前にジュリアが聞いたという口笛の音は犯行に失敗した時のものだった)。2年前、ベッドが床に固定されていて呼び鈴の紐の真下で眠らざるを得ないジュリアは、ロイロット博士が夜中に通風孔から送り込んだ毒蛇によって殺されたのであった。それに続いて博士はヘレンも同じ方法で殺すため、ヘレンの結婚が決まった際にわざと屋敷の改築工事を始め、ヘレンが問題のベッドで眠らざるを得ないように仕向けたのである。しかし、密かにヘレンと入れ替わったホームズにステッキで打たれた蛇は、驚いて博士の部屋に逃げ戻り、相手かまわず飼い主の博士に咬み付いたのである。皿のミルクは蛇を手なずけるための餌であり、先の部分が輪の形になった鞭は蛇を安全に捕まえるための道具であった。


 ⚡救心と六神丸は両方強心薬だが、全く相性が合わない。混ぜたら危険!

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真鱈の干物 鷹山トシキ @1982

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