第283話「何で居んの?」





 第二百八十三話『何で居んの?』





 八月二十六日、早朝、大森林は雨。


 今日も嫁さんズを両肩に装備して朝の礼拝に向かう。


 少しお腹が大きくなったラヴを左肩に、少し大人びたメチャを右肩に乗せ神木前まで歩く。礼拝へ向かう時は転移しない主義です。


 いつも左肩に乗ってイケナイ事をしていたラヴが今日は大人しい。股間をコスり付ける速さがゆるやかだ。


 現在妊娠中である彼女のお腹の中にはチビゴリラが寝ている……つまり、胎児を驚かせないようにしているのだろうか?


 ラヴのオナ依存症を抑える母性、神秘やなぁ。



『自慰依存症だなんて……ラヴが可哀そう。ラヴは【慢性大猩々フェチモン中毒患者】なだけです、大猩々フェチモン中毒は根治出来ないんですよ?』



 お、おう(何言ってんだコイツ……)


 そう言えば、『終焉ちゃんスタイル』の胎児強化育成はラヴが『お腹の子に栄養を貯められるんじゃない? ヴェーダみたいに』と始めたらしい。ラヴが言い出しっぺだった。


 つらい過去を持ち、人類絶対ブッ殺すマンのラヴが育児に意識を向けるのは良い事です。


 そんな彼女は鼻歌を歌いつつ菩薩の様な笑みを浮かべながら、ゆっくりとした『肩オナ』で満足している。隠れ絶頂しないラヴなんて始めて見るぜっ!!


 しかも、どこか余裕のある表情が魔神妃としての高貴さを漂わせている……そのままの君で居てくれっ!!



 逆に、右肩に座るメチャはキョドり方がパねぇ。


 三十路の肉体を得て妖艶さが増したメチャの、『お前は恋する小学生か』とツッコミを入れたくなる『何かを期待する赤面キョドり』が、朝勃起あさだちを終えて間も無い俺を狂わせる。


 分かってる、分かってるさメチャ……


 そんな期待と不安と親愛を足して割らない勃起不可避のような顔をするな、その顔はオスの股間に効く。


 心配無い、今夜は君の……除膜式、だっ!!



『除膜とはまた下品な……メチャを泣かせたら怒りますよ私』



 ご、ごめんよー、上手いこと言うたった~的な軽口だよー。

 今夜はアレだよ、メチャと百億年の新婚生活してくりゅ……



『私の予測ではロストバージン後ほぼ間違いなくメチャは【大喪女】に至ります』



 それねぇ……

喪法もほう】を使える偉大な魔女だっけ?……


 そもそも喪法って何だって話で……



『モテない人々の恨みが籠った魔法です、主に呪殺魔術が多いようですね。ラージャの眷属には即死と呪殺に強い耐性が有りますから、非眷属の国民を除けばほぼ無害です。しかし、敵は絶望を知るでしょう』



 嫌な魔法ですねぇ……


 それ『サッちゃん』の恨みも入ってそう……窒息死と圧死を同時に味わえるのかな……恐ろしい。



『そうそう、そのサッちゃんですが……九州に居るイズアルナーギの使徒が使隷しれいとして迎え入れたようです』



 なん、だと……っ!!


 サッちゃんはキチ……じゃなくて頭がオカシイんだぞっ!! その使徒さんは大丈夫なのかっ!!



『イズアルナーギに次ぐサイコパスです』



 じゃぁ大丈夫だなっ!!

 生まれてこの方これほど納得した事は無ぇぜ。



『さぁラージャ、礼拝を済ませて下さい。私はメチャに初夜の心得を授けねばなりません、渡したい小道具や見せたい体位も沢山あるんです』



 お、おう。


 でもアッチの知識は十分持ってると思うぞメチャは。アイツ毎回すっげぇ観察してたからな、メモ取ってたし。後ろの穴は経験済みだし。



『私の技を伝授するのです』



 やめて死んじゃう(俺が)



『おや? コレは……あらあら、朝駆けとは殊勝な。面白いですねぇ』



 ん、どうした? って、ほほぅ……


 ヴェーダが蟲の視界を共有してくれた。


 そこに映ったのはカスガ大陸南部で攻城戦の陣を敷く我が軍に早朝の奇襲を敢行するアホ共の姿だった。


 奇襲にしちゃぁ大軍だし馬蹄の響きも聞こえねぇな……



『消音スキルですね、魔力ゴリ押しで広範囲にスキルを掛けたようです。大軍は飛翔スキルで空輸かと。これも魔力ゴリ押しです』



 ふぅ~ん、魔力が勿体無くて草。

 騎馬突撃の先頭に居るキンキラ鎧のゴミは誰だ?



『人間国家ハロイン王国国王『イカ・ハンセン』、勇者です』



 ほう、若ぇのにまた……簒奪さんだつか。



『そのようですね、不当な王位継承を行ったようです。簒奪者の称号も有ります。簒奪は成りましたが、あの者は【三種族】の融和を提唱する甘い理想主義者、反吐が出る人道主義者なので人心掌握には苦労しています』



 ははっ、勘違いすんなヴェーダ。

 そりゃ主義じゃぁねぇ、ただの中二病だ。



『病気でしたか、それは失礼』



 さぁて、あの患者さんを如何いかんすべきか……

 あの城郭都市の攻城指揮を執ってんのは誰だっけ?



『勲六等、ゴブリン氏族長ハード・スカト=ロウです』



 おぉぉハードか、ヴェートーベンの第九で降伏して以来ずっと前線だなアイツも。



『そうですね、種族進化もキングの一つ前【ハイジェネラル】に至っています。そろそろ一都市を任せても良い頃合いです』



 じゃぁ今攻めてる都市、いや、この国はハードを太守に。

 奇襲に対する援軍は……要らんと言っても送るぜ俺は。


 瘴気甲蟲軍団は回せそうか?



『攻城軍だけの戦力で十分ですが、蟲魔人と甲蟲軍団を送れば“万が一”など有り得ません』



 そっか。まぁ蟲魔人も甲蟲もアホみたいに増えたからな……


 そんじゃぁハードに連絡して援軍派遣宜しく。



『畏まりました。ラージャは如何様いかように?』



 俺はお前の実況中継を楽しむよ。


 勇者の首をねるのはハードに譲る、って言うかそれが望ましい。




 で……




 ハロイン王国国王、勇者『イカ・ハンセン』の朝駆けは失敗した。


 そりゃぁもう無残に失敗した。

 って言うかハード率いる攻城軍はほとんど動いてない。


 蟲魔人と瘴気甲蟲軍団が空から王国軍を襲った。

 蟲軍団から見れば、ありゃぁもう泣き叫ぶエサの群れだ。


 今はハードと精鋭部隊が潰走かいそうした王国軍を追撃中。


 ハードが勇者の首を上げるのは時間の問題だな。


 そんじゃぁ、俺は朝稽古に向かおうかね。

 その前にトイレ……ウッ、ふぅ……


 ちょっと待て、あれ、この厠番の子は……



『フリンですね』



 草。









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