第270話「残り四匹」





 第二百七十話『残り四匹』





 七月二十四日、午前、ダンジョンの最奥、豪奢な欧州風の雰囲気があるコアルームは天井のライトが明るい。


 ダンマスは五帝の一人、猫獣人の男だった。

 あ、今は猫魔人か。


 コアは浮遊する星形二十四面体、青い八角星だな。


 猫魔人の固有スキルは【死に戻り】だった。

 くたばったら何度でも指定ポイントで復活出来るらしい。

 死ぬまでに得た経験値や熟練度は復活後も引き継がれる。


 となれば、俗に言う『ゾンビアタック』が可能なわけだ。

 強敵を倒せるようになるまで、死線を超えて成長を繰り返す。


 各種スキルも魔法もその辺の勇者とは比べ物にならないほど鍛えられていた。【死に戻り】と言う固有スキルの利点を解ってると思ったね。


 そして、この猫魔人に加護を与えたのは異世界の冥神だ。固有スキル名で何となく『死神とかそっち系だろうなぁ』と予想は出来ていたが、当たりだった。


 俺は猫魔人の能力と冥神の存在を確認した時点で勝負は着いたと確信した。



【死に戻り】は確かに強力なスキルだが、その能力を有効活用するには条件がいくつか有る。


 死に戻る事によって確実にレベルアップしていくには、まず成長のかてとなる弱者が必要だ。


 そして、自分の強さに合わせて『エサ』の強さを上げていき、強敵に当たったら死に戻る……その繰り返しで強者を倒す、つまり、確実に殺せる相手と『いずれは殺せる相手』が必須となる。


 その両者が居なければ成長は遅れる、死に戻りによる多くの利点は失われる。


 戦闘経験や熟練度等は伸びていくだろうが、レベル制のこの世界では不利な点が多い。


 今回の俺達ように圧倒的な力量差が有る相手との戦闘では、一度の戦闘で得られるものなど無きに等しい。瞬殺されて終わりだからな。


 死に戻るたびに即殺、得られるのは恐怖だけだ。


 大魔神に魔法は効かない、水属性以外の魔法は全て吸収か反射、物理攻撃も吸収。俺は鼻ホジしながらボケッと突っ立っておくだけで神気と体力が回復する。


 そもそも、たかが魔人如きの攻撃じゃぁ俺が持つ毎秒の自然回復量を超えられない。まぁその前に傷一つ付かんが。


 逆に、この猫魔人は俺達にとって『豪華なエサ』となる。


 高レベルなのに何度ブッ殺しても復活するからな、サービスステージってやつだ、笑いが止まらんわ。


 しかも、このアホをブッ殺して死に戻りさせるたびに、アホに加護を与えている冥神の神気は少しずつ減ると言うオマケ付き、皆の殺る気が増すのは自然な流れでしょうっ!!


 ですので、このアホと冥神はしばらく飼う事が決定。コアは俺がさっき食った。スパイシーなチキン味で美味しかった。


 冥神は異世界の冥界に身を潜めていたが、猫魔人との繋がりをママンに『根源改変』されて、ママンに指定された場所(俺の冥界)以外で猫魔人と繋がると滅ぶ上に、繋がりを断つと滅ぶ仕様にされたので、現在は俺の冥界で白目を剥いている。


 まぁ、俺の冥界って言うか、先日新しく創った深淵ちゃんの冥界だけどね!! 少し同情しちゃうね!!


 って言うか、今回ママンが動く予定は無かった、それなのにあの冥神が『下界に降りてあの惑星を冥界にしてやろうかぁ~?』的な脅しをカマして来たもんで、俺達だけの問題じゃなくなってママン出動になった。


冥神ヘルが居る場所が冥界』、これはヘルについて語ったロキさんの言葉だったが、異世界でもそれは同じだったようだ。


 この惑星にはママンの信者やイズアルナーギ様の信者も大勢居る、そんな場所を冥界に変えるとか……よく言えたもんだと感心するね。


 俺が動かなくても不可触神のどちらかが動いてしまいだ。


 あの冥神は負けが決まった時点で猫魔人を捨てて逃げるべきだった、勝ち目の無いゲームも投げてな。


 たとえ世界さんのゲームに勝ったとしても、不可触神が居る宇宙域の最高神に与えられる権威と権力は幻だ。裏番長にペコペコしながら生きていくのがオチだろ。



 取り敢えず、今回も俺の出番は少なかったなっ!!


 鼻ホジ状態で猫魔人のサンドバックになってた時が一番輝いてたんじゃないかな、俺っ!!


 まぁあれだ、最終的に『豪華なエサ』が手に入ったからヨシっ!!


 今も眷属達が仲良く順番を守って猫魔人を殺してるからなっ!!



『うふふ、お疲れ様でした、眷属の総亜神化に目途めどが付きそうで何よりです』



 そうだなぁ、これも世界さんのシナリオ通りなんだろうなぁ……


 どこまで強化させるつもりなんだか……


 もうあれだな、世界さんが『もう強化しないでっ!!』って言うくらい強化しちゃうかぁ~?



『その為の準備はずっと前に済ませているでしょう?』



 まぁねっ!! 建国記念日にお披露目出来そうか、アレ?



『ダンジョン外の建築工事ですし、物資等の確保もスムーズとは言いきれませんが、妖蟻が全力で頑張っておりますので、期日までには問題無く完成するかと』


「そっか……」



 完成するのか『帝王陵』っ!!


 俺だけじゃなくママンへの信仰を集める目的で造る事にした帝王陵、上手くいけばママンの力は宇宙一ぃぃっ、とか思って着工したけど、俺が心配する必要無いくらいママンが強かった件について……


 あふぅん。

 有り難う御座います!!



『ラージャが活躍すればアートマンも同時に崇められますからね、帝王の母親ですし、眷属から向けられる信仰心はトップです。ついでに、ちょくちょく神々を滅ぼして神核を吸収していますから、無駄に強いですよアートマンは』



 そりゃ重畳、息子として鼻が高いです!!

 そのまま世界さんをブッ殺して欲しいですっ!!



『う~ん、イズアルナーギと組めば……イケそうな気もしますね』


「え、マジで? イズアルナーギ様もヤバめ?」


『あの子も当然強いですよ? 滅ぼした神の数ならアートマンより多いです。信者数は魔界の悪魔を有するアートマンが上ですが、両者の権能が権能ですから、戦っても勝負は着かないでしょう』



 ええぇぇ……


 俺そんなヤバ神様の姉貴に凄いセクロスしてるんだけど……



『オルダーナは喜んでいるので大丈夫です、ただ、絶対に泣かさないで下さい』


「誓う、絶対にだっ!!」



 生まれて初めて真剣な誓いをしたぞっ!!

 こんなに真面目な誓いを立てたのは初めてだっ!!



『そうそう、イズアルナーギのすぐ上の姉『イルーサ王女』がコア息子との縁談に乗り気です。王女から好みの男性の容姿をうかがっていますので、イメージを送りますね』


「お、おう」



 ……ふむふむ。


 これは……日本の特撮ヒーロー、かな?


 え~っと、どゆこと?

 変身出来る男が良いって事?

 それとも変身後のコレが良いの? どっち?



『変身後のソレが好みなのでは?……いえ、もう一度詳しく聞いてみますね、何だか自分の考えが怪しく思えてきました』



 是非そうしてくれたまえ。

 さすがに変身後の彼氏は要らんと思いたい……



 さて、このダンジョンは改造不要みたいだし、猫魔人ブッ殺し部屋は造ったし、あとは管理コアっ子を任命して終わりだな。


 他の事はヴェーダとトンネルさんに任せて……ヨシっ!!


 っと言う事で、俺はオマンとコアっ子作りに精を出したいと思います。



 あ、オマーン、俺オレ、今から大丈夫?

 い、今から手作りケーキの毒見? ほほぅ……

 う、うんうん、まぁ俺に毒は効かんけど……

 え、じゃぁ全裸で勝負って……ゴクリ……ハァハァ。

 お、俺の生クリームでお前をデコレーション……


 ふぅ……


 よぉ~し、待ってろよ~ん、すぐ行くかんなぁ~!!


 ソイヤー転移ぃ~っ!!

 か~ら~の~ルパンダーイブ!!






  第八章・完








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