第149話「まぁ、知ってた」
第百四十九話『まぁ、知ってた』
カスガにも言われた眷属達の忠誠心……
これは深く真面目に考えるべきだな。
俺の存在が皆の足枷となっていた場合、死を選ぶとは思えんが『出奔』という手段を選ぶかもしれん……
色んな意味でガンダーラに居るのが苦痛になるはずだ。俺に謝りながら、あまり迷わずに国を去ると思う。
眷属達はこんな血生臭い世界に生まれた上にバイオレンス溢れる大森林育ち、生死に対しての甘さは無い。
一番甘っちょろいのが俺というのは、ガンダーラの王として些か心もとないな……
って言うか――
俺も本物のサイコパスだと言う事実を、しっかり受け入れなきゃな。
ヴェーダは『違う』と匂わせてはいるが、完全な否定も無かった。
『ラージャ……』
「だろ?」
たとえ生まれ変わって種族が変わったとしても、そして“世界”の設定だったとしても、敵対する種族を簡単に『殺す』と決断出来たのは、そう言う事なのだろう。
俺は魂の変化以前から殺害に関して、その対象が『アートマン様のお言葉』から外れていた場合、つまり『無駄な殺生』ではないと確信した時と、『本能に従う』際には何の躊躇も無く殺害を選択肢に入れ、そしてそれを簡単に選んでいた。
アートマン様が仰った『本能に従え』という意味に於いては、間違ってはいない。サイコゴリラの本能に従って、殺害・眷属化・放置のいずれか決めていた。
この世界に送られる奴は皆サイコパスだ、何故俺だけ例外だと言えるだろうか。
たとえ転生先がランダムだったとしても、恐らく、それがこの惑星に転移・転生する条件だ。そして俺は条件をクリアしていた。
俺はサイコパス猿人、眷属や憐れな魔族の事以外は……正直、どうでもいい。もっと絞れば、眷属以外どうでもいいと言える。
この考えも異常なのだろう、虐待される魔族に対してのみ過剰な反応を示すのも、恐らくオカシイのだ。嫌いだから、では済まされん反応だからなっ!!
眷属の命が散る事や、その家族の心情に俺は苦痛を覚える。
サイコパスでなかったら『優しいから』で済む話なんだが、俺の場合は『気に入らない』からだ。眷属の悲しむ顔が、その心を痛ませた俺の行動が気に入らない。
それをアートマン様に対する恩返しで誤魔化してきたが、そろそろ無理が出てきた。
無駄な殺生をしない、いや、なるべくしないでやって来たつもりだ、しかし、そろそろ自戒を守れそうにない。
アートマン様はどれ程、どれだけ俺の業を背負っただろうか……
あの時以来、お姿を拝見していない。
不出来な俺の業を背負った今、果たして――
『えっと……すごく、黒いです』
――ん?
え? どゆこと?
『アートマンは業を背負い過ぎて悪神?っぽくなりました。しかし、特に気にしてはいませんよ? ナオキさんが気にする事ではありません。そもそも、アートマンに善悪など関係ありませんからねぇ……』
えぇぇ……
悪神ってお前……
えぇぇ……
その時、久しぶりに優しい風が股間を撫でた。
すっごく撫でた。照れてしまいました。
有ーり難う御座いまーすっ!!
『まぁそういう事です。貴方の思う通りになさって下さい。この程度のヤンチャではビクともしませんよ、貴方の母は』
な、なるほど、この程度って認識なんですねっ‼
虐殺と書いてヤンチャと読むんですねっ!!
こいつぁ眷属や国のみんなが喜ぶぜっ!!
特に豚が喜ぶぜっ!!
マナ=ルナメルの皆もドワーフも、これからは思い切ってストレス発散してもらえるぞっ!!
『でも、虐殺は計画的にお願いしますね、飼育も視野に入れませんと』
オッケー!!
任せとけって!!
……あれ?
俺って結構シリアスな心情をブチかましていたような……
『え?』
あ、勘違いだったかな?
サイコパス知ってた定期?
何だろう、一人シリアス
『良くわかりませんが、今後は止めますね』
切にお願いしますっ!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
孤独なシリアスから脱した俺は、清掃の終わった関所でスコルと共に魔核を食べている。
人間の魔核は……唐揚げの味がする、鶏のから揚げ。
なんだコレ、やべぇ、スゲェ美味いんだけどっ!!
魔獣の魔核みたいに甘い飴玉系かと思ってた俺死ねっ!!
スコルてめぇ……
こんな美味しい物をハティと二人で今まで……赦さんぞ貴様ぁ~!!
『オヤツも程々に。それも大事な資源ですよ?』
クッ、まだ五百円分くらいしか喰ってないのにっ!!
『貴方が小さい頃のお駄賃は毎日百円だったではないですか、五百円分も食べれば十分です』
お?
お、おう、そうだな?
……何となく悪い気がしたので、そっと魔核を地面に置く。
いや~、ヒドイ暴論だったな!!
若干の不満を残しつつ、残りの魔核は【影沼】に沈んだ。
スコルの尻尾と耳が垂れる。ウヒヒ、ざまぁw
俺の尻尾(前に在る)と肩も下がったけどなっ!! クソう!!
恐らくヴェーダに何か言われたであろうラヴが「アハハ」と笑いながら寄って来ました。
目の前でナイショ話はやめようぜ……
その、ちょっとクるから……グスン。
「では陛下、参りましょうか。この近辺を蟲が掃除していても、長居は無用ですので」
「だなっ。スコル、メチャ、行くぞ。おーいピクシーズ、戻って来い、魔窟に入るぞ~」
って、聞いてんのかアイツら……楽しそうだな冒険者殺しごっこ。
まぁ『ごっこ遊び』の『ごっこ抜き』なんで本気ですが。
最後の一人だから念入りだなぁ、もう殺して差し上げて?
『遊び続けるなら置いて行きますよ』
「ひぃぃ!!」
「ヤダー!!」
速攻でブッ殺して戻って来た。鬼の一声で一発かよ……
そのまま俺の背中に張り付いて隠れたっぽくしてるけど、ヴェーダには丸見えだぞ君達。
右腕を肩越しに、左腕を腰から背中へ回し、張り付きピクシーズを掴んで胸に収める。アハハ、ちっこいなぁ~。
「いいかお前ら、遊ぶ時は怖い母ちゃんに怒られないようにするのがコツだぞ?」
「んゅ? 母ちゃん?」
「母ちゃん居ない……」
「居るじゃねぇか、なぁヴェーダ」
『……ンッ、まったく、しょうがないですね』
そう言って、俺の背中から発光したお母ちゃんが出現。
メチャが真っ先に膝を突き、ラヴが「オッス」と右手を上げる……お前のそれはどうなんだ?
スコルはチラリと見ただけで周囲の警戒に意識を向ける。さすがの貫禄ですね魔王のお孫さんっ!!
ピクシーズは……俺の胸に顔を当てて隠れた。可愛い。
だが今はそうじゃないんだよ、それは不正解だ。
「どうしたお前ら、母ちゃんが怖いか?」
『私は優しいと評判の良妻です。ね、メチャ?』
「仰る通りですっ!!」
「この子に聞いちゃ駄目だよ~」
ラヴの的確なツッコミが入った。
狂信者に是非を問うのはイカサマです。
それはさておき、ピクシーズはどうかな?
うむ、チラチラとヴェーダを見ているな。
よっしゃ、ヴェーダに預けましょう。
「ほれ、母ちゃんとこ行ってみろ」
『おいでなさい』
正に聖母の笑みを浮かべたヴェーダが両腕を広げた。
ピクンと反応するピクシーズ。
どうやら飛んで行きたいっぽいな。
でも恥ずかしいのか、なかなか行かない。
おい母ちゃん、お出迎えして~。
ヴェーダがフワフワと浮きながら目の前で停止。
ピクシーズの頭を撫でる。触覚が激しく動いた。イケるな。
恐る恐る俺から離れ、ヴェーダの腕に抱えられながら移動に成功。
二人はニパーッと笑みを浮かべてヴェーダの胸に顔を
「どうだ、母ちゃんは?」
「好い匂いっ!!」
「お母ちゃんっ!!」
「そりゃ良かった。まぁ、遊びは程々にな。母ちゃんが泣くぜ?」
「ほどほどにっ!!」
「泣かしちゃだめっ!!」
「ヨシッ!!」
う~ん、虐殺後とは思えないなぁ!!
ほのぼのして良い雰囲気だっ!!
やっぱサイコじゃんっ!!
「陛下、そろそろ参りましょう」
「おっとイケネェ、ほのぼのしてたぜ!!」
苦笑を浮かべるラヴのケツを揉みつつ、ゴリラは魔窟に向かうのだっ!!
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