第134話「カッコ良すぎた?(推測)」





 第百三十四話『カッコ良すぎた?(推測)』





 いやいや、俺の操縦桿は曲がっていない、決して左に曲がっていない。



『左に傾いてますね』



 言い方ぁ!!


 もういいよ、左曲がりでいいよっ!!


 話を戻します。




 カスガの指摘後、ヴェーダは瞬時に再考を開始。


 大森林の最奥からガンダーラの中心までの距離は360km、深部の南端からだと160km。伝説の300km遠距離召喚とまではいかないまでも、高熟練度の死霊術が扱えれば十分にチョーを召喚出来る距離である。


 さらに、カスガの推測が正しければ、死霊術師はチョーだけを狙ったとは限らない。ヴェーダはアカギから二万匹の蟻を追加で譲り受け、俺に10分ほどで全て眷属化させたのち、急いで大森林の地中に潜らせた。



 結果、大森林各地に在る墓所から遺骸が消えている事が判明。


 かつてメチャが仕留めた冒険者達や、俺がラヴと出会った場所で弔ったゴブリン達のような比較的新しい遺体も消失。


 地下帝国の妖蟻族墓所も急いで確認したが、既に遺骸は消えていた。無論、妖蜂族も同じだ。


 白骨化した遺骨も、腐敗した遺体も区別無く消失していた。


 しかし、神気の結界で護られたガンダーラの領域内に在る墓所からは、遺骸の消失は認められなかった。


 ヴェーダは調査結果をカスガとアカギに告げる。


 アカギは酷く憤慨したらしいが、カスガは特に気にした様子も無く、「朕、ここに北伐を宣す」と呟き目を据わらせるアカギを宥めた。


 カスガは既に勝ちを確信していた、遺骸の消失はカスガの推測に新たな状況証拠を追加させたに過ぎない。


 遺骸が消えたという事実は、『ガンダーラに攻め込まない魔竜』という謎の答え。ガンダーラを護るカスガにとって重要なのはその一点のみ。


 マジで北伐5秒前状態のアカギに、カスガは微笑んで次のように言った。



「一族の亡き骸は外道の許に行ってなお『尽忠報族』を貫き、我々の勝利を知らせてくれているのだよ」



 そして、亡き骸は失っても魂が宿っていた魔核は失ってはいない。


 外道の許に向かったのは魂無きむくろのみ、外道に奪われたのはしゃくに障るが、奪還出来ないと決まったわけではないとアカギを慰める。


 それでも怒りが収まらないアカギに、死霊として奪われた先帝カガとムネシゲ王子を強調しつつ、「全ての遺骸は“ナオキが”取り戻すだろう」、カスガは優しくそう言って、アカギに微笑み掛けた。


 無茶振りが過ぎますぞ女王陛下…… 全部って、何体?


 苦笑しながら「そうね」と呟いたアカギは、冷たい妖蟻蜜入りの麦茶を一口飲んで「フゥ」と溜息を吐き、すぐに冷静さを取り戻したらしい。



 遺骸の奪還は全力でやらせてもらうとして、取り敢えず、カスガの作り上げたジグソーパズルを遠目から見てみよう。


 彼女はどんな絵柄のパズルを見ていたのか?


 それを知る為には、彼女が指す『魔竜の力』と言うモノを、抽象的ではなく具体的に知る必要がある。


 カスガの言う魔竜の『力』とは、魔竜がコアから『得られる・得た』能力を指している。そして、『力を持っていない』とは、コアに貯まってあるDP量の少なさを指している。


 つまり、コア自体が能力を使う、または魔竜がコアの能力を使う際のエネルギー量が少ない、そう言う意味で『魔竜は力を持っていない』、と、カスガは言ったわけだ。


 コアと契約して二百年間、深部の洞窟に籠っていた魔竜が力を持っていないとは思えないが、カスガの説明を聞けば納得出来る。


 魔竜が洞窟に籠って二百五十年――大規模な戦いだけに限定するが、初めの五十年で前王朝の軍とメハデヒ王国軍が計三回、地竜討伐の兵を大森林に向けている。いずれも地竜が洞窟内で撃退、コアも大量の生気を回収出来た。


 二回目と三回目の地竜討伐はメハデヒ王国軍だが、この三回目の討伐から四十年後、初代国王が崩御して長城が完成する頃、メハデヒ王国は久しぶりに地竜討伐の兵を大森林に向ける。そして鮮やかに敗北。


 その十年後に勇者が単独で地竜に挑み、死闘の末に敗北。


 しかし、この時は地竜も瀕死にまで追い込まれた辛勝、洞窟の壁を食べながら何とか命を繋ぐ。そして、コアを見付けて契約、魔竜となった。


 この契約は上級種の地竜にとって、かなり屈辱的な延命措置だったと思われる。


 人間にボロカスやられた挙句、生物でもないコアに助けて貰うというのは、プライドの塊である上級竜には堪えたはずだ。


 こうして地竜は魔竜となり助かったわけだが、コアもマスターを得てホクホクだ。


 コアには『契約主を得る』という疑似的な欲求、願望が設定されてある。人類以外のマスターが居ないという歴史的事実に鑑みれば、上級竜の契約主はコアにとって相当な大物だったに違いない。


 魔竜に対してのコアは、俺にとってのヴェーダと似ている。


 魔竜はダンジョン関連の説明とサポートをコアから受け、俺は世界の説明と助力をヴェーダから受ける。まぁ、ヴェーダの方が情報量は圧倒的だが、似た存在だ。



『失礼な』



 おっと、最高の女房と比べるのは野暮ってもんだな。



『え?ごめんなさい、聞こえなかった。もう三回言って下さい』



 もう三回っ!?

 いや言わないよ恥ずかしい。



『そうですか、残念です』



 そもそもタイプが違う。コアは攻撃力に優れた能力、ヴェーダは防衛特化だ。比較する意味は無いね!!


 それはさて置き、大事な契約主を得たコアだが、やはりダンジョンコアとしての仕事も放っては置けない。魔竜の補佐と共にダンジョンの拡張を進言するのも当然だ。


 魔竜が魔窟内で軍や勇者を屠ったお陰で、DPはタップリ有る。ダンジョン拡張や罠の設置、創造召喚も楽勝だっただろう。



 だがしかし、コアの期待と思惑は魔竜によって見事に外される。


 魔竜は上級竜、だが、眷属適性は『獣系』だった。

 即ち、基本創造召喚五種を除けば獣系養殖しか創造召喚出来ない。


 プライドの塊たる上級竜の眷属適性が獣系……


 コアに目があるのだとしたら、見事な白目剥きを見せてくれたに違いない!!


 これは『ざまぁ』と言えないなぁ……

 ハッキリ言ってムゴイ。


 と言っても特に同情しませんが。

 サイコゴリラ的には「でも僕に被害ないから」で終了。

 憐れむ表情を作りつつ思慮深さと優しさを演出するだけだなっ!!



『思慮深さ……??』



 え?

 何故か相棒から困惑の念が感じられる……


 何が彼女を惑わせたのか……解らないっ!!





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