第148話「僕またやっちゃいました?」





 第百四十八話『僕またやっちゃいました?』





 九月十三日、午前零時。

 メハデヒ王国北部農村、村長邸。


 月明かりが差し込む狭い寝室、鈴虫の輪唱とラヴが何かをしゃぶる音が耳に心地好い。


 メチャがラヴに「こ、交替しよっか?」と幾度も尋ねるが、全裸のラヴは「もう少し待って」とメチャの申し出を断り続けている。


 スコルは家に入りきらない為、村の中央に在る広場で横になって眠った。アムルタートとハルワタートはスコルの太い尻尾に巻かれて就寝。



 ここは無人の村。

 つい先ほどまで人が居た形跡が随所に見られる無人の村。


 だが、誰も居ない。

 四十三個の魔核を残し、村人は一夜で消えた。


 ふと、マザーグースの一篇を思い出す。


“Who Killed Cock Robin”


 フー キルド クックロビン……


『誰が駒鳥コマドリを殺したのか?』



“誰が駒鳥を殺したのか?”

“それは私、と雀が言った”

“私の弓矢で彼を殺した”


“誰が彼の死を見届けた?”

“それは私、と蝿が言った”

“小さなこの目で私が見ていた”


“誰が彼の血を受けたのか?”

“それは私、と魚が言った”

“小さなお皿で私が受けた”


“誰が彼の埋葬布を作るのか?”

“それは私、とカブトムシ”

“針と糸で私が作ろう”


“誰が――……”



 まだまだ先は有るが、気味の悪い童謡だ。


 日本の童謡も薄気味悪いものが多い。

 歌詞が意味深長な上に歌の雰囲気が暗く不吉なものを感じる。


 何故、世界各地で同じような童謡がンホォォォ~。

 い、逝ぐぅぅぅ~!!



“誰がゴリラを逝かせたのか?”

“それは私、と雌豹めひょうが言った”

“小さなお口で私が逝かせた”



 ふぅぅ キルド クッ殺ビン……

 誰がゴリラを逝かせたのか?



『馬鹿ですか?』


「んちゅ、んぐ……ん、ゴックン」

「ラ、ラヴちゃん、そろそろ、こ、交替しよっか?」


「待って、絞り摂るから」

「す、少しくらい残してくれると……」


『およしなさいメチャ、はしたない』

「はい…… ちょ、ちょっと厠へ行って来ますぅ」



 いそいそとトイレへ向かうメチャ、この家に着いて五度目のトイレだ。


 腹の具合でも悪いのだろうか?

 心配ダナー。心配なので俺も行こう。



『駄目です』

「あ、ハイ」



 まったく、やれやれだぜ。

 シリアスに魔窟攻略を飾ろうと思ったが、無理だった。


 たはーっ!!




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 っと言う事で、魔窟を管理する関所に来たわけですがっ!!


 もうね、何と言うか、人間がね、予想通りのね、アレでね、俺の隣に居るラヴを『寄越せ』とね、そう言うんですよ。


 俺の天罰効果の所為だが、悪意マシマシで騎士が近付いて来たと思ったら、コレだよ。


 ラヴの容姿は幻覚でダークエルフには見えていないし、美貌も醜悪に変化させているのでイケると思ったんだけど……


 俺の連れってだけで問題だったわけですね。


 つまり、コイツらは嫌がらせでラヴを寄越せと、そう言っているんですね。


 兵舎で可愛がってやるとか言っていますw

 困ったなぁ……


 大猩々化しちゃったよ。アハハッ!!


 ついでに、今クソみたいな発言をしたゴミの頭を掴みます。



「よく聞こえねぇなぁ、もう一回言ってくれよ」


「グギッグガガガ……」

「まっ魔族っ!! きっ、貴様っ、その手を放っグビボッ……」


「うるせぇよ、テメェにゃぁ聞いてねぇ」



 隣のヤツを睨んだら血を吐いて死んだ。

 弱ぇなコイツ。



『マハーラージャ、関所の制圧を完了いたしました』

「陛下……私は気にしていませんから……」


「ヴェーダは清掃と警戒を。ラヴはもう少し自分を大切にしろ、大猿王のお妃様は侮辱を赦しちゃぁいけねぇ」


「いやぁん、お妃様だなんてぇ……」


『ラヴ、ラージャの言う通りですよ? 貴方達を囲んでいる騎士を殺し、じょくすすぎなさい』


「むむっ!! 了解っ!!」



 ヴェーダに発破をかけられたラヴが広範囲に【影沼】を展開。騎士や冒険者を次々と沈めていく。


 辺境伯戦のようなレベル上げ目的や奇襲縛りがなければ、これが可能なんだよなぁ。


 沈めた後は、酸素を抜くなり毒を入れるなり、やりたい放題だ。


 勇者レベルの強者や【影沼】の特性を知る者が居なければ、本当に優秀なスキルである。


 まぁ、使用者の技量と総魔力量次第ではあるが、ラヴはどちらもクリアしている。この子も優秀だ。


 おっと、俺も右手で掴んでいた汚物を処理しねぇとな!!

 汚物は廃棄処分だぁーっ!! ハッハー!!



「で? もう一回言ってくれよ、ラヴをどう……何だよ、死んでるじゃねぇか。まぁ安心しろ、テメェの親族もすぐ冥界に送ってやる」



 少しばかり残念に思いつつ、周囲を見渡す。


 ラヴはニコニコ顔で隣に居る。

 ピクシーズは……冒険者に魔法を撃って遊んでるな、あ、殺した。


 スコルは……相変わらず魔核ごとイッてるな。


 さてメチャは……うわぁ……

 人間絶対殺すウーマンになったんだなぁ……



『優しいあの子でも、シタカラ達の恨みは晴れそうにありません』



 そうか……でもそれが普通か。


 本当はメチャ以外も同じ気持ちなんだろう……


 やっぱ、これでよかったんだな。

 もっと静かな方法を……なんて考えるのは無しだ。



 これはアレだな、眷属達は相当なストレスを溜めているのでは?


 アレ? アレレ~、僕またやっちゃった?



『まぁ、はい、そうですね。マナ=ルナメル氏族とドワーフは特に』



 だよなっ!!






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