異世界おもてなしご飯

双葉鳴🐟

第1話 うそ、私の料理物騒すぎ!?


 ふと目が覚めたら、私は知らない場所にいた。

 見たこともない空間には真っ赤な絨毯と煌びやかな調度品が立ち並び、そして見つめるような周囲からの視線で息がつまるようだ。


「あれ、私は……」

「おい、ここはどこだ。俺は剣道の試合中だったってのに。対戦相手の武藤もいやがらねぇ!」

「ヒィッ!?」


 私の自問自答に答えてくれたのは今まさに剣道の試合をしていましたとばかりにフル装備の甲冑を着込んだ大柄の人。声から察するに男性だろう。面の隙間から見える瞳がギラギラと光っていて怖い。思わず小さい悲鳴が出ちゃったほどだよ。


「あ? 誰だおまえ。つーかここどこだよ」

「私もよくわかんないです」


 本当によくわからない。だって私はつい先ほどまで自宅でクッキーを焼いていたのだから。

 自称手料理女子を名乗る私はチョコチップを混ぜ込んだクッキーの焼き色を確かめて、そして香ばしさに表情を綻ばせていたらここにいたんだ。

 ここがどこかと聞かれても聞きたいのはこちらの方だ。


「随分と騒がしいな。衆人環視の中でこうも騒げるとは、君たちはもう少し注目を浴びてるという事に気づいたらどうだい? 全く。静かに図書館で勉強をしていたというのに、落ち着かないったらないよ」


 私と大男をたしなめるように書けられた声はどこか呆れていた。その表情には苦悶に染められている。相当機嫌が悪そうだ。出来ることなら近づきたくないなーと距離を測ってるところでどこからか偉そうな声がかけられた。


 振り返るとそこには私達三人を見下ろすような高台。玉座には威厳のありどうな人物が座ってこちらを眺めている。その横に仕えている人物が声を上げる。


「静粛に。王の御前である!」

「良い。それで魔導師長、彼らが救国の勇者で相違ないな?」

「は、ステータスを覗き見たところ、そこの見たこともない甲冑を見にまとうものは剣聖と出ております」

「おぉ……」


 王の感嘆の声に呼応するように、周囲がざわめく。一体何が起きてるの!? 


「続いてそちらのやや低身長の本を携えた少年は賢者の資質が非常に高い」

「なんと……そうか、よくやった! 我が国に二つものギフト持ちが来るとは。で、そこの女子は何が得意なのだ?」


 王様はワクワクとした表情。しかし仕えていた魔導師長は表情を曇らせた。どうにも言い出せない様子に、嫌な予感が募る。


「残念ですが、この者にはそれといったギフトが与えられていません」

「むぅ?」


 王様の表情が訝しむ。まさか私、こんな見ず知らずの場所で捨てられちゃうの!? 


「ですが非常に美味しそうな匂いが先程から気になってまして……お嬢さん、それは一体何という菓子ですかな?」

「えと、クッキーですけど」

「ほう。クッキーですか。王国でも似たようなものはありますが、ここまで引き寄せられる香りには出会ったことがありません! おひとつ頂いても?」

「あ、はい。どうぞ。良ければ皆さんもどうですか? あ、どうしようお皿がない。申し訳ありませんが手掴みでご容赦ください」


 場の勢いに流されるまま、鍋つかみ越しに掴んでいた鉄板の上のクッキーを配っていく。

 向こうにいた時は熱々だったのに、今ではすっかり余熱が取れていた。本当は冷めている方が美味しいけど、焼きたては焼きたてで別格なのだ。


 魔導師長はクッキーをつまむと何やら呪文を唱える。何をしているんだろう。


「皆の者、食べてはいけませんよ。これは毒になってます」


 ザワザワと騒めく周囲の者達。

 そして武器を構えた甲冑姿の兵隊さんが私に向けて威圧をかけてきた。何、怖いよ。

 私ここで殺されちゃうの!? 


「この女子は我が身を狙う暗殺者だと、そう言いたいのか?」

「いいえ、違います王様」

「では何だ、もうしてみよ」

「彼女のギフトは猛毒付与に猛毒耐性です。この一見美味しそうな料理は彼女の手にかかれば全て猛毒になってしまうのです。なによりもその菓子。私は先程からよだれが止まりません。これが毒だと判定されてなかったら普通に食べていたことでしょう」

「そこまでか。しかも本人に耐性はあるからそのものに毒の類は効かないと?」

「はい。もしこの手料理を何も知らぬモンスターに振る舞えば、楽に殺めることも可能かもしれません」

「あいわかった。その女子は丁重に持て成せ。くれぐれも王宮内の厨房に立たせぬようにな」

「心得ております」


 こうして私達は何故かこの国を守る守護者として召し抱えらた。その上でこの国の料理に期待していた私の希望は見事に打ち砕かれた。

 初日から厨房への出禁。これは流石の私も想定外だよー! 

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