第222話「連打不可避ボタン」





 第二百二十二話『連打不可避ボタン』





 ふむ、ふむふむ、なるほど……


 今日は三月二日、晴れ、大森林の朝で御座います。


 ゴリラは現在、両隣に座るメチャとラヴに毛づくろいされながら、鹵獲ろかくしたライフルを神木の下でイジり回しております。


 大猩々では手が大きすぎて上手く扱えないので、もの凄く久しぶりですが猿人に戻っております。


 魔神になったからでしょうか、以前のようなアウストラロピテクス寄りの容姿ではなく、直立二足歩行する猿になってます。


 長い尻尾も生えました。

 ええ、退化ですね。


 そうはならんやろ……


 アニマルから離れないと言う強い意志を感じます。誰の意志かは分かりません。


 身長はある程度自在、でしょうか。無論、チン長もね!!


 幼児なゴム丸君ほどの身長から4mを超える大猿まで、自由に出来ます。無論、チン長もね!!


 私の周囲には『小ちゃいナオキは可愛いのぅ』、と言いながらイケナイ事をする女性が沢山居るので、なるべく早めに大猩々化したいところです。無論、チン長もね!!



『……ごめんなさいラージャ、小さくなった姿が余りにも可愛かったので、眷属ネットワークサービス【フェイスブッカケ】に画像を載せてしまいました』



 ッッ!!(吐血)


 ……それで?



『女性眷属が瞬時に画像を拡散、王妃達にも画像が見つかり、アングルボザや真神達にも、その……テヘッ』



 はっはっは、コ~イツぅ!!


 はっはっは……


 お前、お前よぉ……



『あ、それから、先ほどラージャが子猿化して以降、それを見ていたアートマンが荒ぶっています』



 え、何で?



『愛しさ余って肉欲千倍と言ったところでしょうか、愛息の子猿姿はいささか刺激が強すぎたようですね、困ったものです。神域の時を止め、落ち着くまで子猿ラージャを愛でるつもりです(私も)』



 え~っと、それは、早く来いって事?

 ライフルを調べたいんだけど……



『問題ありません、五億年ほど経てば『今』に戻れますから』


「何言ってんのお前……?」


「ごごご、ごめんなさい賢者様っ!!」

「ハァハァ、陛下が、陛下が悪いんです……っ!!」



 メチャとラヴが私の両腕を掴みました。


 呆気に取られていると、背中に衝撃が走ります。

 後ろからホンマーニの声が聞こえました。



「ご、五億年です、たった五億年ですからっ!!」



 そんな声と共に、私の、私達の体はママンの神域へ転移しました。


 ママンの神域には王皇姉妹と火炙り聖女ファクミーが先に来ていました。オッパイエとムンジャジも居ます。


 三内親王と三大公も来るようです。


 レインの妹アイリンも来ました、ダークエルフのアイニィも来ました。


 なるほど、お嫁さんが招待されているようです。


 私が一人納得していると、虹色のアラビアンな衣服を着た知らないエルフの少女も来ました……アーベでした、何故君が神域に?



『魔神妃ですから』



 初耳でした。


 私は目を閉じます。

 少し混乱してきました。

 心を落ち着かせ、状況を正確に把握するのです。


 そんな私の背後に、凄まじい神気の奔流ほんりゅうがぶつけられます。


 あぁ~、コレ、お姉様ですねぇ……

 激しい息遣いが聞こえてきます……

 何も言って来ないのが怖いですねぇ……


 あ、もう一つ瘴気混じりの神気が……

 あ、もう一つ似た瘴気混じりの神気が……

 あ、また一つ強烈な瘴気混じりの神気が……


 う、今度は二つ同時に瘴気混じりの神気が……


 ど、どうやら、大魔王家の女性陣と、ファールバウティの血族が来たようですねぇ……


 ふぅ……


 私は全力で気絶を試みますが、異常な発達を遂げた精神が気絶を拒みます。


 そして……


 おぅふ……こ、これは、やべぇ、マジぱねぇ……


 お母ちゃんです、お母ちゃんが来ました……

 目を閉じていても分かります、圧倒的とはまさにこの事。


 愛情を多分に含んだ神気が私を包みます。


 ハイ、神気で持ち上げられました……どうなってるんでしょうか(白目)


 ヴェーダが私の中で囁きます。



『ラ、ラージャ、早く子猿にっ!! アートマンから色々食べられる前に早くっ!!』



 私は阿吽の呼吸で相棒の助言に従います。


 色々食べられるって何でしょうか、私、気になります!!


 お母ちゃんが小ちゃい私を抱きしめました。



『『こ、これは……』』

『『五億では足りんぞ……』』



 私を絶望させる母の声が聞こえました。



『ウフフ、そうでしょうアートマン? とっても可愛いの』



 相棒のドヤ声が聞こえます……

 先ほどの切迫した声は嘘のよ……っ!!


 お、お前っ、ま、また、またハメたなぁぁぁっ!!



『ごめんなさい、だって貴方が可愛いから。でも大丈夫、王妃達がこんなに居るんですもの、私達の胸のボタンを押せば五億年なんてあっという間です!!』



 一押し何万年経過するボタンだよそれぇぇぇぇっ!!



『安心してボタンを連打して下さい、五億年の記憶も消えません、安全なボタンです!!』



 コイツには一度『安全・安心』の定義をキッチリ教える必要がある、そう思いながら、私は絶望の闇(桃色)に包まれて意識を飛ばした……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ふむ、ふむふむ、なるほど……


 今日は三月二日、晴れ、大森林の朝で御座います。


 ゴリラは現在、両隣に座るメチャとラヴに毛づくろいされながら、鹵獲ろかくしたライフルを神木の下でイジり回しております。


 大猩々では手が大きすぎる為、猿人に戻りたいのですが……


 何故でしょうか、強烈な悪寒に襲われて、猿人に戻れません。


 それに、『体を小さくしなきゃ』と思うと、ペニスに鈍痛が走ります。


 これはオカシイ、変です、私は考えます……


 何か大変な出来事を忘れているような、いや、自ら記憶を封印したような……そんな気がしないでもない?



『ラージャ、ライフルの解析が終わりました』



 ん? あ、あぁ、そっか、有り難う……


 ヴェーダに任せれば一発だな!!

 さすが俺の相棒だぜっ!!



『うふふ、可愛いでちゅねぇ……』



 え?


 ヤ、ヤメロよ~……

 ハードボイルドな俺をからかうなよ~……



 何故でしょうか、赤子をあやすような相棒の言葉が、酷く恐ろしいのです……


 体が震えてしまいます。


 両側に座るメチャとラヴが私の背中を撫でてくれました。



「あ、あらら、けんちゃん寒いでちゅかぁ~?」

「うふふふふ、ママと一緒にお昼寝ちまちょうねぇ~……」



 私の顔を覗く笑顔の二人。

 その笑顔を見た私は、意識が遠くなりました。



 気絶する寸前、メチャの声が聞こえたような気がします……





「け、賢ちゃん、はい、右手で、こ、こっちのボタンを、押ちまちょうねぇ~……」




 よせ、やめろ、指先をそこに当てるな……っ!!




 連打してまうやろがい……






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