第335話『対策? 考えてませんが?』





 第三百三十五話『対策? 考えてませんが?』





 十月十三日、貿易会議の初日を何とか無難に終えた夜。


 騒がしい晩餐会も無事に終了、俺は大魔王さんと神樹の中腹まで飛んで、良い感じの太い枝に座り、大きな満月を見ながら二人で晩酌をしている。


 って言うか、晩酌に付き合わされている。


 しょうがないのでダンジョン産の芋焼酎『暗黒霧島』を出した。


 アルコール度数69、辛口、鼻にガツンと来る荒々しい香り。


 少量をロックで飲むのがお勧めだ。


 俺は大魔王さんにとっておきのロックグラスを渡した。


 妖蜂族の唾液とエッチな汁で作られた『妖蜂ガラス』をロックグラスに加工し、表面に綺麗な模様の切り込みを入れた『春日切子カスガキリコ』グラスである。


 この春日切子も貿易品の一つ。


 俺は妖蟻族のエッチな汁と粘土で作られた『妖蟻セラミック』製のお猪口ちょこで飲む。妖蟻の陶磁器も『赤城焼アカギヤキ』として貿易品入り。


 そんなグラスとお猪口をコチンと当てて乾杯。



「……う~ん、良いね、良い味だ。初めに舌を驚かせ、次にノドと胸を焼きながら胃に流れ込むと同時に爆発……五臓六腑にその衝撃が伝わり、最後は香りが鼻孔からスッと抜ける、実に良い」



 ガソリンかな? 大丈夫?



「この酒も是非魔界におろしてもらいたいね、ダンジョン産なら数は問題無いだろう?」


「そうっスね、言われた数はそろえますけど……芋焼酎が好かれるかは判りませんよ?」


「構わんよ、どうせ私の城でほとんど買い取る」

「なるほど……」



 それって直接個人取引で良いのでは?

 魔界の卸問屋おろしどんやに卸す意味とは?

 確実に買ってくれる大魔王さんに売るだけで良いのでは?



『魔界の問屋に卸された地上の高級酒を、大魔王ルシフェルがほぼ独占する事に意味が有るのです、察してあげて?』



 漫画に出る意地悪な金持ちのボンボンみたい……

 しかもボンボンがクソ強くて泣き寝入りが大量発生するやつ。



「日中の貿易会議も多少騒がしい場面もあったが、おおむね好調だったし有意義な交渉も出来た――」


「そうっスね」


「――何より、イズアルナーギに経済戦争を仕掛けると言う君の言葉に、私は久しく覚えていない闘争へのたかぶりを感じたよ」


「いや言ってないかな、言ってないですね、一言も」


「大丈夫だ、君の言葉は会議室に居た皆が聞いている」


「いや大丈ばないかな、大丈ばない、僕は貿易の話しかしてない」



 会議室に居た皆さんは大丈夫? 耳掃除してる?



「ところでナオキ君、コピー製品についてやけに熱く語っていたが……あの場では少し話題が唐突過ぎたね、いや、貿易会議の場でコピー対策を語るのは当然なんだがね?……コピーと言えばアレの問題も有るしねぇ?……どうなんだい?」


「いやぁ、何スかね、俺も急にコピー製品赦さねぇって思って……」


「そうか……宇宙を切り離しても、かつての支配者が創った惑星で生まれ育てば、影響を完全に取り除く事は出来んようだな……」


「えぇぇ、何か嫌だなぁ……」


「まぁ気にする事は無い、現に、アートマンは君に関する重要案件にもかかわらず、他神が君に与える『影響』を放置している、その理由が『取るに足らん』と判断したからなのか、それとも『動くべきではない』と感じたからなのかは知らんがね……息子の君はどう思う?」



 どうって……

 そんなもん簡単じゃないか。



「不可触神に『取るに足らんモノ』なんて無いっすよ、自分と偏愛対象以外は基本的に『全部取るに足らん物事』なんで。そんな不可触神が愛情を注ぐ息子に何か変な事をする神が居たら、不可触神は問答無用でブッ殺してる、殺せなくても影響は絶対に防ぐ」


「ははは、そうだね……つまり――」


「偉大なる母アートマンは、えて放置している、そう思います」


「やはりそうか……フフフ、そうか」


「僕のお母ちゃんは全身が優しさで出来ているのです、家族に及ぶ害を見過ごすはずがない……僕はそんなお母ちゃんを信じているのです(キリッ」



 あふぅん、有ぁり難ぅ~御座いまぁ~っす!!

 んぎひぃ、今回はしゅごいさすってくりゅぅ~……



『我が意を得たり孝行息子、と言ったところでしょうか、顔には出ませんがアートマンは非常に喜んでいます。ちょっと神殿が壊れて天女や護衛が数百滅ん……あ、復活しました、歳を考えてはしゃぎなさい、まったく』



 ひぎぃぃ、待っ、何か温かいぃぃっイグゥゥ……あ。



『あぁっ勿体無い!! パクン……ご馳走様でした』



 お、お粗末そまつ様でした……ビクンビクン。

 そんな事より大魔王さんの話を聞かねば……



「アートマンが見逃すナオキ君の『コピー嫌い』……これは君が直感的に頭によぎった『コピー製品への対抗策』を採るべきだろうね」


「えっと、自分でしっかり『モノを考える』ってだけなんスけど……」


「考える、すなわち『物事を理解する』と言う行為・姿勢は、多くの生物、とりわけ人類にとって必須で当たり前の事だ、しかしコレが出来ない者も多い、人間で言うところの『バカ』がそうだ」


「な、なるほど……(何だろう、胸が痛い」


『大丈夫っ、ラージャの事じゃないからっ!!』



 俺は偉い人に目の前で『バカ』って言われると人生を五度くらい振り返りたくなる病気なんだ……


 ウッ、何で俺はあの時ロケ地の便所でハードなオナニーをっ……



『大丈夫っ、サッちゃん以外にはバレてないからっ!!』



 バレとったんかいぃぃっ!!


 クソぅ、色んな意味で悔やまれる……っ!!

 やはり、モノを考えて行動せんとなっ!!


 大魔王さんの話に集中しよう。



「――君も知っての通り、不可触神の権能は能力行使に於いて『限り』が無い、延々と、いや、理論的には永遠に能力を行使し続けられる」


「ん? まぁ、そうっスね……」


「イズアルナーギの場合は創造する空間に一切の制限が無い」


「まぁ宇宙創っちゃいましたし……」


「アートマンの根源改変も同様、改変する事物や改変内容に制限など無い」


「まぁ他人様の宇宙切り離しましたし……」


「そして、敵の不可触神も同じだ、間違い無くコピーに制限が付いていない」


「……最悪やん」


「そう、最悪だ、しかし、君に何らかのシグナルを送る『クソゲー開発者』は、君を通して我々にコピー対策を伝えようとしている」


「やっぱ、そうっスよねぇ……」


「そして、それに関する君の『モノを考えろ』と言うひらめき、それを考慮すると……先ほど私が言った『バカ』が向こうのコピーには多いのでは、私はそう理解した」



 あぁ、なるほど……


 不可触神の権能に制限は無い、コピーも完璧だろう、しかし、オリジナルから切り離されたコピーの成長は保証していない……


 複製後のコピーはオリジナルと完全に別の存在だ、制限の無い権能で創られたコピーなら完コピ過ぎて別の『個』になる、一種のパラドクスだな……



「傲慢な性格の私的にはしゃくだが、一応『クソゲー開発者』は大敵と戦った先人、経験者だ。助言は聞いておいて損は無い、それに、我々の戦いに自分の滅びもかかっている、ある程度は信用出来る助言だよ」


「そっスね……」



 俺と大魔王さんは何となく満月を見つめ、同時に焼酎を飲んだ。


 遠くない未来で決戦を迎える、そんな事を考えているのだろうか、大魔王さんのたかぶりが伝わってきた。



 明日は『中央神界攻め』の話になりそうだな……








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