第2話 ピクニック先でデストロイ!
王様からのお触れで剣聖の片桐君と、賢者の佐之君と別れ、私は半ば軟禁に近い暮らしを送っていた。
出される食事はどこか脂っこくて、すぐに飽きてしまう。こういう時恋しくなってしまうのは家庭料理だ。
レシピは脳内にしっかり記録されている。あとは素材さえ手に入れば、ギフトのおまけでついてきた『キッチン召喚』でどこでも現代に品の調理器具を呼び寄せることができるのだ。
だが素材無くしてはそれも宝の持ち腐れである。そんな風に悩み倒す私の前に、コンコンと入室の許可を求めるノック音が聞こえてきた。
返事をすると、ドアの隙間から顔を出したのは見た目同じ歳くらいの女の子。
そういえば王様のそばに控えていた人の中にもあんな子いたかなーとぼんやりしていたら、彼女の方から声をかけてきた。
「あの、もし宜しければお話などお聞かせ願えますか?」
「えっとはい。私なんかでよろしければ」
最初こそ何処かよそよそしい会話を紡ぐも、すぐに年が近いことが判明。それからやけにグイグイ押してくる彼女に根負けして私は自己紹介をする流れになった。彼女は私の予想通りこの国の王子様。王宮内こそ自由に歩けるも、外に出してもらえないのは私と同じようで似た境遇からかすぐに仲良くなれた。
「──それで、リリアーナ様は……」
「まって明日乃、わたくし達はもうお友達でしょう? 堅苦しい敬称略など不要ですわ。わたくしの事はリリアーナとおよびなさい」
「いいの? 不敬罪で罰せられたりとかされそうで怖いんだけど」
「お父様の前ではよくありませんが、わたくしの前であれば特別に許可いたしますわ」
ニコニコとする王女様、リリアーナは、やたら強い押しで私と友達になった。
話すことといえば恋愛の話。
リリアーナは騎士団長にほの字であることを伝えてくれた。理由を聞けば、いつも身を呈して守ってくれるとのこと。
それが仕事なのだからと思うが、リリアーナは頑なに「あれはわたくしに気がある目ですわ」と言って聞かない。私はただ相槌を打つばかりだ。
恋をしたら人は変わると友達のサキちゃんも言ってたな。私も恋を知ればここまで変われるんだろうか?
「それでそれで、明日乃は?」
「私は──」
うーんと悩みこむ。私はいつか手料理を振る舞うためにと料理の腕を磨いてきた。
しかし肝心の料理を振る舞う相手とはいまだに巡り会えていなかったのである。
悩んでいる私に何を感じ取ったのかリリアーナは俯いてしまった。
「そう、ごめんなさい。此度の召喚で離れ離れになってしまったのですね。それを私ったら、自分のことばかりで……」
何やら勘違いを加速させる彼女。その鎮痛そうな表情は見ていられない。だから違うのと訂正してからすぐに本当のことを話す。
「違うの。私まだいいなって人が見つけられてなくて」
「そうだったの。じゃあ早速見つけに行きましょうか」
「えっ!?」
何でそうなるの! 思わず突っ込んでしまいそうになるくらいにリリアーナはテンション高めに頷いた。これはあれだ。相当なお転婆なのだろう。
翌日。本当に突然にリリアーナは私と片桐君と佐之君と王国騎士団を誘ってピクニックに行こうと言い出した。本当に唐突だったので寝耳に水だった。確かに外に出れて嬉しいよ? でもね、急すぎてビックリしてる方が多いんだから。
久しぶりに見た片桐君は凛々しくなっていて、ちょっと目を向けることができなかった。
誰だろう、この爽やかイケメン。確かに声は片桐君のものなのに、顔と声が一致しない。知らないよ、こんなリア充っぽい人。
そしてもう一人の佐之君。君は一体この数日で何があったの!? それぐらいにドレスが似合う美少女になっていた。線が細い方だとは思ってたけど、まさか女の子だとは思わなかったよ。
今度から佐之ちゃんて呼ぶねって声をかけたら睨まれた。
どうやらこれは罰ゲームで着せられてるようで、中身は普通に男の子らしい。恐るべきは王国の化粧の技術かと恐れ慄いていると、リリアーナのお目当にしている王国騎士団長直々に挨拶された。
ちなみに今回ピクニックと言ってるのはリリアーナと私くらいで、ほかの人達、主に王国騎士団一同と片桐君と佐之君は遠征という名目で集められていた。
まあそうだろうなとは思ったよ。だって一応私たちは王国の切り札として匿われているんだから。そのお披露目を兼ねての遠征なんだって言われた。でもまって、私ここ数日軟禁されてただけで何もやってないよ!?
……そんな風に思っている時が私にもありました。
「またも明日乃君が作った料理でモンスターの沈黙を確認! 騎士団長、これはもしかするともしかしますよ?」
「うむ。リリアーナ様、お手柄ですね。よくぞ彼女の特性に気がついてくれました」
「うふふ。そんな大した事じゃないのよ。これもわたくしと明日乃の友情パワーが導き出した結果ですもの。ねー明日乃?」
みたいな感じで話は纏まった。
うん、せっかくのピクニックという事で私も料理するって言ったら何故かお許しが出たので腕によりをかけて作ったんだ。でもね、それには裏があったの。最初からモンスターに食べさせるつもりで作らされてたんだって。アッタマきちゃう。
それでモンスターがね、最初こそ美味しそうに食べてたんだけど、それから幸せそうに横にゴロンと転がってから……急に喉をかきむしるように苦しがって、最後に泡を吹いてそのまま……
酷いよね、せっかく美味しく作れたのに、こんな風に料理を使われるなんて思わなかったよ。
それに片桐君なんてこんな事言うんだよ?
「お手柄だったな、太刀木。俺でも手古摺ったマーダーグリズリーをこうもたやすく打ち取るとは。俺ももっと修行を積まなくちゃいけねぇ。次こそは俺が勝つ! うぉおおおお、燃えるぜ!」
だなんて。その場で竹刀を振り始める始末。
それに頷くように美少女にされた佐之君も顎に手を置いて冷静に分析してた。
「いや、見事なものだよ。僕も実際にこの破壊力を見るまでは半信半疑だった。でもここまでの実績を見せられたら認めなくてはならないね。太刀木さん、一緒に頑張ろう!」
だから、そんな美少女スマイルで微笑まないで! 違うの、これは不本意なの!
暮れる夕日の向こうで、私の自責の念にかられる声だけが木霊した。
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