第238話「あっちゃー、まいったなー」





 第二百三十八話『あっちゃー、まいったなー』





 四月六日、朝、大森林は快晴。


 俺は神域に転移し、ヴェーダが産んだ第二子を抱っこしに来ました。




 ふむ、ふむふむ、黒いな、真っ黒だ。


 これ以上の黒は無いと断言出来るほど驚きの黒さ。


 チラッと正妻の顔を見る。

 目が合った、視線を逸らして口笛を吹いている。


 クッ、真面目キャラのギャップ萌えを狙い撃ちか、やりおる。


 だがしかし、夫として、聞かねばならんっ!!


 ここは静かなゴリ神域、中央にそびえ立つ黒く大きな神殿の中庭で、俺はヴェーダに問いかける。



「この子は、その、何でしょうか?」


「赤ん坊です、女の子です」



 そうか、女の子だったのか、貴重な情報を一つ得られた。

 でもな、そうじゃないんだ、聞きたいのはそこじゃない。



「女の子ね、なるほど、で、この子は、何なのだろうか?」


「えっと、う~ん、終焉?」



 いや俺に聞かれても……

 終焉ってお前……


 俺にはただのブラックホールにしか見えないんだ、お前が抱いているその赤ん坊……


 頭はどこ? 手足は有るの? 息してる?

 ゴゴゴゴって聞こえるのは寝息? 吸引音じゃない?


 俺が抱っこしても平気? 俺死なない?

 あ、今『ギャーッス』って悲鳴が聞こえたよ?

 その子もうどこかの世界を吸ってない?



「大丈夫です、アートマンは抱っこ出来ます」


「根源をどうとでも出来るママンと俺を一緒にして欲しくないかな」


「大丈夫です、私も抱っこ出来ます」


「お前さっきママンに何か頼んでたよね、吸収無効化かな?」


「軟弱者っ、それでも父親ですかっ!!」


「お前がどうやってこの子を産んだのか気になるわ」


「アートマンが私のお腹を見て『『滅ぶぞ』』って、だからお願いして出産を手伝って貰いました」


「ちょっとお母ちゃんに滅びを回避して貰ってくりゅ」



 僕は走れメロスより必死になってお母ちゃんの所に転移しました。


 その後、赤ん坊を抱こうとしましたが、僕の貧弱な腕力では抱える事が出来ませんでした。質量がオカシイです。


 お母ちゃんの助力で何とか抱けましたが、赤ん坊が僕の心に何か語り掛けて来るのでビックリしました。


 うふふ、可愛いですね。


 僕は立派な父親として、心をノックする娘の声に耳を傾けます。




『オトウサン、オトウサン、オマワリサン、コノヒトデス』





 僕は気絶したのでしょうか、目覚めた時は皇城の寝室でした。


 ベッドから降りた僕は寝汗でビッショリ、日本の満員電車で女子中学生に右手を掴まれる恐ろしい夢を見ていた気がします。


 不快な汗を流す為に大浴場へ向かいました。

 侍女達が全裸で追従します、困った子猫ちゃん達です。


 僕は大きな手拭てぬぐいを折り畳んで頭に乗せ、脱衣所の姿見でマッスルポージングしました。


 ナイスな大胸筋でした。


 ええ、素晴らしい筋肉でした、僕の背後でうごめく暗黒など姿見には映っていないのです、僕は見ていないのです、気の所為せいなのです。


 ただ、そう、ただ一つだけ確かな事は……


 ヴェーダが産んだ第二子は、楽しい親子の触れ合いついでに心を深くえぐりに来る、と言う事でしょうか。


 恐らくそれは常時発動型の『心を抉る体質』だと思います。


 権能は別に有していると思います。


 恐ろしいですワロタ。


 姿見の前でガクブルするゴリラ。

 小さくなる股間のナイフはさやに納まる。


 その哀れな姿を心配する全裸の侍女達。

 すまない、たないんだ……すまないっっ!!


 股間に群がる侍女軍団、ナイフを鞘から抜き差しする。


 やめてくれ、そんな事したって、どうせ今の俺は……ウッ。


 彼女達の尽力により、僕は賢者タイムのような無気力さで浴室に入り、献身的な介護ソープランドと言って過言ではない入浴を楽しみました。




 あ、第二子は当分の間お母ちゃんが面倒を見てくれるそうです。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 はい、と言う事でね、私は現在マハーカダンバの横に立ち、神木の葉をムシャムシャ食べる息子イモムシを観察しております。


 両肩にいつもの嫁さんズを装備。オルダーナ姫はプレゼントしたミニ筋斗雲に使隷しれいの『ペルゥ』さんと乗って、キャッキャウフフと息子を眺めています。


 しっかし、良い食いっぷりだなイモ息子。


 そしてモテる、イモ息子の周囲にナイトクロウラーが集まっている。


 ピクシー達がモジモジしながらイモ息子の世話をしている。

 波打つイモ息子の黒い胴体にハァハァしている。


 少女妖蜂族の集団が蟲腹からイケナイ液を垂らしながら、イモ息子の護衛に就いている。頼んでないんですが……


 少女妖蟻族の集団が蟲腹からハレンチな液を垂らしながら、イモ息子の為に神木直下の新居を掘っている。頼んでないんですが……


 ガンダーラ下層民となった妖蜘蛛アルケニーの少女達が、浅部を裏切った親達を罵倒して血涙を流している。神木に近付けない事がそんなに悔しいのか……


 蟲系の悪魔少女達も浮ついている。


 さっきムカデっぽい悪魔少女から『イモムシ王子殿下の卵を孕みました、産むつもりです、私は卵を沢山産めます、何でもします、結婚を許して下さい』と言う内容の手紙を受け取った。さすが悪魔、幼少時から帝王に詐欺行為、病んでますなぁ……



『これは収拾がつきませんね』



 お、帰って来たか、お疲れさん。

 俺もちょっと驚いてんだよ、モテすぎだろ。



『ふむ、ひと先ずこの子の異母姉妹として子コアをそばに置きましょう、婚約させるのも良いですね。どちらも神の子ですので、いずれ子をしても問題ありません』



 なるほど、しかし困ったなー、生まれた子コアは全員重要な職に就いてる、イモ息子の側に置く子が居ないなー。


 そうなると……

 あれ? あれれ?


 あちゃー、しゃーない、しゃーないか?

 まいったなオイ、あちゃー、これオマンに頼むしかねぇな?


 やれやれ、アイツに負担を掛けたくないんだが?

 俺はあんまり動きたくはないんだが?

 スローライフが好きなんだが?


 ふぅ、やれやれ。


 分かった分かった分かりましたよっ!!

 イけばいいんでしょ、イけば。


 トホホ、俺ってツイてないなー、呪われてんじゃないか?


 やれやれ、じゃ、ちょっとオマン湖行って来っから!!


 あ、メチャとラヴはここに居なさい、いいね?


 オルダーナ、急用が出来た、ああ、息子の為に(キリッ)



 それでは皆様、アディオスっ転移っ!!




『……ッ、やだ私ったら、第三眼が開きそうでした。うふふ』








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