第159話「普通でイイんだよ、普通で……」





 第百五十九話『普通でイイんだよ、普通で……』





「よう大将……今日は酒を持って来たぜ、略奪品だけどな」



 安っぽい酒瓶のコルクを摘まんで引き抜き、馬鹿野郎の名が刻まれた岩に酒を半分ぶっ掛ける。


 コルクで瓶に栓をして、残りを墓前に供えた。


 そいつは大切にチビチビ飲めよ、スモーキー。


 メチャとラヴが黙祷し、スコルが遠吠えを終える。


 神気製のアラビアンな黒服に身を包んだヴェーダは、ピクシーズを抱えて目を閉じていた。四本腕に驚いていたピクシーズも、今は静かなもんだ。



「よっしゃ、始めようか」



 俺は周囲の林を見渡す。

 ここは少し丘状になっていて見晴らしが良い。


 王国側からするとキンポー平原の入り口にあたる場所、少し南下すれば滅びの都『テイクノ・プリズナ』が在る。


 俺達にとっても人間にとってもこの付近は忌まわしい土地、かな?


 まぁ、そんな場所に護国の鬼よろしく墓を造られたスモーキーには悪いが、やっぱりここしか無い。ここが相応しい。


 帝王が最初に奪う土地は、お前が眠るこの場所が最適だ。



「フィールド型ダンジョン、『スモーキー丘陵』ってなっ!!」



 ゴゴゴゴッっと大地が轟音を上げて隆起する。


 俺達が居る中心部がより高さを増し、それを囲むように数十の丘が出来た。丘の一つ一つに異界への入り口が設置される。


 その一つ一つが五階層ダンジョン、全部で二十五在った。

 全部攻略するなら百二十五層突破しなくちゃな。頑張れ!!


 俺が満足げに頷いていると、ピクシーズを寝かし付けたヴェーダが隣に立って呟く。



「頭がオカシイ……」



 えぇぇ……

 ストレートな罵倒だった。キくぜぇ……



「ラージャ、この丘陵地全体もダンジョンですよね?」

「まぁ、そうですね、多分?」



 俺はスモーキーの墓を軽く突いてみた。スッゲェ硬ぇ!!

 間違い無く不壊化されてるな、つまりダンジョンだ。



「よっしゃ、成功ですな」

「はぁ、DPの残量は……あまり減っていませんね」


「そりゃそうだろ、丘陵地は俺の真人としての能力で造ったからな。地表と丘陵内のダンジョン化だけだな、DP消費は」


「ダンジョン創造じゃないですよね、それ」

「そうだなぁ、ダンジョン化だな……」



 洞窟とか建物が在ったら……いや、それが間違いだな!!

 何も無い所に洞窟や建造物を出現させないとなっ!!


 あれかな、スモーキーの丘を奪いたかったんで、こうなったのか?


 とりあえず、成功したのでヨシッ!!

 墓の在る丘は人類侵入不可に設定しとこう。



「さ~て、墓守兼サブマスを召喚しましょうかねぇ」

「あら、悪魔を呼ばずに創造召喚ですか」


「創造召喚も悪魔だけどなっ!!」

「しかし、魔界には存在しない、新たな悪魔です」



 そうなりますねぇ……


 悪魔は魔王ロキ達が居る魔界の『住人』だからな、司令官として最前線に置くには少しばかり心配?なんだよ。もしもの時に非情な判断が出来ずに右往左往、なんてのは頂けない。


 住民は大量の悪魔にするが、そいつらを率いるのは創造された悪魔だ。


 え~っと、どんなのが造れるのかなぁ?

 ゴーレム系とか使い勝手が良さげだが……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 創造召喚はマスターとコアの知識がかなり影響する。言語とかは代表的な例だな。


 俺が創造召喚すると、魔族語と日本語、コアが知っていた近隣諸国の言語、これらが扱えるようになる。無論、オプションでも他言語を付けられる。


 地球の知識、まぁ日本に偏るが、それも勿論インプットされる。ヴェーダの知識は入らない。ヴェーダから俺が得た知識は入る。


 それらを踏まえて、脳裏に並ぶ召喚リストを確認。

 うわぁぁ、多いなオイ。絞って検索っ!!


 墓守とか死体とか……居ましたねぇ……不死じゃん。

 強いけど……ヴェーダは知ってるヤツかな?



「ドゥルジって知ってる?」

「ゾロアスターの悪神ですね、滅びましたが」


「滅んだ……あぁ、だからドゥルジ・アバターなのか」

「ドゥルジ・ナスは死体にたかり死病を撒き散らす蝿女共ですよ」


「ナスは複数形か、今回はアバターだけど。まぁ元悪神なら、悪魔を配下にする魔族の墓守としては上等だろ。コイツでいきますか」


「創造DPは……何でこんなに低出費?」


「あぁ、マスターとの相性っぽいぞ」

「なるほど」



 って言うか、攻略した魔窟にガンガン悪魔が住み着いてるんですよね。DP徴収でアホほど貯まっていく。隠し階層造ってて良かったわ。


 これ後でヴェーダにDPの日産見込み的な計算してもらわねぇと、出費と収入のバランスがわかんねぇ。


 今回の創造召喚は余裕で足りるから良いけどね!!


 そんじゃぁ、お決まりの……



「君に決めたっ!!」



 俺から少し離れた位置に青白い魔法陣がえがかれる。

 それがクルクル回って光を増す。カッコイイねぇ。


 最後にカッと光って魔法陣が消え、その位置に黒いレザー拘束衣で全身を拘束された……女?が出現。 女だよな?


 胸……は膨らんでる……かな?

 本当に全身が黒革で包まれてて……

 口はチャックだし、目なんて最初から穴が開いてない。


 メチャ達が引いてるよ……


 え~、マジで?

 鼻の穴だけだよ外気に触れてるの……

 俺やっちゃった? ヤベェの呼んじゃった?


 腕を胸元でクロスした状態、脚もピッタリくっつけて真っ直ぐ立ってる。


 つっても、四本のベルトでガッチリ脚を縛られてるから、真っ直ぐ以外出来ないんだけどね。


 あ、ヒザは曲が……らねぇなこれ、背中に二本の鉄杭が差し込んであって、先端がかかとまであるし、その鉄杭ごとベルトで固定されてる。徹底的すぎワロタ。


 これは……駄目なヤツじゃね?

 何でこんなにガチガチなの?



「アバターとは言え死病を撒き散らす悪神ですからね、当然です」


「いやまぁ、それにしたってお前、ちょっとなぁ……」



 メチャとラヴなんて、今のお前見た時以上にビックリしてるじゃん。

 スコルも警戒してるしな。寝てるピクシーズは起きたら泣くぜ?


 念のため眷属情報を確認すると、ドゥルジはちゃんと眷属になってるし、マスターに対する敬意や好意は感じ取れる。


 指示には従ってくれそう……ではある。


 お前、ちょっとジャンプしてみ、ピョンて。



「ッッ!!……ッ!!」



 飛んだ。ピョンて飛んで目の前に来た。

 念話も通じるな……近い離れろアホ。


 離れてくれた。意思疎通も問題無い。

 いや、コイツから俺に何か言ってこないとな――



『発言を宜しいでしょうか?』


「あぁ~、念話がメインか。ハスキーボイスすこ」

「許可が無かったから静かだったんですね」


『発言を許可して頂いても宜しいでしょうか?』



 あ、言い直した。頭も良さげだな。

 これでヒャッハーだったら泣くぞ俺。



「あぁ、構わんぜ」

『有り難う御座います』


「で、何か話したい事があんの?」


『私の任務は把握しております、願わくは、任務遂行の為に名を賜りたく。ダンジョン眷属としての力が発揮されませんので』


「あ~、悪い悪い。いやぁ~、格好がね、インパクトがね、すまんね!!」



 いやホント、命名とかどうでもイイってくらいインパクトがね!!


 って言うか……ドゥルジじゃダメなの?


 え? それは型式的な名前? なるほどなー。

 は? 可愛らしい名前が望ましい?……お、おう。

 ん? 腐った死体のような可愛らしさ?……ふむ。


 何言ってんだコイツ……


 なんだろう……

 ダンマスに成って以降、初回の出会いにマトモなのが来ないっ!!








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る