第280話「他は飾りですよ……」





 第二百八十話『他は飾りですよ……』





 八月二十日、午前二時、朧月夜おぼろづきよの大森林。

 鈴蟲達の鳴く美しい声が盛夏を華麗にいろどらせる。


 俺は神木前に立ち夜空を見上げた。

 やれやれ、日が昇る頃には雨か……


 雲に隠れる月がかすかな光でヤツを照らす。

 真夏の夜に天使の羽音が聞こえた。


 三ゴリラ(約15m)ほど離れて天使が着地。


 天使は俺をにらみ付ける。

 三度目の正直、か……



「勝負だマハトマ・ナオキっ!!」


「まず名乗りなよ、嬢ちゃん」


「むむっ、そうだなっ、私は『エーちゃん』っ、翼人族の女王だっ!!」


「……それは愛称だ、名前じゃない」


「むむっ、そうかもしれんなっ!!」



 駄目だ……

 この子は駄目だヴェーダ……

 これは知力の問題じゃぁない……



『アートマンとイズアルナーギに頼んで貴方からの影響を極限まで抑えているのですが……やはり、あの、足りませんね』



 足りないとか言うな……

 この子は、その、ピュアなんだ……

 だがまぁ、純真無垢にも限度が有るぜ……



『念話での交渉は可能になったのに、まさか三度目の決闘を選ぶなんて……』



 しょうがねぇだろ、負けた二回は本人が覚えてねぇんだ……


 今回で納得してくれれば良いがなぁ……



『今回で無理ならば、今後は保護観察付き放置で良いでしょう。正直申し上げまして、彼女がどこで何をしようと無害ですので』



 それなっ!!


 悪魔化した翼人眷属とお前の保護観察で彼女を見守れば、ビ・アンカみてぇな悲惨な結果にはならんだろ。


 ガンダーラの支配領域は広大だ、彼女が危険を覚えず自由に飛べる空は確保してある。



『彼女の航続距離も、あの、色々と足りませんので、大森林から出るのは無理かと……』



 言うなっ……

 彼女はまだヒナなんだ……っ!!

 ピヨピヨ可愛らしいヒナなんだ……っ!!


 いつの日か、いや、明日の昼には大鳳たいほうとなって大森林を飛び立つっ!!


 私はそう信じている……


 では始めようか、翼人女王『エロ・シーン=オオメ』っ!!



「来いっ、エーちゃんっ!!」


「あ、あああっ!! お前~っ、エーちゃんってゆったー、今エーちゃんってゆったー」


「お、おう」


「エーちゃんってゆって良いのはバァバとお婿さんだけだぞっ!!」


「お、おう……取り敢えず、『ゆって』って言うな」


「…………」


しゃべるなとは言ってない」


「わかったっ!!」



 駄目だ、助けてくれヴェーダ、この子はプロだ……


 ビ・アンカとイカロスを同時発動させるプロフェッショナルだ……



『彼女の警戒心が下がっています、今ですっ!!』



 え、あっ!!


 ママンとイズアルナーギ様が抑えてくれているならイケるっ!!



「超軽めの【フェチックス・性凰せいおう按摩拳あんまけん】っ!! 眷属になってクレメンスっ!!」


『フムフム、これは心地好いです……ふわぁ~』



 心地良い性的マッサージで心を開いてくれエーちゃんっ!!



「うわああっ、あわわわっ、どこ触って……フニャ~、おっおっお前ぇ~、んだなぁ~、揉んで良いのはお婿さんだけって、バァバがゆってたぁ~、クソぅクソぅ~、気持ち好いなぁコレ~、分かった、結婚してやゆっ!!」


「違う、そうじゃない、まず眷属化に同意して欲しいんだ」


「あぁ~そこそこ、ァン、でも揉んだから結婚ってお前ゆってた」


「ゆってない」


「じゃぁ眷属化もしないっ!!」


「……ゆった」


「わかったっ!!」


「有り難う、では……セインセイヤーーッ!!」


「お、おぉおお、日焼けしたっ!! おぉおお、翼が黒くなったっ!! あわわわわっ、翼が増えたっ!!」



 すんなり眷属化が終わった……

 悪魔化も終わった……

 翼が四枚になった……



『ほほう、さすが翼人王家の血筋、腐ってもタイと言うところですか、素質は悪魔公爵級……いいえ魔王並みだったようですね。魔神妃の称号も得られたようです、おめでとう御座います』



 へぇー、魔王ねぇ……

 どうでも良いけど疲れた……

 これが試合に勝って勝負に負けるってヤツか……



『うふふ、そうですね。では帝王の誇りを守る為に桃色空間で完勝をお願いします、彼女の全体的に低い能力を上げる事もお忘れなく』



 そうか、桃色空間で相互理解を深める事も出来るな……

 ちょっと一億年くらいを目安に頑張ってみるぜっ!!


 いつの間にか目の前まで近寄っていたもだえるエーちゃんに近付き、素早くお姫様抱っこ。



「あぁ~、これお婿さん以外やっちゃ駄目ってバァバがゆってた」


「俺は婿だから良いんだよ」


「そうだなっ!!」


「そんじゃぁ神域うちに行くか」


「わかったっ!!」



 素直すぎて危ねぇな……

 俺に向けられる無垢な笑顔の破壊力がスゲェ……


 視線を少しズラせば防御力無視の羽ブラ……

 って言うか、その羽ブラがめくれてる……


 ウソでしょ……


 か、陥没……だとっ!!


 す、す、す、吸い出してあげなきゃ!!(使命感)



『アートマンとイズアルナーギの干渉を解除します。どうぞごゆっくり』



 有り難うヴェーダっ!!


 この子は一億年じゃ足りんかもしれんっ!!

 そこんとこヨロシクゥ~!!!!



『はいはい』



 では、イッて来まーっす!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 昼過ぎ、朝の大森林は大雨だったが、今は晴れている。


 そんな大森林の夏空に筋斗雲を浮かべ、俺は大空を舞う新妻と初デートを楽しんでいる。



「見ろナオちゃんっ!! 地上の蟲がアリのようだっ!!」


「うん、あれは蟻だエーちゃん、眷属蟻」


「そうかっ!!」



 とても嬉しそうに微笑むエーちゃん……

 その穢れ無き笑顔が俺を狂わせる……


 俺とエーちゃんは桃色空間で愛し合った、とても深く愛し合った。


 気付けば三十二億年愛し合っていた。


 神に至ると時を意識しなくなる、あっという間に終わりを告げた三十二億年、だが思い返せば楽しい事ばかりで毎日が幸せだった。


 エーちゃんはレベル1、各スキル熟練度も3以下のクソザコ女王だったので、スキルを増やしたり魔術を覚えさせたり、それらの熟練度を上げたりと他の嫁さんズのエロ寄り生活とは違う桃色空間生活を送った。


 無論、セクロスは毎日、だっ!!


 そんな幸せ生活を終え、何故か大魔王さんとサタナエルが晩飯時に伏魔殿パンデモニウムへ来ると言うので、それまでの間エーちゃんとデートする事になった。



「ナオちゃんっ!!」


「何だ?」


「好きっ!!」


「ははっ、俺も好きだよ」


「そうかっ!!」



 エーちゃんは数分置きにこんな事を言ってくる。

 まったく、とても可愛いじゃないか……ハァハァ。


 しっかし、大魔王さんとサタナエルは何の用だろうか?



『レベル1、無進化、マハトマ種、大魔神眷属、魔神妃、トドメに四翼しよく悪魔、……堕天の大王兄妹が『エロ・シーン=オオメ』を気にするには十分かと』



 ふぅ~ん、そんなもんかねぇ。


 俺には分らんよ。


 だが、エーちゃんは可愛い、それは分かる。



『うふふ、そうですね』



 さて、次はハイジクララ山脈を越えて……



「ナオちゃんっ!!」


「どうした?」


「好きっ!! あははっ」


「俺も好きだぞ」



 うん、天真爛漫らんまん、結構じゃねぇか。


 他の魅力はただのオプションだ、なぁエーちゃん。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る