第182話「僕の名を言ってみろぉ~」
第百八十二話『僕の名を言ってみろぉ~』
『あそこだ』
「ははぁ、あざーっす」
超巨大化した兄やんの横で、筋斗雲に乗って山脈の一点を見る。
兄やんがマハルシに帰る直前、山脈を見て『臭い』と言ったので、どこですかと聞いてみたら、魔竜ダンジョンから離れた山脈の麓へ誘導され、兄やんが鼻先で場所を教えてくれた。
筋斗雲に乗って絶壁を調べると、麓から少し上の所に洞窟を発見した次第であります。
蟲達が先行して洞窟入口を調査、予想通りダンジョン化していた。
まず間違いなく魔竜のサブダンジョンだ。
カスガ達の読み通りなら、ここにアンデッドが居る。
メインダンジョン攻略前に潰しておきましょう。
さぁヴェーダさん、やっておしまいっ!!
『はいはい』
俺の中に戻ったヴェーダがウフフと笑ってハッキングを開始。サブダンジョンを侵食していく。
これで、魔竜側のダンジョン支援効果を無効化。同じ土俵で戦う、とは言えんな。侵食範囲が広まれば、向こうは俺のフィールドで戦うことになる。
互いの陣地から出ずにやり合うのも可能だが、俺は侵食を止めないので、魔竜側はいずれ陣地を失うだろう。
洞窟の通路が狭いので俺やジャキ達が通り辛い。豊富なDPを使って通路を広げつつ進む。
ついでに魔界トンネルを入口付近に四つ設置。瘴気排出と開拓民募集をトンネルズに頼む。ヨロシコ!!
しばらく進むと、先行していた蟲の視界にアンデッドの群れが映った。
これは、なるほどなぁ、はぁ……
ヴェーダが付け加えた鑑定結果に溜息が出ます。
気の強い家畜の成れの果て、そんなところか。
自業自得とは言え、魔竜のコアも容赦ねぇな。
『反抗的な家畜など邪魔なだけですからね、見たところ強力な個体のみ殺害してゾンビ化したようです。見せしめと養殖眷属のレベル上げも兼ねているのでしょう。ミギカラ達には視界を共有させますが、レインは良いとしてジャキにも立体映像を見せますか?』
どうすっかなぁ、つっても、見せるしかねぇだろ。
まず俺が話すわ。
俺の後ろをブヒブヒ付いて来るジャキ。その小枝はどこで拾ったんだお前、振り回すな、ガキか。
「おいジャキ、残念なお知らせだ」
「ブヒ? 何だよ」
「お前の家族は、あぁ、男だけだが、ゾンビにされてる」
「ブ、ブヒ?」
「殺されて、アンデッド兵だ。立体映像を見るか?」
「……うん」
ちっ、嫌な役目だ。
泣きそうなツラするんじゃねぇよ……
まぁ……十七歳のジャキには辛いか……
レインがジャキの肩を抱いた。
いい兄貴分だぜお前は。
ヴェーダ、見せてやってくれ。
『大丈夫ですよ、ジャキは』
ヴェーダは優しくそう言って、ジャキの前に立体映像を見せた。眷属達にも共有を開始。
ジャキは黙ってそれを見つめている。
レインは肩を抱く力を強めた。
「ケンジロウ……、ラホウ、トキメキ、親父、爺ぃ……」
ジャキは涙を流した。
末弟、長兄、次兄、父親、祖父、順番に見つめる。
俺とレインは何も言わない。
「畜生……畜生っ!!」
「……ジャキ」
レインがジャキに何かを言おうとしたが、口を
ミギカラ達も共有で現状を把握したのか、ジャキを心配そうに見守っていた。
ジャキが天井に向かって慟哭する。
「チクショー!! 俺がケンジロウをブッ殺したかったのにぃぃ!!」
「は?」
「……ん?」
「ラホウもトキメキも兄貴とレインにボコボコにされて、親父と爺ぃはミギカラ爺ぃに脱糞土下座で涙目のはずだったのにぃ!!」
何言ってんだコイツ……
これは、あれか、強がりか?
天邪鬼をこじらせ過ぎた少年なのか?
『ね、大丈夫でしょう?』
え、マジで? マジなの?
『ジャキは毎晩のように親兄弟抹殺計画をJLG48に語っていますから』
思っていた以上にあれだな、家族問題の根が深いな……
どんだけ恨んだらこうなるのか、少し気になるぜ……
『JLG48に語る恨み話で分かった事ですが、ジャキは一族専用のサンドバックだったようですね。しかも、猪人族の弱点である斬撃属性の手刀などを使う徹底ぶり。気が狂う前に北都脱出を強行したジャキの判断は賢明と言えます』
えぇぇ……
俺はてっきり、ジャキが稽古とかでヘタレて逃げ出したのかと……
ジャキと出会ったあの日、昭和臭漂う熱いファイト後に色々語った俺を殺したい……
いじめられっ子に無茶言った感がスゴイです。
ちょっとヴェーダさん、レインや眷属達が呆然としているので事情を説明してあげて。って言うか、メチャは驚いているのにラヴは納得の表情だ、お前は何に納得したの?
とにかく、今後はジャキ少年に優しくしよう。
ガラスの精神が壊れてしまうっ!!
ジャキの幼児退行はあれだな、脳が精神を護る為に編み出した防衛手段だな、たぶん。
とりあえず、ジャキの興奮が鎮まるまで待機です。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「へへへ、ちょっと恥ずかしいところを見られちまったな、こんなんじゃぁ好い漢なんて名乗れねぇぜ」
そう言って、ジャキは豚鼻をポリポリ掻いた。
ジャキを見る皆の目は温かい。
いや、生温かいな。ラヴとか特に生温かい。
ジャキに向ける皆の眼差しは、強がる少年を見るそれだ。
北都猪人に対する敬意が薄れている。
代わりに親近感が湧いたようだ。
ゴブリン達は南浅最弱だったからな、しゃーない!!
レインは何やら複雑そうだ。
ジャキのチンコ叩き折ったからなぁお前。
真実を知ったのは今日なんだから、気にすんな!!
さて、ジャキが落ち着いたので、攻略を再開します。
神気を込めた仙術でパパッと滅ぼしてしまいたいが、俺は南浅の墓から盗まれた遺体を奪い返さにゃぁならん。
『先ずは『壊れて良い個体』と『傷付けず奪還する個体』を分別しましょうか。極端な話、南浅魔族以外のゾンビは消し飛ばして構いません、眷属達のレベル上げにもなります』
どうやって分ける?
『私が指定した個体をラヴに沈めてもらいます』
ほほーん、【影沼】か。
使い勝手が良すぎるな【影沼】は。
『ラヴが優秀なのです』
ハハハ、そうだな。
そんじゃぁ、消し飛ばすゾンビも下半身だけ沈めてもらうか、その方が楽だ。
ヨシッ、みんなに伝えて下さい。
『了解しました』
ヴェーダが伝え終わった直後、ジャキがヒャッハーして突撃した。
目標は言われんでも分かるな。
思う存分やってしまいなさい。
「ブヒヒヒヒーッ!! ブヒャッハー!! 汚物は消滅だぁーっ!!」
輝いてる、今スゲェ輝いてるぞジャキっ!!
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