第157話「ねぇ、何が出るなの? ねぇっ!?」





 第百五十七話『ねぇ、何が出るなの? ねぇっ!?』





【聖地カンダハル神木前広場にて】




 勢いよく立ち上がる悪童達。

 彼らを見つめるミギカラは、熱気に包まれる野球部監督の様な笑みを浮かべている。


 微笑みつつ、老監督は一度頷き選抜の条件を告げた。



「選抜の条件は……デカさじゃ」



 ザワッ……!!

 スン……スンスン……



 無情、監督の一言は無情だった。スンてなった。

 甲子園でスタメンから外された部員達が悔し涙を浮かべる、そんな状況だった。


 自信満々のジャキと数名を残して他は座り直す。

 バットに自信の有る者だけが勃ったまま立っている状況だ。


 だが、優勝を目指す老将はメンバーの打率に不安を覚える。三コスりでアウトになりそうな若い面々が多い、三振が続いては後続打者が怯えてしまう。


 ここぞの場面で一発を放てる高打率スラッガーが欲しい。


 ミギカラは座っているレインに近付き、彼を立たせた。レインにはエースで四番を任せたい。



「……俺は立候補せんが」

「ワシの推薦じゃよレイン殿」


「ブッヒッヒ、俺様ほど凶悪な御立派様じゃぁねぇが、レインの二本立てペニスも『自在』検証には必要だぜっ」


「……ならば氏族から――」


「てめぇよりデケェのは居ねぇだろ」

「うむ、ブヒ太郎の言う通りじゃ」

「ん? なんつった今、おい、爺、おい」


「……フゥ、已むを得んか」



 困ったもんだとかぶりを振りつつ、御自慢の七三ポンプヘアーを右手で後ろへ撫で付けるレイン。半勃起は大森林に生きる男の証か。


 その様子を木陰から見つめるレインの幼馴染マミア。リザードマン氏族最強女衆であるマミアの『南都水龍拳』がレインの股間を襲うのは二時間後だ。


 そして、JLG48のマブい女衆にジャキがヌかれるのは七分後。ヌき終わるのは二日後である。



 話が一段落ついたところで、ミギカラが手を叩いて自分へ注目を促す。



「これは女衆の話じゃが……主様のダンジョンは実質『無限』じゃ。あぁ、言い方が悪いな。食い物も土地も住処すみかも、我らとクソ人類ゴミが存在する限り、困る事が無い不滅のダンジョンでな……」



 ザワ……??


 いまいちミギカラの言わんとする所が分からない一同。

 ミギカラは左頬をポリポリと人差し指で掻きつつ話を続ける。



「尊妻様はダンジョン内に主様の後宮を造ると仰せでな――」



 ザワワワワッ……!!!!(濡っ)

 シュタタタタタッ!!!!



 女衆が即座に反応し、未だかつて到達した事も無い速さで起立した。



「続きをどうぞ」

「お、おう」



 いつの間にかトイレを済ませた勇敢なラミア族長『クワェル・デ=ティンプォ』も、これ以上ない真剣な表情で話の続きを促した。その濡れた右手から多量のフェチモンが発せられている、不思議だ。


 ミギカラはクワェルのフェチモンにヤられたが、鋼の意思でセクハラを我慢し、話を続ける。テントを張った腰巻の先端がイカ臭く濡れているのは、大森林に生きる老兵の誇りか。



「それでじゃ、その造営する後宮も大きさに限りが無い、広げようと思えば幾らでも広げられる。尊妻様や妖蜂と妖蟻の両陛下は、いや我々もだが、主様の御子を、それこそ何人でも欲しておる。大猿王の血も、猿人としての血も残して頂きたい、それを願うばかりじゃ」



 パチパチパチパチ

 大きな拍手が沸き起こる。

 特に女衆が力強く南浅王へ拍手を贈る。


 盛大な拍手に紛れてジャキがJLG48に拉致される。

 その様子を見ていたレインは驚愕して三度見した。他の男衆は目を逸らして気付かなかった感じにした。


 南浅部ゴブリン女衆の日常だ、関わらないに限る。


 拍手が止み、再びミギカラが告げる。



「まぁつまりじゃなぁ、お前達が望むのであれば、十分過ぎる衣食住を保証した上で後宮に入れる、そう言う事じゃな。無論、尊妻様の御聖眼にかなえば、の話じゃろうが、ここの女衆なら問題無かろう」



 ザワザワザワッ……ゴクリッ!!(ッン)

 女衆が一斉に生唾を呑み込んだ。(……ふぅ)

 数名が賢者に至った。クワェルはこらえた。



「そそそ、それは大変有り難い事ですが……妖蜂と妖蟻の両妹殿下は、その、大丈夫でしょうか?」



 やや興奮気味にクワェルが質問する。これは命に関わる事である、女衆も全員納得の完璧な質問だ。


 ミギカラは「アハハ」と笑って答える。



「トモエ殿下もイセ殿下も、後宮の女衆なら問題無いそうじゃ。主様が娼館に通うと、まぁ殺……アレじゃが……とにかく、後宮は問題無い」



 いよっしゃぁぁぁぁっっ!!!!


 女衆の雄叫びが、いや、雌叫びが大森林を揺らす。

 その中には、レインの妹アイリンも居た。


 妹の姿を確認したレインは、フゥと小さく息を吐き、微笑んで妹の未来を祝福する。


 その時、レインは誰かから左腕を掴まれ、そのまま南浅部西側の沼地まで引き摺られていった。それを見ていた男衆は、何か目にゴミが入って見えない感じにした。



「話は以上……じゃな。さて、今日の連絡はこれでしまいじゃ、解散っ!!」



 ミギカラの解散宣言を聞くや否や、各族長は急ぎ足で地下帝国内の集落へ戻って行った。


 彼らの背後から「質問が有ればいつでも来い」と南浅王の声が聞こえたが、返事をする者は居ない。


 氏族の皆にビッグニュースを持ち帰る事が何より優先されるのだ、ジジイの補足事項など糞便以下の価値しかないっ!!


 速攻で散った族長達に苦笑を漏らし、キング・ミギカラも家路に就く。

 数日は体力温存の為に一人で寝よう、などと考えながら……

 きたる娼館オープン記念日に備え、股間を熱くしながら……





 二日後早朝、レインは自分の代わりに『アイトク兄弟』のトールとヒロッシをミギカラに推薦し、自分は検証役を降りた。ミギカラは何かを察し、承諾した。


 同日深夜、幼児退行したジャキが「血が出るなの」と股間を押さえてミギカラの家にやって来た。ジャキは泣いていた。チン血症の恐怖にこらえきれず泣いていたのだ。


 その涙は少年の、心に曇り無き少年の不安を如実に表した悲しき蒼水晶。

 果たしてこの悲しき少年に検証役が務まるのか?


 否だ、断じて否である。


 老兵ミギカラはジャキ少年を抱き締め、「血で済んで良かったのぉ」と慰めた。


 ジャキは絶望した。

 他に何が出るなのっ!! と。




 ちなみに、ジャキの代わりは当然のようにミギカラが務めた。

 体力温存は正解だった、立候補者を強権で退け率先して頑張った。サキュバス達にも人気の老兵として魔界にその名を轟かせる。


 妻のウエカラと若妻達は敬愛する尊妻に尋ねた、「もう殺っちゃっていいですか?」と真顔で尋ねた。


 尊妻はそれに待ったを掛け、言った、「もう少し妻を増やしヌき続けなさい」限界まで絞れと助言する。


 その後、ヴェーダは『お悩み相談室』を設けて眷属の悩みを減らす事にした。




 神界で族長の醜態を一部始終見ていたシタカラ達五人は赤面して震えた。そんな五人を指差しアングルボザは爆笑した。


 五人は思った、「早く帰んねぇかなこの人」と。









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