第192話「かぁーっ、ツラいわぁ~」





 第百九十二話『かぁーっ、ツラいわぁ~』





 俺は何をしているのだろうか……



 前世を合わせればよわい六十を超えると言うのに、そんな俺は今、眷属と共に暗い緑色の鱗を持つ巨大生物のアヌスを見つめている……臭わないのが救いか。


 いや、救いは巨大生物が仮死状態である事だろう。

 共感性羞恥を最小限に抑えてくれる。


 例えばこれがマヒしたジャキだったとしたら……

 あ、特に羞恥を覚えませんね、不思議です。

 ただただ吐き気をもよおすだけでした。


 共感するならレインあたりが無難だな、渋い男性が衆人環視の中で無防備にアヌスをさらす……


 うむ、これはキツイ……


 嫁さん集団にやられても恥ずかしいですねぇ……



『早くコアを抜き取って下さい』



 ば、馬鹿お前、バッカだなぁ、アヌスは焦ってブッ込むと大変な事になるんだぞ?


 最初は適度にほぐして――



『筋肉が弛緩してほぐれています。どうぞ』



 う、うむ、宜しい。


 では……ッ!!

 で、では……ッ!!

 クッ、触りたくないっ……!!


 あ、ジャキ君が居るじゃないっ!!



「ジャキ、取ってクレメンス」


「え、良いけど、兄貴以外がコアに触ると洗脳されるんじゃなかったっけ?」


「おっと、そうだなっ!! チッ(どうでも良い事ばかり覚えやがって豚骨メタボ包茎バイ菌マンがっ!!)」


「……兄者、今のはちょっと酷い」

「ぐぬぬ、豚を使ったジョークだ、反省はしないっ!!」



 チクショウ、俺が手を突っ込むのか……

 いや待て、腹パンしたら出てくんじゃね?


 ちょ~っと失礼しますねぇ~、はい皆さんどいて下さ~い。


 伏せの体勢で寝てるから殴りにくいですねぇ……

 とりあえず横腹を両サイドから殴るか。


 これはジャキ君に手伝って貰いましょう。


 お前あっち側な、違うバカ、何で俺の隣に来るんだよ、反対側、そうそう、「せ~の」で殴るぞ。



『ハイ、せ~のっ!!』


「えいさほぁーっ!!」

「ブヒ? ブふぉぁーーっ!!」



 あ、バカ、ヴェーダお前、反応して殴ってしまったじゃないかー。


 俺が「せ~の」って言うんだよ、そしてお前は何で俺だけに合図したの? 見ろ、反対側のジャキ君が衝撃でブッ飛んだじゃないかー。



『ジャキに常在戦場の何たるかを教えたくて……』



 ならばヨシッ!!


 レインが慌ててジャキを助け起こす。

 兄貴分の鑑だよ彼は。レインの半分は優しさで出来ています。


 うむ、ジャキはまた一つ大人になったな、顔付きが違う。



『衝撃で腫れ上がってますね、変な顔』



 そこまで言わんでも……



『コアが動きます、ご注意を』



 あぁ~ん、何だぁ~?


 寝ていた魔竜が小刻みに震え、それが止まるとスムーズに体を起こす。


 四肢をスッと伸ばし、しっかりと巨体を支えている。

 魔竜は頭をこちらに向け、体も俺の正面に動かした。


 これは、アレか、念動で操っているのか……



『コア的には共同作業のつもりでしょう、切ないですね』



 いや? 切なくねぇが?


 ってか、動きが滑らかだな、操り慣れてる?

 眷属達が臨戦態勢に入った。こっちも良い動きだ。

 ジャキは回復薬を飲んで俺を見……あ、目を逸らした。


 帰ったらジャキに干し柿を三個あげよう。




 キレた魔竜コアが俺を睨み付け吼える。



≪おのれ大猿っ!! 大君の腹を殴るとは……っ!!≫


「黙れスカトロ野郎、浅部魔族が何人死んだと思ってんだクソが。横腹小突かれた程度でわめくなハゲ」


「今ハゲって言った……」



 眷属の誰かが『ハゲ』に悲し気な反応を見せる。

 スマンな、今はそれどころじゃないんだハゲ。



≪浅部魔族の無価値な命とっ、世界に君臨する竜族の玉体とでは格が違うわ下郎っ!! 比較するなっ!!≫


「比較? してねぇだろ、お前も駄竜も価値なんて初めから無ぇ」


≪ッッ!! 猿がぁぁっ!!≫



 真正面に立つ魔竜が頭を引いてブレスの体勢に入る。

 いやいや、前脚で攻撃しろよ、何考えてんだコイツ?


 アゴがガラ空きなのでジャンピングアッパーカットーっ!!


 ズガンと良い音を立て、俺の右アッパーが魔竜の下アゴに炸裂。


 う~ん、大猩々の巨体でやるのは初めてだが、超重量級のコブシはなかなかエグいなぁ……



『大猩々のレベルが3になっていますからね、体長も13mを超えましたし、体重は25t有ります。マッコウクジラのメスと同等ですよ』



 ふぅ~ん。

 魔竜はどんな感じ?



『全長25m、体重128t、肥えたホッキョククジラのオス、と言った感じでしょうか。ラージャに効果的なスキル等は所持していません。マハトマ種は土・金・火・物理・即死/呪殺の五属性耐性を必ず備えますので、元地竜に対する相性は好いですね』



 眷属達は物理も含めて半減以上の耐性が有るって事だな。


 さてどうすっか……


 俺的にはコアさえ喰えれば問題無い。

 むしろ、俺がトドメを刺して経験値を頂くのは下策。



『一斉攻撃させましょうか。トドメを刺した者が経験値カルマを獲得しますが、それ以外の者はスキル熟練度が稼げます』



 う~ん、この経験値制もアレだなぁ……

 世界さんは日本のRPGやった方が良いね、昔のヤツ。


 トドメ刺す奴が総取りはオカシイよな。


 殺したカルマを背負って強くなる、まぁ分からんでもない。


 しかし、集団でリンチにした場合、加害者全員に業が溜まらんのは変だろ。



『では、どうしますか?』



 とりあえず、腹ブン殴ってコアをヒリ出す。

 その後は一斉攻撃して……あ、ホンマーニ連れて来てらせろ。



『おお、それは名案ですね』



 よし決まり。

 そんじゃ腹パンすっか!!


 魔竜は首の骨が折れたかな?

 アッパー食らった姿勢で動かない。

 良い姿勢ですね、サンドバックとして尊敬します。


 あ、ジャキにやらせっかな、ちょっとスネてるし。



「おーいジャキ、お前の百裂拳を見せてクレメンスっ!!」

「…………百十一裂拳なの」


「お、おう、皆にその百十一裂拳を見せてくれないかな?」

「…………お兄ちゃんの衝撃当てればいいなの」



 クッ、しまった、さっきすぐに謝るべきだった……

 ここで幼児退行とクソイジケ虫を発症させるとはっ!!



『放っておけば宜しい』



 だなっ!!


 じゃぁ僕が元気百倍アンマンサーンするね!!



「くらえぇ~、必殺アーン(マンサン)パーンチっ!!」


≪グボェラァーーッ!!≫



 ブリュリュリュッ!!

 ブピップウゥ~……



 クッサ……

 臭すぎワロタ……


 ヒリ出た。

 何か、昔のヴェーダみたいな、水色水晶女が出た。



『あの汚物が私のよう?……ごめんなさい、ラージャを殺したくないのだけれど……』



 違う違う違う、似てるとか言ってないからね?


 肉体が水晶ってところがね? 分かる?

 常にお前の事しか考えてないからかな?

 ついついたとえでヴェーダの名前出ちゃった!!


 かぁーっ、辛いわ~、かぁーっ、ラヴラヴ疲れだわ、かぁーっ!!


 でもついつい愛でてしまう、好きすぎて困るわ、かぁーっ!!



『ンもう、私を好きすぎですね、困りますっ!!』



 いやぁ~スマンな、好きすぎてスマン。

 そんなわけだから、あの汚物を処分しますね!!



『美味しく召し上がれ』



 ……処分違いですねぇ。



『あぁイケナイ、汚物は消毒、でしたねっ!!』



 そうそう、焼却処分一択よっ!!



『メチャ、あの汚物をラージャの為に洗って差し上げて』


「は、はぁい、畏まりっ、ましたぁ!!」



 おぅふ……メチャ……


 大森林育ちは汚物にひるまない……

 かぁーっ、辛いわ~……


 ウンコ食べさせる気マンマンの侍女を見るのが辛いわ……


 かぁーっ……







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