第248話「不倫の香りを乗せて」





 第二百四十八話『不倫の香りを乗せて』





 五月一日、朝、エイフルニア大陸北部は晴れ。


 本日のゴリラは魔皇帝が統一したエイフルニア大陸に来ております。


 魔皇帝は別の惑星に引っ越しが完了したので、この大陸を『義兄に』と言ってポンッと譲ってくれた。


 義兄、そうねぇ、義兄ですね俺。

 実妹のナオコちゃんには一度も会った事ないんですが……


 とても申し訳ないので【マーラニキ印のモッコリエキス】とか【アハトミンS-EX若妻泣かせ】とか、珍しい物の詰め合わせセットを三年分くらい贈った。不死眷属ばかりなので、アムリタとか要らないって言われた。


 で、早速エイフルニア大陸へ旅行気分でやって来たわけだが、大戦艦から見る地上の風景に苦笑が漏れますな。


 見事に人影が在りません。街や村も在りません。

 文明が存在した場所は平地になっています。


 人工建造物はゴッソリ持って行かれた感じですかね。


 真祖吸血鬼まこうていの収納スキルとイズアルナーギ様のぶっ壊れ権能なら、このくらいは簡単だろうなぁ。


 もともと、イズアルナーギ様は信徒が住む場所をご自分の神域に用意出来るので、この大陸も地球も故郷も移住先の惑星も不要だと思っていたそうだ。どうやら、イズアルナーギ様の神域には果てが無いらしい(困惑)


 しかし問題発生、イズアルナーギ様は人畜がお嫌いだった。


 ダンジョンの生気徴収と同じように、イズアルナーギ様は【生体燃料】と言う物を生物から徴収している。さらに、魔皇帝とその眷属は人畜の血液が必須。だが、必要だとは理解していても、イズアルナーギ様は不快な人畜を神域に移住させる気はない。


 そこで、イズアルナーギ様の御母堂が『人畜を移住させるどこかの惑星に、カッコイイ虫さんが居るかもよ?』と説得、移住可能な惑星発見と臣民人畜大移動を完遂に導いたようだ。ママは強しっ!!


 って言うか、その移住先はもう人畜専用惑星だよね?

 牧場デカすぎワロタ。昆虫採集の範囲広すぎワロタ。



『あの子は甲虫が大好きですから』



 そう言う問題じゃないんだよなぁ……

 しかも惑星持ちすぎなんだよなぁ……



『地球の支配領域はルシフェルと折半にしたようですが』



 それを除外しても故郷惑星と移住先惑星を持ってんだよなぁ……



『昆虫採集でまた所有惑星が増えそうですね、面白い子』



 面白い子じゃねぇんだよなぁ……

 頭がオカシイ子なんだよなぁ……

 地球の月よりデカい宇宙要塞持ってんだよなぁ……



『航宙要塞母艦ですね、アレはもう旧型なので要らないそうです。買い取りますか? カッコイイ甲虫一匹で交換出来そうですが』



 ヴェーダ、眷属動画サイト『ゴリちゅ~ぶ』に繋いでくれ。


 眷属ネットで配信予告も宜しく。

 魔界にも告知してクレメンス。


 タイトルは『緊急っ!! 帝王生配信、集まれ蟲キングス』だっ。



『クスクス、はいはい』



 やれやれ、虫捕りナオキと言われていた過去は隠していたんだがな、俺は平穏な異世界ライフを望んでいたんだがな、9cmオーバーのオオクワガタを育て上げた経験なんて大した事ないんだがな、やれやれ困った。


 二皇四帝とか比較的どうでもいいので虫捕りに労力を注ぐ必要が出てしまったぞこれは困ったヤレヤレまったくトホホ。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 【とあるゴブリンの憂鬱】




 俺の名は『カナリ・ヴァギ=ナスキ』、ヴァギ=ナスキ氏族の族長だ。


 ガンダーラでは古参の眷属であると自負している。

 しかし、同世代のミギカラやハードに比べると功績は劣る。


 ウチの氏族からメーガナーダのような豪傑が出ていれば、族長として一目置かれたかもしれない。


 主様に見初みそめられたメチャのような女傑を輩出していたら……いや、この他力本願な姿勢が駄目なんだろう。


 三ヵ月前まで妻だった女は、マハルシの悪魔ホストクラブで知り合ったイケメンに寝取られた。


 強者の許へ走る者を追わず……

 大森林の掟に従い、嫁とは別れた。


 イケメン悪魔のデカいペニスには勝てない。


 眷属進化しただけのゴブリン族長など、もはや価値など無い。


 百二十本ほどに生えそろった俺の頭髪が、大森林の優しい風に揺れる。


 俺は駄目な男だ、主様のような好い男にはなれない……


 悲しみと情けなさで圧し潰されそうだった俺は、何かを考えるヒマを無くす為ダンジョン攻略に明け暮れた。


 そんな日々を送っていたある日、俺と同じ境遇のゴブリン氏族長『ナナメニ・チク=ビナメル』から誘いがあった。


 ナナメニは言った、『おごってやる、吉原行くぞ』と。


 吉原は高級娼館・男娼館が建ち並び、そこに高級娼婦・男娼が勤めるお高い色町ダンジョンだ。


 急な誘いに驚いたが、以前からオッパイエ様の聖水を何度も浴びていた俺は、正直イライラが溜まっていた。


 そろそろ限界、元嫁の事も忘れる必要が有る。


 俺はナナメニの誘いを受け、その日の晩に吉原へ転移した。



 天国、そう、あれは天国だった。

 アートマン様が御座おわす天の国だった。


 吉原での情熱的なセクロスは、俺を天国に導いてくれた。


 その日から、俺は天国通いが日課になった。


 そして先日、俺ことカナリ・ヴァギ=ナスキは、悪魔高級娼婦のサキュバス『フリン(源氏名)』と結婚した。


 マハルシでの新婚生活は最高だった。


 天国の滞在時間が大幅に増えた、なんて言ったら嫁さんに怒られるかな。


 主様に頼んで彼女の源氏名を本名にしてもらった。

 これで俺の嫁は『フリン・ヴァギ=ナスキ』となった。


 うだつの上がらない俺に嫁いでくれたフリン、彼女が隣に居てくれるだけで毎日が幸せだ。


 俺はフリンをもっと幸せにしようと思った。

 ダンジョンで鍛え、戦争で前線に立ち、DPとFPを稼ぐ。


 無我夢中だった、いつの間にか将軍位をたまわっていた。


 フリンと結婚してから良い事が続く、本当にアゲマンだぜ。


 順風満帆な五月のある日、主様から勅令が発せられた。


 曰く、『大きくてカッコイイ甲蟲(甲虫)を採って来い』


 俺はうなった、大森林はデカい蟲が多い、しかしカッコイイ甲蟲となると難しい。


 リビングのソファーでウンウン唸る俺、クスクス笑いながら嫁のフリンが隣に座って言った。



「魔界の友達に昆虫ブリーダーが居るんです、だけど、色んな虫を掛け合わせてヘンテコな虫を作ったりもしているので、周囲から距離を置かれていて」


「ふむ、それで?」


「ですので、もしかしたら誰も知らないような虫も飼っているんじゃないかな~っと」


「……DPは俺が出す、話を付けてくれ」


「クスクス、では少し里帰りしてきますね。チュ」



 そう言って、彼女は魔界へ一時帰宅した。

 俺はDPペイカードとFPペイカードを持って彼女を待った。





 翌日、俺達夫婦は主様から皇城に招かれた。


 以前にも増して強者の威厳を纏わせた主様が玉座から立ち上がり、ひざまずく俺達の前まで歩いて来られ、俺と嫁を二人纏めてその大きな両腕で抱き寄せた。



「カナリとフリン、よくやった。お前達はこの帝王が成し得なかった事をやってのけた、見事だ。カナリを正二位しょうにい甲蟲将軍スーレイヤ都督ととくに任じ、コア娘を嫁がせる。妻のフリンは従二位じゅにい甲蟲夫人スーレイヤ女官長に任ずる。はげめ」



 主様に抱っこされるオッサンゴブリンと美しいサキュバス、とんでもない事になったが、これもフリンのお蔭だな。


 明日から忙しくなりそうだ。


 ただ……


 主様に抱っこされた嫁の様子がオカシイ。

 そんな顔は見た事ないんですが……



 今夜はいつも以上に頑張ろう。







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