第190話「なるほど、そんな事より殺らないか?」





 第百九十話『なるほど、そんな事より殺らないか?』





 最後の短い階段を降り、狭い通路を拡張しながら隠し部屋へ向かう。


 本当にここが最奥なのだろうか、守りが薄いどころの話じゃないぞ、衛士も居ないしトラップも無い。



「奥で待ち伏せか?」

『居ませんね、生物が居ない……』


「生物が居ない……?」



 どう言う事ですかねぇ……

 機械の兵隊さんでも居るんですか?



『いいえ、何も居ません。台座の上にコアと思しき物は有りますが……』



 有りますが?



『これは……ダミー、ですね。サブコアでもない、ダミーです』



 何だそりゃ?

 ソレが置いてあるだけか?



『奥に扉が有ります、なかなか荘厳な扉ですね、入口も大きい』



 そこがマスタールームかねぇ?

 まぁいい、侵食しながらコアルームに入ろう。


 マスタールーム(仮)は侵食出来そうですかぁ?



『何の抵抗も有りませんね、すぐに終わります』



 オッケー。

 そんじゃ、俺達はコアルームに入りましょう。



「行くぞ勇者達よっ!!」


「ブッヒ、何だよそれぇ、ブッヒッヒ」

「……またアホがマネするぞ兄者」



 良いじゃないか真似してもっ!!

 ガキ大将は大人の真似をして早めに一皮剥けるのさっ!!



『ジャキの真性包茎をあなどっていますねラージャ。厚く長い皮の下に数兆のバイ菌マンを飼っているモンスターなのですよ?』



 いや、普通に大人になるって意味で……

 あの余りに余った皮の話はヤメようぜ……


 テンション下がったのだ……

 うがいをしたくなったのだ……



『私もちょっと……』



 自爆乙。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 う~ん、これは……



『どうです、ダミーコアは?』



 不味くはないな、その辺の石より美味い。

 塩味強めのクッキーだな。


 力がみなぎるでもない、栄養が有るのかも判らん。


 有ったら食うけど無ければ気にしない、DP消費してまで食うモンじゃないです。天然のクリスタルの方が美味いし栄養が有ったな。


 でもトランシーバーの役は務まるぞコレ。

 俺かお前の意志でダミーコアだけの転移も出来る。


 他の奴らは扱えんし、俺達は念話が出来るから不要だけどね。


 それ以外は侵入者を騙す事にしか使い道無いです。



『なるほど、所詮はダミーですか』

「そうだな。さて、準備は出来たか?」


『出来ています、奥の部屋も掌握しました』

「中の様子はどうだ?」


『魔竜が寝ていますね、まったく動きません。魔竜から生気徴収が出来ていませんので、ダンジョンマスターの地竜だと断定出来ます。鑑定を掛けますか?』


「どうだろうなぁ、寝込みを襲うのが一番良いが、魔竜の耐性が分からんからな、攻撃して無傷でした~じゃぁアホだし、そうだな、鑑定に気付いて起きても構わんから調べてクレメンス」


『少々お待ちを…………?……おや?……なるほど』


「どうした、何か分かったか? あ、皆にも念話で教えてやって」


『畏まりました。土・金属性の無効化と闇属性攻撃半減、物理に強く、水属性にやや弱い……そして、神聖魔法耐性が300%マイナスです』



 ほほーん、土と金の耐性は予想通り、物理と闇も納得。

 水に弱いのも金属性持ちだからと理解出来る。


 神聖にクッソ弱いのは何でなん?



『ラージャ、奥の部屋は霊廟です』

「霊廟……立派な墓って感じ?」


『はい、魔竜を祀る霊廟です』

「それは~、そう言う事?」


『勇者との死闘を終え、瀕死の状態でコアと邂逅した地竜が吼えた、これが私達の知る地竜の最後の姿です』


「あぁ、そうだったな」


『その咆哮は何だったのか、それが分かりませんでしたが、たった今、判明しました』


「アーハン、情報が解禁されたか。詳しくオナシャス」


『邪神に対する怒りの咆哮です。眷属になれと言われて激高したようですね』



 邪神かぁ……まぁ、居るよなぁ。

 近くの魔窟に邪神が居て、ここに居ない道理は無い。



「邪神付きのコアだったわけか、それで?」


『魔界に居る邪神に地竜は攻撃できません、邪神は傍観、コアは地竜に契約を持ち掛けます。しかし、地竜はコアを無視して邪神の気配を探ります』


「ふむ、待ちに待った大物だ、コア的には逃がしたくねぇ、しかし地竜は意に介さず……ふ~ん、誰も手出し出来ん『三すくみ』状態?」


『そうですね、邪神は“世界”からの本格的な懲罰を恐れ、この時は手を出しませんでした。しかし、コアが、地竜に恋焦がれるコアがやってしまいました』


「やっちゃったか~」



 高レベルの養殖を万単位で創造出来れば、瀕死の地竜をねじ伏せる事は出来ただろう、しかし、当時のコアは未契約状態、基本の五種族しか創造出来ん。


 創造するだけ無駄、地竜に食われて復活を手伝うだけだ。


 だが、無力なコアにも奥の手が有る。



「生気を抜き取ったんだろ、鬼だな」


『ご推察の通り、コアは地竜の生気を極限まで抜き取りました。全て、邪神による入れ知恵、コアは望んで邪神の手の平に乗り、見事に踊ったようです。怖いですね、ヤンデレ』


「そ、そうだな」



 部屋に鏡が無いか確認。

 無いな、ヨシッ!!



「それで、ほとんど死んだ地竜にコアちゃんは何した?」


『コアは何もしていません、何が起こるのかも知りません。ただ、邪神の指示に従っただけ。地竜が自分のマスターになるなら……恋するヤンデレはそれ以外何も考えていませんでした』



 それコアの話ですよね?

 ヘルの話じゃないよね?



「ふぅ~ん、で、どうなったんだ?」


『邪神は地竜の身に憑依し、その精神を殺しました』


「あぁ……それは、ルール違反じゃねぇんだな?」


『そうですね、地竜を滅ぼしたわけではありませんから』



 何だそりゃ、死んでるじゃねぇか。

 頭の中が地竜の思考じゃないなら、それは地竜の『死』だぜ。


 世界さんは何なんだろうなマジで、イライラするんだけど……


 グレーゾーンが多すぎる、どう考えてもワザとだろ。



「でもそれ、恋乙女コアちゃんはキレるだろ」


『無論、キレましたね。地竜の状態を常に監視しているヤンデレです、憑依などすぐにバレます。コアは地竜に残る僅かな生気を抜きに掛かります』


「邪神は焦るなぁ」


『焦りました。そしてコアに訴え掛けます、本当に地竜が死んでしまうぞと。ヤンデレを舐めていますね』


「そうだな、舐めてるなっ!!」



 分かってない、ヤンデレの愛を分かっていないっ!!

 他人の意見などどうでも良いのですよっ!!



『しかし邪神は諦めません、恋乙女のピュアなハートにキューピッドの矢を打ち込んだのですっ!!』


「そ、尊妻様ぁ、私っ、ドキドキしますぅ」

「ヴェーダはお話が上手だよねぇ~」



 不意に、俺の両肩からキャピキャピした声が聞こえた。

 ヤンデレーズに片足を突っ込んでいる二人が何か言ってる……


 どこにドキドキ要素があるのだろうか……

 サイコなゴリラには解らないっ!!



 って、決戦前に地竜の真相とかコアの色恋とか、クッソどうでも良いんですけど……


 どうでも良いから魔竜ろうぜっ!!

 って言ったら、駄目なんですかねぇ……







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