第143話「異議あり、だっ!!」






 第百四十三話『異議あり、だっ!!』





「干し柿の供給が足りんな、ナオキ。もっと増やすべきだ」

「お、おぅ、そうだな、前向きに考慮しよう」



 皿に盛った干し柿はカスガが全滅させた。FPで追加購入する事も出来るが、本日の贅沢は終了、休憩も終わり。


 では早速、アンデッドの隠し場所について話を聞こう。



「それで、アンデッドはドコに隠してあるんだ?」


「ウム、その前にナオキ、アンデッドとは『生物』なのか、それとも只の命無き『物』なのか、どちらだと思う?」


「それは…… 難しいな。同じアンデッドでもヴァンパイアと骸骨兵では質が違い過ぎる。亡者ではないヴァンパイアは生物だろう、だが、魔核も魂も無い屍である骸骨兵は只の『動く骨』、非生物だ」


「左様、その答えは正しい、一部のアンデッドは自我も持たぬ只の『非生物』、魔力で動くゴーレムや魔道具と変わらん。しかし、お前の認識は世界の常識からすると間違いだ。魔族も人類もお前とは違った物の見方をする」


「そうねぇ、例えば魔族も人類も頻繁に死体を【影沼】や異次元袋へ入れて運ぶけれど……飽くまでも死体に限った話」


「死体には『びせいぶつ』も付着しているだろうが、初めから『びせいぶつ』や小虫の存在を無視している者共からすれば、死体を非生物として扱い【影沼】へ放る事に疑問など生まれん。しかし――」


「非生物アンデッドの運搬は別、か?」


「如何にも」



 カスガは「よく出来ました」と俺の頭を撫で笑顔を向ける。

 可愛いのでオデコにキスだ、コイツめ。話の続きオナシャス。



「私もアカギも人間や獣人共が死体を【影沼】や魔道具へ入れて運ぶ事は知っていた、無論、ラヴやガンダーラのダークエルフ達も知っている。そして我らもダークエルフ達も確認出来ていないのが、先ほど述べた『非生物であるアンデッド』の【影沼】等による運搬だ」


「ほほぉ~、そいつぁ興味深ぇ話だな」


「魔族も人類も非生物アンデッドと死体ものを区別して【影沼】等を使用する。戦いに非生物アンデッドを投入する場合、一部の上級不死族を除き必ず死霊召喚師が現場でアンデッドを召喚するが、複数の召喚対象を同時召喚した例は少ない、通常は一体ずつだ。その際、【影沼】や異次元袋等からアンデッドを放出する事は無い。これは姉上様にも確認をとった」



 えぇ……また何かの縛り?

 それとも馬鹿なだけ?



『魔核を持たない『召喚獣』は、召喚後に術師からの魔力供給を必要としません。そういった召喚獣は、コストや戦術・戦略を考慮してあらかじめ大量に召喚しておくものです。当日の現場で召喚すると、術者はその日に召喚可能な個体数しか投入できませんので』


「非効率って事か」


『はい。複数同時召喚でも一体ずつの召喚でも非効率な過程は同じ、どちらも以前からストックを増やしておけば、当日に様々な面で余裕が持てます』



 なるほどなー。それにもかかわらず、非生物アンデッドを【影沼】等に入れて準備しない……


 宗教的なアレかな?

 いや違う、アンデッドを召喚する時点で宗教的な禁忌の線は薄い。特に魔族は宗教的な縛りが無いに等しい。


 人外を嫌悪する人類は、さすがに街中でゾンビや骸骨兵を堂々とお披露目する事は無いと思う……


 ……が、戦場以外では姿を見せないという点で、【影沼】や異次元袋の中に潜ませておくのも召喚前の冥府に待機させておくのも同じ、宗教云々は【影沼】等に待機させられない理由にはならん。


 それに、魔族が非生物アンデッドを不死族系の一種として扱うのは解るが、クルクルパーの人類が骸骨兵と骸骨を区別するとは思えんなぁ。


 どちらかと言えば『どっちも骨だ』で片付けそうなもんだが……


 う~ん、解らん。



「それで? この件がアンデッドの隠し場所とどう繋がる?」


「繋がりと言っても、私の推測による貧弱な繋がりだ、期待するな」


「ハッハッハ、御謙遜を。で?」


「人類は非生物アンデッドを【影沼】や異次元袋に入らない物として扱っている。即ち、扱いは『人類が認める生物』と同様、認識としては小虫や『びせいぶつ』以外の『異次元袋や影沼に入らない生物』と同じだ」


「フムフム、続けて」


「そしてそれは人類の、少なくともメハデヒ王国や教国、スーレイヤ王国では常識なのだろう。妖蟻も妖蜂もこの三国で『非常識』なアンデッドの輸送は確認していない。姉上様は世界の歴史に鑑みて我々と意見を同じくした」


「フムフム、続けたまえ」


「だが、我々の近くにはその常識が通用しない『かつて異世界の人間であった者』が居る」


「アーハン、俺だな。続けてどうぞ」


「そしてもう一人、お前に近い常識……いや、知識と言うべきか、その知識を持ったハイゴブリンが居た。そ奴は現在、魔竜陣営に身を置いていると思われる」


「オーイェア、チョーの事か。続けなさい」


「つまり、お前と同様にチョーは非生物アンデッドを只の『物』として認識し、【影沼】や異次元袋での輸送を実行、またはそれをコアや召喚師に助言・提案する事も不可能ではない、と言う事だ」



 チョーがお前と同等の知識や知恵を持つならば、生物も【影沼】内に入れる事が出来ると説いたかも知れんな。カスガはそう言って肩を竦めた。


 チッ、武士の情けや魔族の仁義なんて無視して、魔核ごと消滅させときゃよかった。ん?



「って言うか、その助言や提案は……チョーじゃなくても出来るだろ、助言の必要すら――」


「いや、不可能だ。アンデッドに関して通常の魔族は人類と同じ認識を持っている、そして、【影沼】に『何でも入れる事が出来る』という事実を知るのは、本来ダークエルフのみだ」



 は?


 ちょっと待て、それはオカシイぞ?











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る