第274話「息子のお土産に持って帰る」





 第二百七十四話『息子のお土産に持って帰る』





 八月八日、正午過ぎ、神木前広場。

 楽しいパパの日が切ないパパの日になりそうだ……


 大森林に生まれて『長』の立場に在る者が、挑まれた戦いに背を向ける事は赦されない。背を向けた瞬間敗北が決まるからだ。


 それは族長などのリーダー以外にも通じる大森林の掟と言っても過言ではない。敗者ジャキは全てを失うのであるっ!!


 即ちっ、たとえ三大陸を支配した人外帝王に世間知らずな小鳥が勝負を挑んだとしてもっ、帝王は挑まれた勝負を受けなければならないっ!!


 それが、それこそが大森林の掟、帝王とて無視は出来ない、その戦いは必ず成立するのだ……っ!!


 だからこそっ!!


 帝王は退かぬ、けぬ、身を隠さぬぅぅっ!!



『ヤダ、私のラージャがカッコ好すぎて困る……御覧なさいゴム丸君、これが【偉大なるアートマンマハトマ】姓を許された父の生きザマです』



 オイオイよせよヴェーダ……


 母ちゃんが親父の『普通』を息子に語るもんじゃぁねぇぜ?


 それになぁ、息子に親父の生き様を語る役目は渡せねぇ……


 息子に語るのはいつだって……親父の『背中』、だっ!!



『うそヤダ、今日のラージャはカッコ好さに容赦が無さすぎて困る……』



 馬鹿野郎ヴェーダっ、この野郎っ!!


 愛妻おまえの前でカッコつけるのは……悪ぃのかよ?



『ッッン……ヤダなに、今日のラージャすっごい……』





「あ、あの~主様? 翼人女王が気絶しましたので、勝負は主様の勝ちですが……」


「……分かってる、勝ち名乗りを上げてくれミギカラ」


「あ、ハイ。一本っそれまでっ!! 勝者マハトマ・ナオキっ!!」



 パチパチ……

 パチパチパチ……



“ば、ばんざーい?”

“す、すごいですー”

“つ、つよいなー……”

“わー、かっこいいー”



 勝負を見守っていた眷属達から微妙な拍手が贈られてきた……

いつも聞こえてくる『ナオキ・ザ・グレイト』コールも聞こえない、切ねぇなぁ。


 ……是非も無しっ!!


 神域から勝負場所の神木前広場に転移した瞬間、勝負相手の翼人女王がブッ倒れたからな、微妙な空気になるのは仕方が無い。


 居たたまれなくて切なすぎるのでヴェーダに俺の男気おとこぎを語ってみたりしたが、ヴェーダからの好感度が危険な感じになるだけだった。後悔はしていないが反省している。



 さて、アヘ顔ダブルピースの翼人女王様をどうしようか……



『まずは眷属化して【知力】を上げましょう、この子はちょっと、あの、足りないです』



 足りないとか言うな……


 彼女はただ物事を忘れっぽいだけだ……

 何かを覚える事や考える事が苦手なだけだ……


 見ろ、金髪と白い翼が天使の様じゃないか……

 羽で作ったブラと腰巻が天使の様じゃないか……


 植物のツルに羽を左右一枚ずつ吊るしただけのブラ、前後に一枚ずつ吊るしただけの腰巻……


 そのスレンダーな妖艶ボディが俺を狂わせる、ふぅ……


 分るかヴェーダ、防御力も遮蔽しゃへい率もゼロに等しいブラと腰巻が大森林の微風そよかぜに揺られるあの神々しさよ……(見えたっ)



『他の翼人達に比べると……やはり足りませんよね?』



 多少の低知力が何だと言うのかねっ!?



『低知力と高純度の天真爛漫ムーブが初心ウブな科学反応を起こし、各種耐性が崩壊。純真無垢で性知識皆無な彼女はラージャを直視出来ません。せめて念話で眷属化の合意を得る事が出来れば、知力の底上げは可能なのですが……』



 念話でもビクンビクンしちゃうじゃん彼女……

 ってか、一番の問題は話を聞いてくれない事なんだが……


 同族の話も聞かんからなぁ~……


 ゴリラ唯一の武器と言って良いエロ体質を使った戦法が全部使えんし……


 他の翼人達はスムーズに眷属化出来たのに、無念だっ!!



『取り敢えず、ラージャのフェチモンや神気をアートマンに抑えてもらいましょう。その後、離れた場所から翼人女王と会談を試みるか、もしくは念話で話し合いですね』



 そうするか……

 話が通じると良いなぁ……


 あぁ~、そうそう、翼人達の新住居は決まったか?



『マハルシ派と神木派で分かれています。安全なダンジョン内の高原階層と、妖鳥族ハーピーがアートマンに創ってもらった神木のうろ、翼人族にはどちらも魅力的に映るようです』



 ハハッ、そっか……


 ゆっくり羽を休ませる事が出来るなら何処どこでもいいさ。


 もうスポーツハンティングのマトにはさせねぇよ、絶対な。



『マハーラージャの望みは必ず叶いますとも、ウフフ、では翼人女王をマハルシの宮殿に転送します。彼女の御付きをしていた者も随伴させますね』



 え、帝王宮に? 何で?



『魔神妃に迎えるのでしょう?』



 え、べ、別にそんな事考えて……



『ラージャの股間は嘘をきませんね、正直で宜しい』



 たはーっ、こりゃ一本取られたなっ!!

 まさに一本釣りだなこりゃ、たはーっ!!



 ……股間がイライラするので魔界へ昆虫採集に行こう。

 イライラしている時は蟲が多く寄って来るんだ。


 メチャとラヴが神域で子供達と遊んでいるので、久しぶりにソロハンティングだっ!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「あ、あの、大魔神様、あの、また、あの……」


「うむ、また後宮で会おう」


「えっ、アタシ後宮入りですかっ!! やったー!!」


「後の事はトンネル君に任せてある、行きたまえ」


「はいっ、ではまた……チュッ、えへへ、失礼します!!」


「さらばだ、ヤギの角が生えた悪魔ちゃん……」



 ふぅ……


 イライラしていたら可愛い蟲が寄って来てしまったんだぜ……


 こんなに深い魔界の森で出会ったのは運命だろうか……



『追跡されていましたが……』



 おっと、野暮は無しだぜヴェーダ。

 気付かなかった、それでイイじゃないか。


 ……いいね?



『まぁ、振り撒いた白因子に蟲がたかって来ましたので、結果的に目的は達成出来そうですが……如何せんメスばかりですねぇ』


「計画通り、だっ」


『はいはい。ラージャ、あちらの白因子に群がる甲蟲などはイズアルナーギが好みそうです。ツノ有りがオスですね』


「ほほ~ん、どれどれ……え、何コレ、脚の付け根にショルダーアーマー? しかも強そうなオスのショルダーアーマーには三本スパイク付きだ、カッコイイ……何て名前の蟲だ?」


『名は有りませんね、名付けせぬままイズアルナーギに贈ると喜びますよ?』


「ヒュ~、ゴ~キゲンじゃぁ~ん」



 じゃぁ今回はこの蟲を雌雄十匹ずつゲットして……


 それとは別に、う~ん、三組をフリンの友達の昆虫博士ん所に持って行こう。特殊交配のプロフェッショナルらしいからなっ!!


 宇宙艦隊創設に向けて頑張りましょう!!


 って言うか、蟲って……


 イモ息子君に預けるとどうなるのかな?









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