第224話「それなっ!!」





 第二百二十四話『それなっ!!』





 【旧メタリハ・エオルカイ教国北部にて】




 三月三日、教国北部に北方魔族の大軍が出現したその日、教国は大混乱に――おちいる事は無かった。


 大混乱に陥ったのは攻め込んだ北方魔族。


 攻め込んだ先で見つけた地獄の門と冥界への階段。


 そこに地上の強さなど意味は無い、強い意志など役に立たない、神の加護など期待出来ない。


 絶対的な強さは、時に神々を退屈にさせる。


 ゲームを終わらせるのに、五秒も要らない。



 絶対者は居る、誰かがそう思った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




【旧メタリハ・エオルカイ教国、ライザライニン神殿にて】




 カチャカチャ、カチャリ、カチャカチャ……


 六枚の翼を揺らしながら、全裸の大魔王は娘婿が贈ってくれた筋斗雲に腰掛け、先ほど手に入れた鹵獲品おもちゃで遊んでいた。



「ふむふむ、なるほど、銃砲身内には綺麗な施条しじょうが見える、着剣機構も有る、そして軽い、これは良い小銃だ。しかし……」



 大魔王は念力で浮かべたワイングラスを引き寄せ、グラスに入った芋焼酎で喉を潤す。


 震えながら平伏ひれふす眼下の魔族など気にも留めず、大魔王は疑問を口にした。



「しかしだよ、コレには弾倉が無い、給弾や装填はどうなっているのかな? 実包たまを銃口から入れる前装式ではないね、薬室らしき機構が在る、変だねぇ……」



 筋斗雲の下で震える魔族の呼吸が早くなった。


 その魔族は捕虜、大魔王に喧嘩を売った哀れな組織の構成員。


 だが、捕虜を監視する大魔王の配下など居ない、必要が無い。


 このライザライニン神殿は大魔王の娘婿がダンジョン化している、その瘴気排出量と保有量は神界の神々が即死するレベル。


 大魔王がその力を解き放っても、神殿内の瘴気が枯渇する事は無い。


 故に、絶対者ルシフェルを護衛する存在など不要。


 即ち、神殿の最奥に在る玉座の間には、大魔王と捕虜の魔族しか居ない。



 名も種族も聞かれぬままの男、捕虜とだけ認識されたその男は、マスターとの契約と頭上の絶対者から感じる恐怖との間で絶望を味わっていた。


 マスターに関わる物事一切を口外してはならない、それを破ればダンジョンマスターの契約によって命を落とす。


 だがしかし、まさに読んで字の如く雲上の存在である絶対者に対して、このまま黙秘を続けるなど不可能、何事か問われてしまえば答える前に精神が死ぬ。


 どちらにせよ詰んでいるのだ。


 今はただ、僅かに残った命のあかりが消えぬように、いや、消える時は痛みをともなわず一瞬で、と祈る他ない。



 そろそろ精神が壊れそうな捕虜を余所よそに、大魔王は手にした小銃の解析を終え、ニッコリ微笑み曰く。



「薬室に魔法陣が有るねぇ、転送か」



 捕虜の男、牛人族の『ジオ・カケテマス=オシッコ』は泣いた。


 その英邁えいまいなる雲上の絶対者に感謝した。


 これでマスターとの契約は守られた、即死はまぬがれたのだ。



「ふむ、この魔法陣を辿れば、馬鹿を殺せるねぇ」



 捕虜の男、牛人族の『ジオ・カケテマス=オシッコ』は吐いた。


 その英邁なる雲上の絶対者に失望した。


 何故そんな酷い事をするのか、己に魔術登録された所持品の魔法陣から敵が自陣に何かすれば、自分の落ち度がマスターにバレてしまうではいかっ!!


 お願いします、ヤメテ下さい、ケツを舐めます、ケツを貸します、ですからヤメテ下さいっ!!


 捕虜の男、牛人族の『ジオ・カケテマス=オシッコ』は願った。


 ジオの願いが通じたのか、雲上の絶対者は何もしない。


 玉座の間に長い沈黙が訪れた。


 魔法陣を辿って反撃侵攻など、さすがに難しかったようだとジオは安堵する。




「ミツケタゾ、下郎……」




 絶対者の呟きを聞いたジオは気を失った。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 オッスオッス、オラ悟空ゴリラ!!

 大猩々化を解いて大猿になったナオキだお!!


 今は皇城の大会議室で作戦会議の真っ最中!!


 まぁ、俺だけハブられているんですが。



「ちちうえー、だっこー」

「ちちうえー、だっこー」

「ちちうえー、ま〇こー」


「はいはい、え、最後の子、何て言った?」


『その子は妖蜂先王『ニッシン』との間に出来た息子ですよ。両親に似てスケベですね、少しオマセさんです』



 オマセ……?

 両親に似てスケベ……?


 僕のお嫁さんは全員スケベなんですがそれは……



『相対的な話です、先王ニッシンはド淫乱です、間違い無く』



 ……そうかぁ?


 セクシーだけど、淫乱とは違うような……



『アングルボザとサタナエルが教えを乞う女傑ですよ?』



 そりゃぁお前、ド淫乱てレベルじゃねぇぞっ!!

 先代様、サキュバス女王の称号とか付いてない?



『……あ、【吸精主ダイソン】の称号が追加されてますね。効果は【吸引力の変わらない掃除鬼そうじき・ゴリラ特効】です』



 酷すぎワロタ。

 狙い撃ちで大草原不可避ワロタ。



『ラージャ、作戦会議が終わりましたよ』


「おう、で?」


『ルシフェルとロキが五帝ダンジョンに突入するようです、私はバックアップとして侵食を開始します』


「あぁ、ライフルの魔法陣辿れたんだな、そっかそっか」


『北方長城前に布陣する敵軍には真神とプルピエルがあたり、遠距離攻撃で削ってから眷属をぶつけます』


「トドメは眷属達にさせろよ、大事なエサだ、神々が喰うもんじゃねぇ」


「御意に」



 さってっと、俺はチビッ子達と遊んどくか。


 あ、スーレイヤはどうなってんだ?



『勇者パーティーが一組派遣され、山脈側の貴族がそれぞれ兵を向けたようです。様子をご覧になりますか?』



 それは素晴らしいエンターテイメントですねぇ!!


 DPで『なんちゃってポテチ』を購入して、皆で見ましょう!!


 さぁ良い子のみんなー、勇者の大冒険がはっじまっるよ~!!



「わーい、ゆうしゃー!!」

「わーい、だいぼうけーん!!」

「わーい、せいどれいとゆうしゃー!!」


「……まぁ、そうだな、間違ってはいない、勇者と言えば性奴隷だ」



 でも何ですかね、先代様は何を教えたんですかね……



『一般的な勇者の知識では?』



 わかりみ。







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