第217話「俺の名を言ってクレメンス」





 第二百十七話『俺の名を言ってクレメンス』





 あれはどこの国の言葉だったか、『幼い子には犬を与えよ』的な格言が有ったと思う。与えるのは子犬だ。


 子犬と幼児は兄弟のように仲良く一緒に育つが、犬は成長が早い、一年も経てば人間の幼児を弟や妹として大事に面倒を見てくれる。二年目には親代わりだ。


 しかし、犬の寿命は短い。


 犬と一緒に育った子供は、兄弟にして親でもある大切な存在との死別を多感な時期に経験する。


 大切な犬と共に育ち、その一生を間近で見て、子供はそこから色々学ぶ。得難い友を得るとか、そんな簡単な話じゃない。何とも深い格言だった。


 しかしまぁ、俺はペットの死が苦手なんだ、素晴らしい格言には悪いが、深く考えたくない。


 兄貴が小二の時に拾って来た子犬を十一年飼っていた、名前は『クル』だ。クソ兄貴がクルを可愛がったのは初日だけ、あとは俺と爺ちゃんが面倒見た。


 俺が幼稚園の時から居たクルは俺が高二の時に老衰で死んだ。


 親父が『そろそろやなぁ』と言っていたが、その数日後に死んだ。


 あれは泣いたなぁ、あの時俺が思ったのは、『二度と犬は飼わん』だったな。サイコでもキツいんです。


 クルの一生を見た俺が何を学んだのだろうかと、いささか疑問だが、『もっと遊んでやれば良かった』と言う後悔は覚えたね。命の何たるか云々は考えませんでした、ただただ後悔しましたわ。




 お母ちゃんの神域で魔狼に乗って遊ぶゴム丸君は、俺とは違って何か学べると良いですねぇ……



『少なくとも死別の悲しみは学べませんね、あのが死ぬ事などありませんから』


「そりゃ重畳。そんなもん、出来るだけ学ぶ機会は少ねぇ方が良い」


『うふふ、そうですね。願わくは、ゴム丸君の良き姉として、そして良き伴侶として末永く――』


「伴侶?」


『どうやら、相思相愛のようです』


「うそやろ……」



 冥府から連れ帰ったメス狼、その魂に『冥界でヘルによる復活を望むか?』と聞くと、『わんわんおっ!!』と答えた。なんて健気な奴だ、俺は泣いたっ!!


 ではシタカラ達のように転生して、お母ちゃんの神域で暮らすか? 俺がそう聞くと、あいつは『くぅ~ん? わんわんおっ!!』なんて言いやがった!! こんな好い女は居ねぇぜ!!


 俺は泣きながらお母ちゃんにお願いした。どうかこの最高の女を輪廻の船に乗せてクレメンス、特等席にねっ!! と。


 お母ちゃんは『『任せろメンス』』と意味不明な承諾をブッ込み、狼の魂を一瞬で鬼神のそれに変え、冷たくなった遺体に鬼神狼の魂をぶん投げた。雑過ぎワロタ。


 新たな魂を入れられたメス狼の体がピカッと光り、全身がグロテスクにモコモコと波打ち消滅。遺体は不要だった模様。


 そう言えばシタカラ達の遺体は埋めたのに本人達は肉体付きで転生してたなと反省。


 狼の遺体が消えた場所に瘴気が集まり、やがてそれは巨大な狼の姿を形成していく。


 俺の頭にしがみ付いていたゴム丸君は、その様子を見て大興奮。


 俺の頭から飛び降りると、その瘴気狼に突撃、前脚からよじ登って首に抱き着き、ゴキブリのように動いて狼の背中に張り付いた。


 そして瘴気が晴れると、そこにはスコルやハティの次にデカい黒狼が居た。


 黒狼はお母ちゃんに『わ~んわんおーっ!!』と泣ける礼を述べ、お母ちゃんは『『然様か、励め』』と頷いた。


 黒狼はお母ちゃんにペコリと頭を下げつつ後退。


 そのまま体を反転させ、顔を俺に向けると『わんわんおー!!』などとあるじ冥利に尽きる事を恥ずかしげも無く言いながら走って来た。


 よーしよしよし、グッガゥ、グッガゥ、俺は彼女を撫で回した。すると、撫で回す俺の右手をゴム丸君が『ペチン』と叩いた。その衝撃で俺の体が浮いたワロス。


 なるほど、嫉妬か、『僕も撫でてよ』そう言っているのか、俺はそう思って左手でゴム丸君の頭を撫でた。右手は使い物にならんからな!!


 しかし、ゴム丸君はその左手を『ペチン』とはたいた。左肩を脱臼しました凄く痛いです。物理無効に仕事させない破壊神怖すぎワロタ。


 なるほど、これは『イヤイヤ期』と言うやつだ、参ったぜ。


 ……そう思っていた時期が、俺にもありました。


 まさか色恋の嫉妬だったとは思いませんでした。



『子供の成長は早いのです』



 早すぎんか?


 とりあえず、神様に種族の壁は無いみたいですね。


 まぁ、相思相愛ならどうでも良いけどね!!



『それより、狼の名前は決まりましたか?』


「うむ。スコルとハティにちなんだ名前にした」


『……聞きましょう』


「スコッティー」


『……ギリギリですね』


「え、何が?」


『長音符が無ければアウトでした』


「そう? まぁアウトじゃないなら良いね!!」



 ではスコッティー、今日からここで走り回るのです!!


 シタカラ達も居るし、俺も会いに来る、寂しい思いはさせんぞ!!



 ……俺の所為せいで死んだ眷属の面倒は、俺が滅びるまでキッチリ見るさ、絶対にな。


 だがその前にやる事がある。


 もうこれ以上、俺より先に逝く家族を見なくて済むように、ガンダーラが舐められねぇように……



 ガツンと一発カマしてやらねぇとな。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




【ジャキが治める街、ジャッキータウンにて】




 スーレイヤ王国との中部国境を護るジャッキータウン、その長大な城壁に囲まれた城郭都市の中央にそびえる『ジャッキー城』の最上階で、ジャキは干し芋をかじり、浴びるように麦茶を飲んでいた。


 酒を飲みたい気分だが、それは無理。


 未成年なので飲酒は固く禁じられている。

 ジャキは『ねぇさん』が恐ろしいので法は守る主義だ。


 JLG48に甲斐甲斐しく世話をしてもらいながら、ジャキは姐さんからの連絡を待つ。



 数時間前、神の子なる下衆に狼がられた。

 長兄ナオキは激怒して報復を開始。


 ジャキが参戦する時間など与えず、長兄は仇を討った。


 出来れば自分も呼んでほしかったが、『お前とレインは他にやる事がある』と待機を命じられた。


 ちょっと悔しいなの……ジャキは唇をんだ。


 まだか、出番はまだか、激しくなる貧乏ゆすり。



 そして時は来る。



『地下道が完成しました、ヨルムンガンドが先制します、蹂躙しなさい』


「っしゃぁ!!」


『北はミギカラ、南はレインが同時侵攻します、合流は考えなくて結構、ヨルムンガンドが造った渓谷まで進みなさい。召喚悪魔は二十万、足りますね?』


「お釣りがくるぜ」


『宜しい、では、御武運を』


「ッッ!! はいよっ!!」



 姐さんからの激励を有り難く受け取り、漢ジャキは立つ。


 ジャキに従う荒くれどもが、力強く立ち上がった親分を見つめた。



「俺の名を言ってみろぉぉぉっ!!!!」



“ジャッキ・ザ・グレイッ!!”

“ジャッキ・ザ・グレイッ!!”

“ジャッキ・ザ・グレイッ!!”



「出撃、だ」



 色々パクリ倒したジャキ、進撃の猪人は止まらない。









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