第215話「モンスターペアレンツ(ガチ勢)」
第二百十五話『モンスターペアレンツ(ガチ勢)』
【ヘルヘイム・冥界女王の城エーリューズニルにて】
あれ? 死んでる?
それを見た者はそう思うかもしれない。
巨大なベッドの上でズタボロになった全裸の女性がうつ伏せで居れば、誰だってそう思うだろう。
だが、死体ではない、その正体はアヘ顔ダブルピースで沈んだ冥府の女王だ。
報復戦の初戦で熱く
誘惑したのは撃沈された女王なので、自業自得ではある。
パトス放出でスッキリした旦那はと言えば、彼は約束通り神の子を喰い殺し、先に逝った眷属を迎える為にヘルヘイムを訪れ、冷たくなった眷属を抱き上げて母神の許へ連れ帰った。鬼神として転生させると思われる。
その後、一時間ほどして旦那はヘルヘイムに戻り、女王に感謝を述べて帰ろうとしたら誘惑されたのでバクハツした。
旦那は今回の『神の子事件』で相当なストレスが溜まっており、女王の『ちょ、ちょっと待って、ス、スゴイィィ、待って待って、壊れちゃうぅぅ』と言う喜び九割の制止を拒絶し、『お、お前がっ、お前が悪いんやでぇぇっ!!』と叫びながら妻を犯した。
確かに、ノーブラで極薄スケスケの黒いドレスはゴリラに効く。
さらに、前方にスリットの入った画期的な意匠にも問題はあった。
そんなドレスにノーパンの追加攻撃は過剰、殺意を持ったエロスと言っても過言ではない。
玉座の肘置きに両脚を掛けるのは
大胆な格好で旦那を誘惑した女王は万年喪女だった乙女、長い黒髪で顔を隠していたが、羞恥による頬の紅潮は一目瞭然。
それは卑怯やろ……とゴリラがバクハツするのは必然か。
お前が悪いんやと連呼しながら突きに突きまくった。
事が終わって大賢者になったゴリラは『以後、気を付けたまえ』と捨て台詞を吐いて颯爽と転移、後始末などに興味は無い。
やりっぱなし、清々しいほどクズなゴリラ。
賢者タイムに入って『ヤッベ、やり過ぎた』と、ビビって逃げたのはナイショだ。どちらにせよ最低な行為。
旦那の後ろ姿を
「男って、いつもそう」
男性歴ゴリラ一頭の万年喪女が何か言ってる。
寂しげに言うならまだしも、アヘ顔ニヤケ
女王ヘルは腹部に注がれた夫の愛に幸せを感じつつ、報復戦での武運を祈りながら目を閉じた。
地上はもう大丈夫だろう。
兄達も夫を支えてくれる、何の問題も無い。
父と母は神界に乗り込んだ。神々に地上の邪魔はさせない。
神界の掃除もすぐに終わるだろう。
しかし……
ただ、一つだけ懸念がある。
父や大魔王と共に暴れるであろう【
怒っているのは間違いない、愛神一派は即日に滅んだ。
法神一派も同じ道を辿るのは明白、ここまでは分かる。
だがしかし……
アートマンの息子に対する愛情は日を追うごとに増している。
今回も愛神と同様か、それ以上の結果となるだろう。それ以下の
さてどうなるか……
女王は一瞬考えて、気付く。
【真我】が暴れても何の問題も無いな、と。
何故なら【真我】は義母だから。
結局は、義母が何をやっても味方としての行動。嫁がそれを憂う必要は無い。
そもそも、憂いたところでどうこう出来る義母ではない。
被害が出ればスーパーマンな夫に泣きつける、むしろ暴れる義母を応援すべきだ。
冥府の女王は『ゴリラしゅきぃ』とニヤケが止まらない。
ニヤケる女王は黙考する。決して夜伽の妄想ではない。
義母によって神界に在る多くの神域が滅ぶか吸収されるだろう、しかし、魔界に被害が及ぶ事はあるまい。恐らく安全だ。
愛息の嫁は数柱居るし、その愛息を崇める信者が億単位で存在するこの魔界を、息子大好きの義母が破壊するとは思えない。
敢えて憂慮すべき点を挙げるなら、不可触神の被害甚大な『うっかり』だろうか。
そればかりはさすがに勘弁願いたい。
不可触神の『うっかり』に何を言っても無駄だと知りつつ、せめて何かする時は連絡を、そう願うヘルであった……
……さぁ、真面目な黙考は終わりだ。
今こそ万年喪女の真価を見せる時っ!!
冥府の女王は腹部に溜まった愛を吸収し――
「ッッ!!!!」
今日も元気に妄想の世界へ――
「イッぐぅぅぅぅ!!!!」
旅立つのだっ!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
【法神スカンマスカンチの神域にて】
カイトの旅立ちを見送った法神は派閥の神々を集め、酒池肉林のゲーム観戦と
神気で創った巨大なスクリーンは神の子カイトの視界が反映される。
巨大スクリーンの右上には、下級天使ポルティオイキの瞳を通して映し出された小さな画面、
映像では早速カイトが魔獣狩りを始める場面だった。
カイトがスキル【鷹の目】を使い、標的をズーム。
スクリーンに映し出されたのは神々も知らない魔狼、悪魔化したマハトマ種のエッケンウルフ、しかも二度の進化を果たした個体。
新種の魔物と呼んで差し支えない変貌を遂げたエッケンウルフ、初見の神々は驚く。
瘴気を纏ったその
すかさず鑑定を試みるも失敗、神々に緊張が走る。
神の鑑定を弾けるのは神の
だが、魔獣に加護を与える奇特な神が居るなど誰も聞いた事が無い。
神々がざわつく。
これもあの『森の大神』とやらの
数柱の若い神々が法神の顔を伺う。
法神は少し片眉を上げ、余裕の表情で我が子の雄姿を見ていた。
スクリーンに映る神の子カイトは一撃で魔獣を仕留める。
おおっ、とカイトに喝采を贈る神々、いや、育ての親達。
あの弓術は俺が教えた、あのスキルは私が与えた、あの服は我が作った、等々、親の自慢話大会が始まった。
あの神鋼はワテクシが錬成しましたの、オホホ、と機嫌好く笑う女神も居る。
神々に育てられた子が、神々から授かった様々なモノを用いて『悪』を滅ぼした……一方的な見方だが、彼らの視点から見れば魔狼は『悪』だ。
その『悪』に加護を与えたと思われる森の大神もまた『悪』、巨悪である。
神の子はその巨悪が有する『
神々は『
中央神界が恐れて逃げた相手の、その駒を『我らの子が』滅ぼしたのだと士気を高めた。
そして、やがて来る不可触神との決戦に希望を抱き、勝利の確信を得たように『我々よりずっと弱いあの子が滅ぼせる程度の駒しか居ない勢力』ならば……と増長する。
不可触神の何たるかを知らず、その愛息が魔神に至った事すら把握出来ていない神々が、森の大神なにするものぞと祝杯を挙げた。
恐ろしい、
法神の神域に響くご機嫌な笑いや自慢話。
――突如、それが
森で幸せそうに笑っていた荒神によって止められた。
荒神の憎悪と怒りを纏った神気が、陽気な彼らの身体を貫き動きを止めた。
巨大スクリーンの両脇に在るスピーカーから、荒ぶる魔神の咆哮が放たれる。
それと同時に、神域を護る守護天使達が観戦会場に凶報をもたらした。
「ももも、申し上げますっ、だだだだ大魔王旗を掲げる軍勢がっ、大軍が目前にっ!!」
「ももも、申し上げますっ、魔王ロキと称する悪神が一族を率いて――」
「ももも、申し上げますっ、異形の黒いナニカがっ、ナニ、カ、あ……タス、け……息が……っ……」
報告を無感動に聞いた法神が、ヤレヤレと肩を竦めた。
彼にはまだ、余裕があるようだ。
恐ろしい、
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