第五章

第146話「憎い、この頑丈な体が憎いっ!!」






 第百四十六話『憎い、この頑丈な体が憎いっ!!』





 眠い。


 九月十二日、午前九時、晴れ。

 午前八時に地下帝国からカンダハルに移動。


 現在、メチャとラヴを左右に従えて朝の巡廻中。



 昨夜はトイレで厠番の娘達と楽しんだ後、四人の美女と戯れた。


 カスガとアカギは普段通りのロマンスで済んだが、トモエとイセはロマンスの神様を叩き殺して僕を犯したのです。


 僕は何度も「堪忍して下さい」と泣きながら訴えました。

 ですが、御二人は僕の哀願を全て退けたのです。


 笑顔で『その頑丈な体なら問題無い』と言って、息を荒げたのです。


 トモエ殿下は『五イク円』と仰せになりました。

 酷い、二イク円追加です。


 イセ殿下は『今日は蟲尻に四回』と仰いました。

 誰かと比べるとお優しい。


 あの御二人へは早急に対策を講じる必要があります。


 僕が死んでしまいます。金玉が死んでしまいます。

 魔素枯渇の前に精子枯渇で死んでしまいます。



『死にません』

「いや、死ぬぜ? 死ねるぜ?」



 まったく、あの二人との聖行為がどれだけ苦しいか理解していないようだ。


 一人相手でも厳しいのに、今回は二人同時だぞ?

 一方的なリンチと言っても過言ではない。

 大猩々じゃなかったら死んでいる……っ!!


 しかも、聖行為を重ねる毎に二人の性技レベルは上がっている。既に『らぶえっち』と呼べる行為ではない、毒針や蟻酸をあんな事に使うなんて……


 昨夜はうっかり「くっ、殺せっ!!」と叫んでしまった。

 その結果、二人の嗜虐心はより一層燃え上がり、凌辱度が五割増しになって俺は泣いた。



『歓喜の涙ですね』



 はい、最高でした。

 スガスガしい気分で魔窟攻略に挑めます。


 ――と、言いたいところだが、魔窟攻略メンバーから外されたメチャの落ち込み様が尋常ではないので、いささか困っている。


 今回の魔窟攻略で留守番となったメチャが酷く落ち込んでしまった。


 巡廻中もずっとラヴとヴェーダがメチャを慰めているが、心ここに在らずといった御様子。


 なんだろう、俺が悪者になった気分だぜ……



『これは困りましたね……ここまで落ち込むとは、予想しておりませんでした。恐らく、シタカラ達の死が原因でしょう。死を賭して護るべき対象であるアナタから離れる事になる状況を恐れています』



 それは……他の眷属も同じ気持ちだろう。


 しかし、メチャのそれは他の者達より強い。今も彼女の不安と恐怖をビンビン感じるよ。



『攻略隊を再編成なさいますか?』



 甘やかすワケじゃないが、メチャがシタカラ達の死から立ち直るまでは俺の傍から離さん方がいいかも知れんな。


 眷属として絆を深めた仲間を失うというのは、たとえ大森林で育った魔族であったとしても、メチャのような優しい者には堪えるようだ。



『眷属としての強い繋がりが無ければ、ここまで落ち込む事にはならなかったでしょう』



 だがまぁ、俺としては歓迎すべき『眷属化の弊害』と言える。


 仲間の死に対して深い悲しみを覚え、更なる死に不安を覚える……


 当然、魔族もその感情を抱くが、引き摺る者は少ない。メチャのようなタイプは稀少だ、俺はそれを素晴らしいモノだと思っている。


 しかし、皆がそう在るべきだとは思わん。俺も異常だしな!!


 ネガティブな感情を切って捨てるのは魔族の特性だ、人類と比較した場合の優位性と言ってもいい。これは魔族の『質』に関わる問題だろう。


 そう考えると、メチャが持つ魔族としての質は低い。だが、俺が望む『新しい魔族』としての質は眷属の中で最も高い。


 戦士が抱くには不適格な『不安』や『恐怖』といった感情、これらは脳筋揃いの魔族にとって唾棄すべき感情、早々に取り払うべき感情ではあるが、物事を戦い以外で解決する道を考え易くなるという点で大切な感情だ。


 メチャに根付きつつあるこれらの感情を、易々と刈り取ってしまうような行動は控えるべきである。


 今現在メチャが抱いている感情を上回る『希望』を与え、彼女を安心させつつ、不安や恐怖を抱きながらも前向きに行動出来るように慣れさせる事が肝要だ。


 となれば、今回の攻略で留守を命じ、いたずらに彼女の不安や恐怖を掻き立てるのは愚策。


 メチャにはもう少し俺の言動を観察してもらって、信頼を高めて頂こう。


 俺は立ち止まって振り返り、ションボリ歩くメチャとラヴに告げる。



「ハティとメチャを入れ替える」


「…………へ?」

『攻略隊の再編です』

「よかったねっ、メチャ!!」


「だが、魔窟に入るまで【影沼】で待機だぞ? お前は女性のオーガと思われるからな。ラヴの幻覚魔術で視覚的には誤魔化せるが、冒険者や魔窟を護る騎士団はイケても、魔導具等には見破られる……(まぁコレは蟲に破壊させるが)」



 鑑定系魔導具は早々に壊さんと、俺がバレるからな!!

 でも、メチャが俺の横に並んで行くと言わせん為に、これは黙っておくのです。



「で、ではっ、私も賢者様と一緒に?……」

「そうだ。だから、その、元気を出せ、な?」


「は、はいっ!! た、たくさんっ、元気になりますっ!!」


「うふふ、陛下はメチャに甘いわねぇ」

『いいえ、彼は眷属全てに甘い。困ったものです』

「そうだね、困ったもんだ。アハハ」



 ふぅ、一件落着。そして俺は甘くない、鬼軍曹だゾ?


 笑顔が戻ったメチャを右肩に乗せ、ついでにラヴも左肩に乗せて巡廻を再開。


 二人の太ももを撫でつつ、攻略隊のメンバーであるハルワタートとアムルタートのピクシーコンビについて考える。


 ピクシーの羽は蝶の羽と同じ形、生え方も同じだ。蜂や蝿のように羽を背中に畳む事は難しい。彼女達が『荷運び童子』として背負子を背負う場合、無理やり羽を下方に畳む必要が生じ、それは同時に相当な痛みも生じさせる。


 しかし、ハティとメチャを入れ替えた事により、ラヴの【影沼】に空き容量が出来たので、アムルタートとハルワタートも【影沼】に入れて運ぶ事が出来る。これで、二人の綺麗な羽や背中に無理な負担を掛けずに済んだ。


 俺とラヴの二人だけなら、魔窟へ入る際の関所イベントも難易度が下がる。


 そう考えると、メチャとハティを入れ替えたのは正解だったのかも知れない。


 ハティは拗ねるだろうか、いや、アイツはツンとしながら『しっかりやってこい』とメチャのケツを尻尾で叩くだろうな。


 さて、早く巡廻を終わらせよう。


 南浅王ミギカラと最後の打ち合わせが待ってる。









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