第282話「トンガリ眼鏡と栗の花」





 第二百八十二話『トンガリ眼鏡と栗の花』





 八月二十五日、午前十時少し前、大森林は大雨。


 俺はマハルシに創ったエーちゃん専用階層に来ている。

 丘陵と森、川や湖が在る自然豊かなクソ広い階層だ。


 ここに俺が居る理由は……参観、そう、帝王の新妻参観だ。


 ビ・アンカとイカロスをわずらっているエーちゃんのレベル上げが心配なので、しばらく新妻参観日で予定を埋めた。


 エーちゃんはしっかりと進化過程を得て魔王種に至ってもらう為、低レベルの養殖狩りから始めてもらっている。高レベル猫魔人での急速レベリングは無しだ。


 その分レベル上げに時間は掛かるが戦闘経験は積める、各熟練度も上がるし急がせる必要も無い。エーちゃんはゆっくり成長すればいい。


 と言っても、普通の眷属よりは好待遇かつ集中的にレベル上げが出来るので、特殊個体眷属の平均的なレベル上昇速度よりは早い、と思う。そうであって欲しい。


 現在、エーちゃんが狩っているのはレベル15設定の土偶兵ゴーレム骸骨兵スケルトン、それから魔ドンナが転送してくれる死霊レイスだ。


 エーちゃんはコイツらを槍撃と魔法で仕留めている。とても楽しそうだが、一体ずつ名乗りを上げて戦闘開始する必要は無いんだよエーちゃん……



『う~ん、やはり足りませんね……』



 バカ野郎っ、ヴェーダこの野郎っ!!

 礼儀正しいだろうがっ、むしろ足りすぎだろうがっ!!

 メチャ以上の大和撫子だろうがっ、お清楚せいそだろうがっ!!



『天真爛漫は認めますが、アレを撫子と言うのは……そもそも、大和撫子は大魔神の分神五十体を護衛に付けつつ敵に無言の威圧を与えながら殺害などしないかと……』



 バカ野郎っ、ヴェーダこの野郎っ!!

 心配だろうがっ、むしろ五十体は少ねぇだろうがっ!!

 レベル1の骸骨兵にシバかれた彼女の姿を忘れたのかっ!!


 俺の耳から消えねぇんだよ……


 シバかれた時の『うあ~ん、ナオちゃん痛いおー』って声がなっ!!


 気付いたら階層中の養殖を殺していた、ついカッとなってりました、反省したが後悔はしてません。


 俺は自分が恐ろしくなったぜヴェーダ……



『?? いつも通りのラージャでしたが?』



 そうか、そう言えばカチンときたら虐殺してたな(今更感)

 これからも【眷属を泣かしたら絶対殺すマン】で居続けよう。





「帝王様、そろそろ十時のオヤツ休憩で御座います」


「ん? あぁ、『アダルチ』さんか。分かった、休憩にしよう」


「ではこちらへ……あらやだ、小石が、失礼します」


「ははは、小石くらい気にするな、行こうぜ」


「ですが御御足おみあしに万が一……」



 俺に声を掛けて来たのはエーちゃんの乳母『バァバ』さん。

 本名は『アダルチ・マージャン=タイホ』百二十歳、独身。


 百二十歳と言っても翼人的には初老、長命種なら少女だ。

 アダルチさんは眷属化と悪魔化で肉体的にはかなり若返った。


 初見なら四十手前の女性だと思うだろう。

 後頭部に結い上げてお団子にした白金の髪が綺麗です。

 似合いそうなので『トンガリ眼鏡』を差し上げた。喜んだ。


 いかにも『出来そうな女性』って感じだな、目付きが鋭いのでキツい性格の教育係とか思われてそうだが、普通に優しい。口数は少ないがね。


 彼女も眷属化前のエーちゃんの様に真っ白い肌だったが、ゴリラ眷属になってコンガリ日焼けした厳格な女教師みたいになった、翼も黒くなったし温和な翼人のイメージから離れた。何かゴメンね?


 そんな厳格な女教師アダルチさんですが、他の翼人達とは違って彼女だけは『恥辱』をエーちゃんと分かち合っています。


 アダルチさんはエーちゃんと同じように『四枚の羽だけ』を身に付けて生活しているのです……っ!!


 何と言う忠誠心かっ!!


 主一人に恥を掻かせないっ、私も一緒に露出狂になるっ!!

 アダルチさんのそんな決意にゴリラの涙腺が緩む……っ!!


 こんな、こんな忠臣を前にしてっ!!


 勃起しない帝王がどこに居るっ!!

 勃起しない男が居るのかぁぁぁっ!?


 答えろヴェーダァァァーーッ!!



『居ませんね』



 そうだろうっ!?

 勃起するよこんなのっ!!


 スッゲェ隠そうと努力してるんだよ、風が吹くたびに乳首が見え隠れする羽をさり気なく片手で押さえるんだよ、駄目だよアダルチさん、そりゃぁ駄目だ……


 澄まし顔だけど頬が赤いから駄目だ、俺を何度もチラ見して気にしちゃ駄目だ、胸の羽に意識を持って行かれて股間とケツの警戒がおろそかになっちゃ駄目だ……


 そんなものは全て俺を興奮させるだけなんだっ!!


 人外帝王を前にして足元の小石を前屈して拾っちゃ駄目だ、帝王に粗相そそうがあってはならんと頻繁ひんぱんにゴミ拾いしちゃイケないんだよっ!!


 アンタは侍女の鑑、教育係の鑑、淑女の、忠臣の鑑だよ……

 でもなぁ、俺に背を向けて前屈姿勢だけは駄目なんだよ……


 スーパードストライク熟女はソレやっちゃ駄目なんだよ……


 アンタが、アンタが悪いんだ……

 アンタが前屈するのが悪いんだぁぁっ!!



「キャッ、え、な、何っ、え、ててっ、帝王様……」



『無言で背後に立ち、膨れた股間を押し当てるとは……』



 や、やべぇ……やっちまった……

 まだヤってないけど……やっちまった……


 大きな桃を鷲掴みしようとしたら股間を当てていた……

 何を言ってるか分かんねぇと思うが、俺も分からねぇ……



『そんな事ばかりやっているから……はぁ、御覧なさい、侍女も厠番も護衛も、全員が不自然にスカートをめくり上げてゴミ拾いを始めました』



 そ、それは大変だ……

 でもその前にアダルチさんを何とかしねぇと……っ!!


 くなる上は時間経過の無い桃色空間に一人ずつ連れ込み一瞬でカタを付けるしかっ!!



『はぁぁ~、仕方がありません、一人三発、外出し、宜しいですか?』



 それでイこうっ!!

 まずはアダルチさんに了解を……っ!!



「アダルチさん」


「あ、あ、あの、陛下、あの、お尻に、あの」


ちんは我慢出来ん、もう我慢出来んのだ」


「ッッ!!……エーちゃ、妃殿下には、どうかご内密に」


「お前がそれを望むなら」


「ゴクリ……あの、妃殿下が御子を授かるまで、あのっ」


「外出し、だ」


「……今夜、御寝所に参ります」


「朕は股間なり」


「は」



 さぁ忠臣アダルチ、朕の我慢は限界だっ!!

 イクよ今すぐ桃色空間――っ!!



『あぁ~、これは三発では終わりませんね……』




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「ナオちゃんっ、バァバと仲良しになったねっ!!」


「アダルチさんは優しいからな、俺みてぇなクズでも仲良くしてくれて助かるよ」


「そうだなっ!! でもバァバからナオちゃんの白因子と同じ匂いがするなぁ~? 仲良しさんだからだなっ!! あはははっ、ねっバァバ!!」


「ッッ!! あ、はい、陛下から、その、栗の花ミルクをお腹いっぱいにたまわり……」



 あぁぁアダルチさん、そんなミルクは無い、エーちゃんが欲しがるから変な事言っちゃ駄目っ!!


 あぁぁアダルチさん、阿吽の呼吸で俺に飲み物を勧めたりお菓子を補充したり俺の口元に付いたクッキーのカスをヒョイパクしたりしちゃ駄目っ!!


 エーちゃんに隠す気なくて草。



『三万年の同棲生活で得た【妻の妙技】ですね、さすが翼人王家が選んだ乳母、見事です。妖蜂のツバキ准将に近い妻スキルの持ち主ですよ』



 そ、そうなのか……

 まぁ確かに気が利くな、利きすぎる。


 って言うかツバキ達の出産は来年の春か?

 あいつら桃色空間に居るから産卵時期が分からん。



『産卵は予定通りなら来春ですね、イズアルナーギが調整してくれたので桃色空間でも同時期に出産出来ます』



 ほぇ~、そりゃ有り難い。

 妊婦が桃色空間に居てくれると俺も安心だ。

 でもアイツら空間に籠って何してんだ?



『ラージャの体から出る様々な物をはらに蓄えています』



 え、何それ聞いてねぇんだけど……


 それってお前、深淵ちゃんの時と同じなんじゃ……



『深淵ではなく終焉です、オワリの子です』



 あ、そう、間違ってたか……


 何だろう、この『間違ったままで良かった感』は……


 取り敢えず、最近ラヴが俺のそばに居ない理由はそれか。


 でもメチャはまだ処女なのに何故……?



『メチャは肉体年齢が三十歳になるまでオルダーナと共にイズアルナーギの神域へ遊びに向かいました。すぐに戻ります』



 おぅふ……

 魔皇帝を急成長させた例の恐ろしい神域か……


 オルダーナがセットってのがアレだな、不安だな……


 って言うか、メチャが三十歳に……あっ。



 ふぅ……









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る