第312話「芝4000やないか……」





 第三百十二話『芝4000やないか……』





 十月二日、朝食後の午前八時、朝日に照らされる大森林は美しい、つまり今朝は晴れだな。


 いや、たぶん昼も晴れだ、むしろ夜も晴れだ……


 こ、この宇宙はお母ちゃんのモンなんや……

 快晴の夜も白夜も自由自在なんや……っ!!



『落ち着いて私のラージャ』



 す、すまねぇえ、敬愛する母親の背中がデカすぎて自分を見失っていたぜ……


 ワ、ワイはワイのロードを歩いて行く、今までの様になっ!!


 偉大な背中は追いかけてナンボやでぇ……

 抜かすのはいささか無理がおます……



『大丈夫、ラージャならいつかきっと……』



 クッ、追い抜ける言うてみんかぃ!!

 ゴリラでも不可触神を追い越せる言うてみぃっ!!


 どないしたぁっ、言うてみんかぃぃぃっ!!



『あ、そうじゃなくて、ラージャならきっと綺麗さっぱり諦めるかなって』



 うむ、お前は鋭いな。

 もう既に追い越す事など諦めている。

 宇宙を切り離す母を僕にどうしろと?


 追い越す事は無理です、なのでオンブしてもらいます。

 そうすれば走る速度が同じっぽい感じになります。


 ゴールインは僅差で負けますが、さり気なく腕を伸ばして一位入線狙えます。



『さすが私のラージャ、小物臭をいさぎよさと秀逸な逆転の発想ではない姑息さで中和しているように見せているがやはり小物感は隠せていない……っ、まるで名案を思い付いたアホな子供っ、クッ、可愛いっ』



 へへっ、よせよ、褒めてもお前に特は無いぜ?


 だがそうだなぁ、ただ、一匹のゴリラが正妻に惚れ込んじまうだけ、それだけだ。


 むむむっ、何だかあの朝日の様に気分が晴れてきたぞ?

 矮小わいしょうな自分と偉大な母を比べていた二分前の俺は馬鹿だなっ!!



『それは良かった。アートマンが我々の広大な神域を切り離した宇宙と融合させた話をしても問題無いですね』


「お前は何を言っているんだ」



 思わず声に出してしまった。

 神域と【浅部第98宇宙域】を合体させた、と?


 つまりどう言う事でしょうか……?



『新たな神界うちゅうの誕生ですね。この惑星もアートマンの神界内に存在する事になります。恐らくこの惑星を【中央神界】なるモノと同等の存在として位置付けし、神界うちゅうを広げていくと思われます』



 なるほど、ね。

 まったく分からないね……



『アートマンとは少し違いますが、果ての無い神域を持つイズアルナーギが同じような事をしています。あの子は必要な物を全部神域に入れますからね、無論、故郷の惑星なども収納済みだそうです。アレも新宇宙と言えるでしょう』



 あ、あぁぁ~、そう言う感じですか……


 不可触神ってホント、アレですね、自分から『触んな』状態に持って行きますねぇ……



『歴代の不可触神が忽然こつぜんと姿を消したのも、恐らく似たような理由でしょう』



 そうなる、かなぁ……そうだろうなぁ……

 宇宙を創っちゃうもんなぁ……


 ……おやおやぁ?


 じゃぁ俺達が居たあの大宇宙は……

 え、え、別の世界から来た奴らって……



『アートマンとイズアルナーギは何やら気付いたようですね、そして気付いた結果、迅速に新たな宇宙いばしょを創造したようです。誰かが用意した庭の片隅で飼われるのは御免こうむる、と言ったところでしょうか』



『『我は真我、究極の根源なり』』

『『大宇宙の根源持たずば真我たり得ず』』



 な、なるほどなー。

 持ってないなら創れば良かろうですね分かります(白目)



『まぁ、持っている者から奪わないのはアートマンの矜持でしょう。マイホームくらい簡単に用意出来ると息子に見せたかったようです』



 マイホームがデカすぎて草。

 太陽二個付き一戸建て(銀河系)で草。

 ってか庭が広すぎて迷子必至ワロタ。


 暴れん坊のゴム丸君も滅亡マシーンの終焉ちゃんも、お婆ちゃんの前では大人しい理由が分かるわ~……


 少しばかりリッチなだけの父親とは格が違うよねぇ……へへへ、両目から塩水が流れて来やがったぜ……っ!!



『涙を拭いて私のラージャ、貴方は母に惑星と主神の椅子をプレゼントした英雄ではないですか。子供達にそんな事は出来ませんよ』


『『然様、孝行がすぎる』』

『『また神核が獲れた、食べに参れ』』


『そんな“アメちゃんあげるから来い”みたいな……』



 ハイハイ行きま~っす!!

 えへへ、またご馳走に有り付けるぜ!!


 ……いや待て、神核が獲れた?

 え、何処かのアホが攻めて来たの?



『アートマンの新宇宙に居た神々の神核ですが?』



 皆殺しワロタ。

 容赦なさすぎて草。


 あ、二皇ダンジョンの悪神は?



『余りにも酷すぎる状況に絶望し、早々に白旗を上げましたが……アートマンは“明けの明星に任せた”と言って興味無さげですし、任されたルシフェルは降伏を認めませんでした。どうやらカケテマスに与えた機種の性能を見たいようで、降伏受け入れを願う悪神共に“死ぬ気で抵抗しろ”と』



 さすが俺達の大魔王さんやでぇ……

 俺達がやらない傲慢を平然とやってのける……っ!!


 そこにシビれんし憧れもせんけどなっ!!



『そう言えば、その傲慢なルシフェルは今回の宇宙域切り離しと神域融合を強行したアートマンを絶賛していましたね』


「え、何で?」


『神々と人との間に在る壁がまた一つ崩壊した、と喜んでいます。復楽園は近いとも』



 ……どう言う意味でしょうか?




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 壁が崩壊ねぇ、なるほどなぁ……


 こう言う事ですか。


 ママンのトコで午前のオヤツを頂き、大森林に戻って来たところ……天女さん達がゾロゾロ付いて来た。


 天女さんも悪神なので瘴気が有れば神気が薄い場所でも活動出来る、しかし、生粋の悪魔ではないので顕現けんげん出来る時間に限りが有った。


 その制限が無くなった。


 まぁそうだよな、ママンが神域と合体させたからな……

 つっても、地上の者が神域へ行けるわけではない。


 神域は何だろう、亜空間的な場所だし、ママンや俺達の許可が無いと入れんし、そもそも空気が無いからな、宇宙と変わらん。地上の生物は普通に死ねる。


 まぁそれは置いといて……なかなかカオスな状況になった。


 天女さんは別嬪べっぴんしか居ないから、騒ぎになるのはまぁ分かる。なんつっても神々しいしな、その上全員が極薄仕立ての羽衣はごろもを着てる、勃起の防ぎようがない……っ!!


 だが問題は天女達じゃぁない、鬼神共だ……

 鬼神共って言うかシタカラ達だな。


 まぁモテるモテる。死んだ場所や死因、その死に様、南浅の英雄として知られた五人だ、しかも現在の容姿が魔族受けする凶悪フェイス、モテない要素が無い。


 でもなぁ、そいつら全員天女さんと結婚してんだよなぁ……

 シタカラ以外の四人は生前独身だったから問題は少ないが……


 シタカラは厳しいなぁ……アイツには嫁のキツクと幼かった息子の『トテモ』が居る、一夫多妻が普通の大森林だが……嫉妬は当たり前に存在するのです。


 明らかに自分より別嬪で若々しい嫁を旦那が貰ったら、ほとんどの嫁は機嫌が悪くなる。


 現に、目からハイライトが消えたキツクは息子を連れて神木のアートマン神像とヴェーダ神像にお祈りに行った。


 な、何をお祈りするのかな?

 お祈りだよね? お呪いじゃないよね?



『……ふむふむ、なるほど、其方そなたの意志は分かった、慈愛の化身たるマハーラージャに全て任せるが良い、今日はもう休めキツク、明日の為に……』



 え、何、何て言われたの?

 何で俺が全部任されたの?

 明日の為って何?



『キツクは明日から冒険者になるそうです』


「は?」


『北エイフルニアのダンジョン群か、もしくは現在攻略中のアカギ大陸二皇ダンジョンに行きたいと申しております』


「な、何で?」


『パイズリンに至りたい、と。マハルシの養殖では虐殺し辛いようですね』



 草。


 そっかぁ、パイズリンになぁ……



『パイズリンに至った後は、産院から厠番への転属願いも出すようです。私はキツクを応援します』



 そ、そうか。


 取り敢えず、冒険者活動するなら分神の護衛も付けよう。


 って言うかぁ……今回の天女出現でキツク的思考に至った女性が増えそうやなぁ?



『増えました』



 だろうなっ!!


 宇宙戦争を始める前に、復楽園の整備が必要ですよ大魔王さん!!



『イズアルナーギは既に異世界側へ侵略を始めましたが』



 大草原。









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