第191話「黙れ、味は関係無い」





 第百九十一話『黙れ、味は関係無い』





“子供が欲しくないかね?”



 邪神が発した戯言にコアの殺意が冷える。

 どう言う意味だと問うコアに、邪神は優しく答えた。



“君と、この地竜の子だ。愛の結晶だよ、二人の”



 馬鹿な事をと否定するも、僅かな期待に動揺を見せるコア。

 そもそも自分は生き物ですらない、子供など作れるはずが……


 コアは現実を受け入れ冷静さを取り戻し、思考が殺意に傾き始める。



“大丈夫、出来る、出来るとも、神を信じなさい。実は君で三個目なのだよ、子供をもうけるコアは。どうと言う事はない”



 たとえ子を作れるとしても、その作業を邪神としなければならない。それは無理な話だとコアは告げ、生気を抜く。



“なるほど、ならば私は眠りに就こう。その間に、君は受肉する為の肉体を確保し、肉体を得た後は……この眠れる森の地竜を好きにしたまえ……この意味、分かるね?”



 その言葉は効果バツグンだったっ!!

 邪神の甘言はメンヘラな恋乙女に効いた。




『――こうして、コアは瀕死だった地竜の肉体を護る為に邪神と契約し、地竜を魔竜化させました。その後、邪神は己と魔竜の体を馴染ませる目的で深い眠りに就き、コアは脳死状態の地竜を霊廟に寝かせ、現在まで甲斐甲斐しく……』


「いやいやいや、王国軍を撤退させた地竜の咆哮はどうなったんだよ」


『コアが邪神を叩き起こして咆哮させました。何の備えも無いダンジョンに王国軍が攻めて来れば、大事な魔竜の体に傷が付きますから。邪神はどうせなら暴れてやると外へ向かいますが、マスターはダンジョン外に出られませんので、渋々諦めたようです』



 う~ん、これは……


 真相を知ったところで、『だから何だ?』って話だなっ!!

 これといった感情は特に湧きませんぞワテクシ……


 魔竜の中身が何であれ、もうブッ殺すのは決まってるしなぁ。

 狂ったコアの事とか、正直どうでも良いかなって……えへへ。


 う~んまぁそうですねぇ、ただ、カスガ達の考察は半分ハズレだったし、ロキさんと大魔王の推測もハズレていたな。


 ハズしたのはコアと地竜の契約状況推測です。

 コアは地竜をハメて契約するつもりは無かった、のかな?


 そして、延命を望んだのは地竜じゃなくてコアだった。


 と言っても、勇者戦で瀕死になった後、死中に活を求めて長城越えしなかった時点で、地竜は逃亡による延命を望んでいる。つまり、後か先かの話ですわ。



 うんうん、そんなところですかね。

 え~っと、もうブッ殺しに行って良いかな?



『コアに性別が有ったのか等の疑問は無いのですか?』



 え、お前は路傍の石に性別を求めるの?

 病院行けよ、ヤベーよ……



『コアが用意した可能性のある受肉用の体については……』



 え、それダッチワイフだよな、俺に必要か?

 即行で最強姉妹がちりに帰しそうなんだけど……



『いいえ、そうではなく、奪ったコアなどに受肉させ、コアの活用度を高めるのも一つの手段として……』



 え、それ食べ難いじゃん、ヤダよ肉剥いて喰うの。



『あぁ、なるほど(これがサイコ思考ですか、パねぇです)』


「活用度って言われてもなぁ……」



 コアは転移が有るので脚は要らない。物は念動力で掴み動かすので腕も不要、視覚有り、聴覚有り、念話があるので口は要らない、となれば頭も要らない。


 ダンジョン運営はヴェーダが四六時中管理しているので仕事が無い。サブマス置くだけで十分。


 活用出来るのは胴体くらいか?

 娼館はプロの悪魔で溢れているんですが……


 受肉の必要が無いな……



『いえ、あの、コアが妊娠出来るかもしれないので……』



 う~ん、効率悪くね?

 創造召喚しようぜ?


 受肉や妊娠云々の知識はコア喰えば判るから、気にする必要が無いっ!!


 仮に、魔竜コアの専有技術だったとしても、俺が喰えば俺の専有技術になる。


 コアが生む子供のみ特別な能力が有るとか、そんな理由なら次回のコアで試せば良いしね。


 そんな事より早く殺ろうぜ?



『……そうですね、えっと、寝ている邪神はロキにでも――』



 バッカお前、こんな時こそ聖女様だろうがっ!!

 邪神討伐でレベル上がるしハクも付くっ!!



『あ、はい、そうですね。では、あの子に神聖魔法を付与しますね』



 DPで? それともお前の祝福?



『アートマンの祝福とラージャのDP、両方の合わせ技にしましょうか』



 狂信者が喜びそうですな……



『さぁ新たな王妃『ファクミー・プリズ』こちらへ来なさい』



 ん、ん、ん~?

 新たな何だって?

 今なんつったお前?



「はい尊妻様、ここに」



 俺の前に跪くファクミーちゃん。

 視線は僕の股間に向けられている。

 何か付いてる? 恥ずかしいなぁ、むっほっほ。



『アートマンとマハー・ラージャから贈り物です、これを使って魔竜の中に潜む邪神を討ち滅ぼしなさい』


「ッッ!! 仰せの通りに」



 綺麗な金髪を後頭部でお団子にした美少女エルフ『ファクミー』ちゃん、ガンダーラで流行っている妖蟻族の服が似合っています。白いアラビアンスタイルです、すこ。


 こんなに可愛い子を火炙りにするとは……

 教国の大教皇も俺にくれねぇかなぁ大魔王さん。


 ファクミーが祈祷を終え、顔を上げた。


 僕と目が合うと、ニッコリ笑って自分のお腹を撫でました。

 何の意味だろう……そこには誰も居ないよ、いいね?


 ファクミーの体が淡く輝いた。

 アートマン様から神聖魔法を頂いたようだ。


 立ち上がり、俺に一礼するファクミー。

 半歩下がって体の向きを変える。


 寝台に眠る魔竜を正面に見据え、ファクミーが両手を上げた。



「永遠の眠りに就きなさい邪神、『マハトマカーマ・ダルマ』っ!!!!」



 な、何いぃぃっ!!


 偉大なるアートマンマハトマ性愛・聖法カーマ・ダルマ、だとぉぉっ!!


 ちょ、ちょ、ちょっとソレ僕に撃ってみてっ!!

 さぁ来い、バッチ来いっ!! 早くっ!!


 弾幕薄いよ何やってんのっ!!

 邪神は良いからゴリラに向けなさいっ!!



『ラージャ、邪神が滅びました』


「え、お、おう、知ってた、ギャーって言ってたな?」



『言ってませんが』



 比喩だ、比喩表現……ギャーっと言わんばかりの滅び、そう言いたかった。滅び方はちょっと分かりません。


 まぁ、そうだな、見てないしな。

 ずっとファクミー見てたからな。


 名も知らぬ邪神よ、サラバだ。



『ファクミーが三段進化しました、レベルは188、種族名は『マハトマ・カーマエルフ』、特殊進化ですね、性愛カーマエルフとはまた素晴らしい』



 ほーん、そりゃ良かった。

 よくやったと褒めておく。


 ハニカミが可愛いですね。

 メチャやラヴと仲良しだったんだな、いつの間に?


 まぁいいや。


 あ、そうだ、魔竜の魔核も喰わなきゃ。

 っと、その前に、恋乙女コアはドコかなぁ?



『魔竜の大腸に居ますね』


「ん? それは、食われて?」


『いいえ、眷属に肛門から押し込んでもらったようです』


「ふむふむ……何で?……」


『敬愛する主人と一緒に居たかったのでしょう、気持ちは解ります。私もラージャの中だと落ち着きますので』



 いやぁ~、それは別の話でしょ……

 肛門から入る意味って何なの……



『あ、それはコアの性的嗜好です』



 スカコアかよ……

 さっきまでの乙女話が全部無駄だった件。



 でもこれ、洗えば喰えるよなっ!!

 チョコレート味だったりしてなっ!!(白目)



『カレー味では?』



 うるせぇよ。

 問題はそこじゃないだろ……







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る