第147話「それでも僕は、殺したい」
第百四十七話『それでも僕は、殺したい』
九月十二日、午後二十三時。メハデヒ王国北部上空。
現在、俺とラヴはワイバーン『ヤスシ』の背に乗り、夜の空を飛行中。
地上に光は無く、小麦畑が広がっている。
前方に目を向けると小さな山、その麓に人工的な光が見えた。
魔窟の周囲に出来た宿場町から発せられる微かな光。
そろそろ夜の遊覧飛行も終わりだな。
ヤスシの首を撫で、予定通り小麦畑の端に着陸を指示する。
着陸地点にはヴェーダが先行させた使役蜂や蟻が待機中。周囲の警戒も『人払い』も万全、百姓達は
着陸地点の上空を旋回しながら、ゆっくりと下降。ヤスシは俺とラヴを楽しませたいようだ。デキるワイバーンである。
と言っても、夜空の情事を堪能中である全裸のラヴに、ヤスシの気遣いを察する余裕は無さそうだ。
「ラヴ、着いたぞ。服を着ろ」
「んぁ…… ぁ、ぁ、ぅあ、ぁ……」
『やり過ぎです』
「ハッハッハ、マイッタナー」
アヘるラヴに気付け薬代わりの精気を注ぐ。
ラヴが正気に戻ったところでヤスシが着陸した。
合体したままのラヴを抱え、ヤスシの背から飛び降りる。
着地の衝撃でラヴが八度目のスプラッシュ昇天。
コマッタナー。ヴェーダから苦言を頂く。
グデグデのラヴがヨダレを垂らしながら、なんとか【影沼】を展開。
小分けにした物資を詰め込んだ大きな麻袋の一つを咥えたスコルと、
アムとハルがラヴを見て「ハダカんぼだー」と笑い、スコルが俺の隣に座って周囲を警戒する。
俺はヤスシの背に置いてあるラヴの衣服をメチャに投げ渡し、メチャは受け取った上着を広げてラヴの背に掛けた。
ラヴはグデグデになりながらも俺にしがみついて離れない、その様子を見たメチャは土蜘蛛の糸で出来た『スパッ布』を雑嚢から取り出し、ラヴのケツや口元のヨダレを拭く。
メチャは慣れてきたな、バッテン娘も卒業か……
『よく出来た侍女です、本当に』
ですねぇ、そろそろ柔道着も卒業させたい。
せめて剣道着とか、袴になってもらえんだろうか……
無論、スカート型の
『フム……頃合いを見て提案してみましょう』
オナシャス。
ラヴの回復を待ってその場で休憩だ。
ヤスシにも鹿肉とマハトミンCを与えて労わる。
三十分ほど休憩してラヴが復活。なお、合体は解かない模様。
メチャが羨ましそうにラヴを見る。お前は三十歳の誕生日まで待て。
翼を休め終わったヤスシに帰還の指示を出す。
ヤスシは俺の右頬をネッチョリとした舌で舐め上げると、小さな一吠えを上げて皆に別れを告げ、大きな翼を広げて飛び立った。気を付けて帰れ。
皆でヤスシを見送る。月明かりに照らされたその姿が見えなくなるまで、静かに北の空を眺めていた。
好い月夜だ、明後日は満月かな?
「け、賢者様ぁ、今夜は、どちらでお休みに?」
「ん? あぁ、その辺に在る民家に泊まる。『無人』だからな」
「無人?」
「うふふ、ゾンビは居るかもね」
『その危険も有りません。現在、蟻が掃除中です』
「お掃除は家の外でやらせてね、血臭漂う寝室じゃムードが台無し」
『今夜の夜伽は控えなさい。やり過ぎです』
「それは陛下がお決めになる事でしょ~。プンプン」
相変わらずラヴはヴェーダと友達感覚だな、良い事だ。
しかしお前、プンプンって……俺の昭和知識学んだの?
そんな事より合体解除はまだなんですかねぇ?
さっきから合体個所をアムルタートとハルワタートが無言でガン見しているんですが。
メチャが
「ったく、平常運転で頼もしい限りだ。そろそろ行くか」
『蜂に先導させます』
テイクノ・プリズナでの虐殺以来、前線で活躍中の精鋭蜂は通常の使役蜂よりデカい。
体長は約20cm、どうやら進化を遂げたようだが、このデカさでは隠密行動に支障が出るな。羽音が凄まじい。
スズメバチに敏感な日本人なら、この聞き覚えのある羽音に速攻で反応し、二度見三度見してその巨体を確認するだろう。
俺は三度見した。デカすぎワロタ。「うそやろ?」が素で出る。
しかし、彼らの戦闘能力とその俊敏性には目を見張るものがある。
明日の魔窟攻略で活躍する事は間違いない、関所でトラブルが発生した場合も大活躍しそうだ。
『関所でのトラブルは回避して下さい。作戦に支障をきたします』
そりゃそうだが……
アートマン様の天罰がなぁ~、効果抜群だからなぁ~……
最初から殲滅で良くないかな?
と、ラヴのケツを揉みながら杞憂を述べてみたが、メハデヒ王国と隣国との間に亀裂を入れた今なら、多少暴れても大森林に目を向けられる事はない。
最悪の場合は冒険者と騎士団を皆殺しにしてトンズラだな。
魔窟攻略はスコルと速攻で終わらせ……られるかな?
正直に言ってしまうと、皆殺しコースになって欲しい。
俺の本能はそれを望んでいる。
人外の魂がそれを望んでいる。
鏖殺こそ我が使命っ!!
『……魔窟近隣の住民は蟲が排除済みです』
ほらな?
これで騒ぎは最小限で済むっ!!
さすが俺の愛妻だぜお前はよっ!!
『……ンッ、当然、です』
あぁぁ、明日が待ち遠しい。
胸が躍るぜぇ~。
ウェ~ハッハ~!!
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