第144話「シンプルな答えだ(キリッ」





 第百四十四話『シンプルな答えだ(キリッ』





【影沼】に『何でも入れる事が出来る』という事実を知るのは、本来ダークエルフのみ。


 カスガは確かにそう言った。

 アレレ~、おっかしいぞ~。



「ちょっと待てよ、お前らは――」


「ダークエルフが扱う【影沼】の真なる能力を蟲の覗き見によって把握していた妖蜂や妖蟻、ラヴと誼を通じ『猿王の眷属になる』という前提で【影沼】本来の力を教えられたエルフやドワーフ達、そんな我らと一般的な魔族の常識にはズレが生じている」



 うっそ~ん……

 あぁ、秘儀的なアレだった?



『本来、ダークエルフは【影沼】の能力を他種族に教える事はありません。死活問題となるからです。当時奴隷であった身の上と、強烈なフェチモンを放つ圧倒的強者である貴方が示した眷属化という条件が無ければ、ラヴも貴方を【影沼】へ入れる事はなかったでしょう』


「ちょ、待て待て、ヴァンパイアは【影沼】より強力な【闇の湖】を持ってるだろ、そのヴァンパイアも【影沼】の秘密を知らねぇのか?」



 いわゆる上級魔族の中にも人類寄りのアンポンタン居るの?

 ただ知らないだけ?



『知らないと言うより、興味を持っていないと言う方が正しいかと。【闇の湖】はヴァンパイア専用の上級固有スキルですが、【影沼】は中級普遍スキルです。【闇の湖】より数段劣る上に『物』しか収納出来ないと一般常識化されている【影沼】を、ヴァンパイアが取得する必要も性質を学ぶ必要も有りません』


「クック、そのヴァンパイアは【闇の湖】の能力が正しい意味で【影沼】を上回っていると理解しているとは思えん。自分専用の『隠れ場所兼倉庫』以外の使い道を聞いた覚えが無い」


「そうねぇ~、『湖』ほどの大きな【影沼】を展開すれば、人類の住む小さな町程度なら呑み込めそう。大量虐殺必至よねぇ~。狩られる心配も初めから無いでしょうしぃ~」



 マジかよ……いやまぁラブの強力な【影沼】でも村程度なら呑み込めるけどよ……


 とにかくアレか、【影沼】の『何でも入る』という能力は、ダークエルフだけの秘密だったと……


 妖蟻と妖蜂にはバレてたみたいだが。


 ラヴには悪い事したな……魔窟攻略の旅でタップリ可愛がろう。


 う~ん、でも何か……あぁそうだ、ダークエルフ以外でも扱う事が出来る【影沼】の秘密を、何故ダークエルフだけが知っている?


 先祖が偶然発見したか、それとも遊戯上のバグや見落としか……


 ダークエルフの先祖だけが発見したってのは、ちょっと無理があるか?


 だが、ダークエルフは【影沼】を幼いころから扱える、ほぼ先天的な能力だ、後天的に【影沼】を学ぶ他種族よりは秘密発見の確率は高い。


 遊戯上のバグと言えば……


 設定ミス、この場合はキャラクターメイキングでの誤りってトコか。いや、むしろ特殊能力として設定した可能性も有るぞ……


 クッソ、解らん。とにかく――



「――今の話でダークエルフが特殊だと言う事は理解出来た」


「フフッ、彼らだけではないさ、今では其方そなたの眷属全てが姉上様によって知識を授けられ、様々な情報を共有出来た。ガンダーラの民は既に普通の魔族ではない…… 我々以外の魔族は非生物アンデッドを『生物』と認識している、ヴァンパイアですら例外ではない。つまり、それが人類も含めた世界の常識だ」


「常識……」



 常識や知識のズレと言うより、価値観の違いか?


 アンデッドが当たり前に存在する世界なら、ヴァンパイアも骸骨兵も『不死族』として十把一絡げで扱う事も出来る……


 少々強引だが、そう言う事だろう。


 世界の常識って事は……

 まぁ、チョーの助言云々をコアにって言ってたから推測は出来るが、一応聞いてみる。



「つまり、コアも同じ認識って事か?」


「コアは遊戯開始当初から設置された遊戯盤上の『設定済み小道具』、そして、遊戯のルールでは設定の途中変更は不可となっているようだ。世界の常識を“世界”が定めたものとするならば、魔族や人類が等しく持つ常識は変化せず知識のみ増えるはずだ」


『しかし、自由意思を持った駒である魔族や人類は、『駒の自由意思の保護』という遊戯のルールが定められている以上、常識の不変は有り得ません。即ち、“世界”は駒に『全ての常識は不変』という設定をしていない、出来ない。ですが――』



 小道具であるコアはその限りではない……かもしれん。



『魔竜がアンデッドの大軍を以って人類やナオキさんを懲罰していない大森林の歴史を考えると、コアが【影沼】や異次元袋等にアンデッドを潜ませるという『非常識』を行ったとは思えません』


「お前の推測通りなら、まぁ、そうだよなぁ。影沼使いにアンデッドの大軍を任せて、アンデッドの指揮を執る死霊術師と二人で影沼に潜みながら敵陣中央に移動、そして大量の不死兵を放出……敵を撃破する作戦なら幾らでもある」


「クックック、『影沼の不死隊』か、ガンダーラにも欲しい部隊だ」



 不死兵団か……大好物ですねっ!!


 カスガは楽しそうに俺の左乳首を指先でつついた。

 あふん。お返しにビーチクを突いてやったぜ。


 もちろん両方だ。「……ンッ、馬鹿者」って言われた。ついでにトモエから睨まれた。


 でもどうなんだろうな、敵陣中央に放出するならスコルとハティで十分な気がするが……


 消費魔力というコストを考えるとアンデッドだろうか、だがしかし、スコルとハティは肉体もスキルも家族構成も異常だからなぁ、微妙だ。


 いやいや、そんな事はどうでもいいんだよ。



「今までの話からすると、チョーの助言や提案は無駄って事になるぞ? コアが常識に囚われているなら、チョーの意見なんて聞かねぇだろ」


「無駄ではない。コアが持つ常識は変わらずとも、チョーを得た事によって非常識な価値観と知恵、そして可能性を得たのだからな。魔竜のコアはマスターの為なら『屁理屈』を通す、設定された常識に思考を邪魔されない範囲内で行動するだろう」


「ほほう、例えば?」


「例えば……チョーの助言や提案は受け入れない、しかし、眷属はチョーの意見を聞いて行動すべし……と言うのはどうだ? 簡単に言えば配下に丸投げ、『もしかして』、『あるいは』、『何もしないよりはマシ』、危険を伴わず博打が打てる」



 強権発動の屁理屈ですね分かります。



『その方法ならば、コア自体が世界の常識に逆らえない状態、もしくは常識に沿わざるを得ない状態であったとしても、結果報告を聞くだけで済みます。自ら提案・実行しないコアに、常識は関係ありません』


「それ、ほぼ当たりじゃねぇの?」


「私はそう思っている。となれば、コアに残された仕事はアンデッドを潜ませた影沼使いや希少な異次元袋所持者の待機場所をダンジョン以外で確保する事だが、ここまでくれば答えは簡単だ」


「……【影沼】か」



 カスガは「ほぼ間違い無く」と言って鷹揚に頷いた。


 推理小説のラストを飾るには、少々物足りない『答え』だ。






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