第253話「あぁ、それ聞いてないかな」





 第二百五十三話『あぁ、それ聞いてないかな』





 六月四日、夕暮れ時、大森林の空はオレンジ色に染まり始めている。


 そして、桃色空間で俺の股間も真っ赤に染まった。


 衝撃的な出会いと気絶、気絶から復活した直後のプロポーズ、女吸血鬼フオウさんは明るく大胆で人懐っこい乙女メンヘラだった。


 俺が一瞬でも答えに詰まると自殺を試みる乙女だった。


 好い男過ぎる俺は二つ返事で彼女の願いを受け入れ結婚した。


 ママンとイズアルナーギ様と魔皇帝、その御母堂にヴェーダが連絡。


 四人は祝ってくれた、イズアルナーギ様はフオウさんに桃色空間をプレゼントして下さった(白目)


 眷属化、悪魔化、大魔神妃化、大魔神の加護、二柱の不可触神から加護、大魔神から吸血、俺の正気が疑われたレベルの生気注入、フオウさんは手が付けられない乙女になっていた。


 フオウさんは俺を桃色空間に閉じ込めた。

 彼女と過ごした五十四億年は毎日が乙女チックだった。

 自殺未遂を何度見たか覚えていない……覚えていないんだ。


 桃色空間から出たフオウさんは嫁さんズに挨拶した。

 俺と合体したまま挨拶したんだ……オカシイよ……


 イセトモの目が死んでいた、俺の心も死んでいた。

 フオウさんは何故かプルピーと仲が良かった。

 妹が出来たと喜んでいた、喜んでいたんだ……


 なので、フオウさんは出撃した。

 意味が解らないがプルピーと出撃した。


 フオウさんは【旧型サイコメンタル】に乗って出撃した。


 何故、地上戦で旧型サイコメンタルに乗る必要があったのか……


 旧型サイコメンタルの機体全体から放たれる【拡散瘴気ビーム砲】は、全方位に貫通瘴気ビームを撃ち込む三次元攻撃だ。地上に立って放つビームではない、敵も味方も阿鼻叫喚必至。


 ヴェーダの機転で眷属達はマハルシに強制退避させられた。結果的に助かったが、旧型サイコメンタルの周囲が地獄絵図と化したのは言うまでもない。


 プルピーと冥府五姉妹は大笑いしていた、狂ってる……


 フオウさんは念話で『褒めて?』と言って来た、狂ってる……


 どうやら、彼女達は俺達以上に人間や獣人を卑下しているようだ。眷属に対しても気遣いが薄い……狂ってるっ!!



『ラージャも大概だと思いますが……』



 お黙りなさいっ!!

 気遣いお化けと呼ばれたこの俺をあなどるなよ?


 被害に遭いそうだった眷属達には干し芋セットを贈っている、分かるか、この気遣いがっ!?



『干し芋って……』



 それに、フオウさんとプルピー達には五千年ほど教育的指導もしておいた、俺に抜かりは無い……っ!!



『相手が喜ぶ教育的指導とはいったい……』



 バカめっ、『ごめんなしゃい』や『もうダメ赦してぇ』と言った反省の弁をこれでもかと引き出している、あの懇願は心の底から反省している為に出たと俺は感じたっ!!



『なるほど、では、何故彼女達は再出撃したのでしょうか?』



 ……威嚇いかく、そう、威嚇、だっ!!


 マルチディスプレイを見ろヴェーダ、プルピー親衛隊【アクメズ】が二十四機の【ザコⅢ改】で周囲を固め、冥府五姉妹が駆る五機の【キュベ霊(パープルカラー)】が先導し、【旧型サイコメンタル】と【サイコメンタルMk弐】が飛行形態で並行するだけで敵が白旗を上げているではないかっ!!



『それって巨大戦艦でも出来ますよね? あ、サイコメンタル両機が砲撃を開始しました、これほど酷い虐殺はなかなかお目に掛かれませんね』



 ……とりあえず、人畜の確保を優先してクレメンス。

 ちょっとあれはヒドい、マジで頭がオカシイ……


 殺すのは構わんが、生気経済的な損失を学ばせる必要があるな!!



『無駄な殺生に苦悩していた一年前が懐かしいですね』



 そうだな、悪神上等の意気込みを見せてくれたママンに感謝だぜ!!


 あふぅん、久しぶりのチンさす、有り難う御座います!!


 疲れた心に母の愛がみる……

 よし、ちょっとオマンのとこ行ってくるっ!!



『フオウが後を追うのでは?』



 ッッ!!!!


 た、助けて……



『分神を与えてはどうでしょうか、プルピエルも分神愛好家として有名ですし、フオウもいけるかと』



 嫌な愛好家だな……

 有名ってどこの地域で?


 ま、まぁいい、分神を与えてみて様子を見よう。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 与えてみました。


 食べられました。


 比喩ではなく食べられました。

 正確に言うと吸われて消滅しました。


 分神を見たフオウさんは小猿達の足元に【闇の湖】を展開して一瞬で全分神を捕獲。


 捕獲した分神を一体ずつ【闇の湖】から引き抜いて首筋に牙を立てました。


 恐怖で硬直する哀れな小猿君は、干物ひもののように干乾びたあと光の粒となって消えました。


 フオウさんは小猿を仕留めるたびに絶頂していました。

 下腹部を撫でながら涙を流す場面もありました。


 涙の意味が解らない、怖いです。


 オマンから晩御飯の用意が出来たと念話が入りました。

 特別なエサを用意したから早く来いバカと言っています。


 今日は行けないかもしれない、そう応えました。

 絶句した様子のオマンが『二度と来るなっ』と言いました。


 現在、鼻水をすする音だけが聞こえる無言念話が鬼のように掛かってきます。


 僕はどうすれば良いのか分かりませんっ!!



『かくなる上はフオウを連れて行くしか……』



 そうですね、ちょっとオマンに聞いてみます。



 ……うん、え、うん、マジ? あぁそっか。

 ……え、バッカ、お前、好きに決まってんじゃん?

 ……あはは、うん、裸エプロン、なはは、なんつって!!



 オマンは全然オッケーだそうです。


 しかし……


 う~ん、これは何でしょうか、気の弱い大学生の彼女が住むアパートに、押しが強く空気読まない女友達を連れて行く気分です……


 そもそもフオウさんは気分を害さず一緒に来てくれるのでしょうか?


 小猿を喰い終わったタイミングで聞いてみましょう。


 …………



「フオウさん、オマンのとこに晩飯食いに行こうぜ!!」


「え、三人でやるの? しょうがないなー、えっち」


「う、うん……」



 おかしい、『晩飯』の部分が聞こえていないようだ……

 しかも、何故か俺に非が有るような言い方だ……


 言葉のキャッチボールが出来ていないッッ!!


 俺だけミット構えてキャッチしてるのに、彼女は俺が投げたボールを捕らずに見送って、自分が用意したボールを豪速変化球で返してくる感じだ……



『旧型サイコメンタルは機体が要求するサイコパワーが尋常ではなく、イズアルナーギが現実的に『操縦者不在』と判断し、格納庫の飾りとして放置された機体でした。その機体を見事に操縦したフオウのサイコパワー、さすがですね、人の話を聞く気が無い』



 ごめん、お前が何を言っているのか俺には分らないよ……


 サイコパワーって何だよ……


 精神異常力?

 それともただの精神力?


 機体名を考えると震えが来るよ……










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